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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

ベンゾ系薬物の影響(3)白内障手術後に違和感、服用歴を聞いてみると…

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 今まさにリアルタイムで進行中の、ベンゾジアゼピン(ベンゾ)眼症と思われる症例をお目にかけましょう。

 61歳の男性、Sさんは数百人の従業員を抱える企業のトップで、日々のストレスは大変なものだといいます。

 2か月前に当院で白内障両眼の手術を受けました。厚労省から認められている先進医療、「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」を施行したのです。

 遠近2か所に焦点が合うように設計されているレンズです。便利ですが、従来の単焦点と比べてコントラストがやや低下するとか、にじんで見える現象が生じうることが欠点として挙げられています。

 Sさんは、その説明を了承して手術を受けたのでした。

 手術は完璧で、眼科検査でも良好な結果を得ましたが、日常視においてSさんはどうしても違和感が生じるといいます。担当医のやがて慣れるはずとの説明にもかかわらず、霧がかかるような見え方(霧視)や、まぶしい感じが日に日にひどくなってきたのでした。

その間、会社のこともいろいろたまり、不安、不眠にさいなまれていました。

 とうとう、自分には多焦点は合わないから、単焦点と入れ替えてくれという事態になりました。

 多焦点においては、遠近を見る時のスイッチは眼内レンズの中にはなく、脳の働きでスイッチするものと考えられます。ですので、高齢者の中にはどうしても適応せず、入れ替えを希望する例が、年に1、2例は出るものです。

 ですが、Sさんは白内障としては、比較的若いですし、多焦点の得失を十分理解したうえで手術を受けたものと思われます。それでも、入れ替えを強く希望されたため、手術を計画し、同時に私の心療眼科外来を受診することとなりました。

 内服歴を聞きますと、10年前から不眠のため、アルプラゾラム、ゾルピデムを毎日内服していました。1回目の手術後、それでもひどい不眠が続くので処方医に相談したところ、量を2倍内服しなさいといわれました。それでも、目に対する不安が仕事にも影響するということで、別のメンタルクリニックを受診したところ、「急性ストレス障害」と診断されて、なんとまた別のベンゾ系薬物を処方されたのです。

 私はベンゾ眼症そのものであると診断しました。霧視もまぶしさもそこから来ている。もしかすると、白内障手術をするきっかけとなった、見え方の不調さえも、ベンゾ眼症からかもしれないと思いました。

 多焦点レンズにおける脳のスイッチがうまく働かなかったのも、ベンゾ系薬物で脳のコンピューターの性能を低下させたからだと考えれば、納得がいきます。

 レンズ入れ替え後の生活はこれからですが、私はベンゾ眼症の原因を取り除いていかなければ、快適な視力を享受した生活は望めないだろうと考え、私が最も信頼している神経薬理学の専門家でもある精神科医に紹介しました。

 その 顛末(てんまつ) は、またの機会にとりあげることにいたしましょう。

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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