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基礎からわかるiPS細胞10年(1)実用化に向けた進展は

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基礎からわかるiPS細胞10年(1)実用化に向けた進展は
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 iPS細胞(人工多能性幹細胞)の誕生から10年――。

 山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所長が2006年に作製を発表したiPS細胞の研究は、山中所長自身の予想を超える速さで進んでいる。目の難病の患者に移植する世界初の臨床研究が実施され、他の様々な病気への応用や実用化に期待が高まる。10年間を振り返り、今後を展望する。

がん化抑え移植実現

 私たちの体は、1個の受精卵が分裂や増殖を繰り返し、様々な機能を持つ細胞に変わることで出来ている。皮膚や血液になった細胞を、元の受精卵のような状態に戻すことはできないと考えられてきた。その常識を覆したのが、iPS細胞の誕生だった。

 山中所長らは、皮膚の細胞に4種類の遺伝子を導入する方法で2006年8月にマウス、07年11月に人間の細胞をもとに、無限に増やすことができ、体の様々な細胞に変えられるiPS細胞を作ったと発表した。

 iPS細胞から変化させた細胞を利用し、組織や臓器の機能を回復させる再生医療への応用が期待された。だが作製に使う遺伝子4種類のうち一つはよく知られたがん遺伝子で、がん化の危険の克服が最大の課題だった。

 山中所長らは、この1種類を使わない方法を模索したが、それを除くと作製効率が落ちた。がん遺伝子を含まず、作製効率も落ちない方法が探索され、6種類の遺伝子などが見つかった。

 遺伝子を皮膚の細胞に入れる方法も改良した。遺伝子を組み込んだウイルスを細胞に導入する当初の方法では、細胞内のDNAを傷つけ、がん化する恐れがあった。山中教授らは、細胞内のDNAを傷つけないように、輪の形のDNA「プラスミド」に遺伝子を組み込んで導入する方法を編み出した。沖田圭介・京大iPS細胞研究所講師は「がん化が起きにくいiPS細胞ができた」と胸を張る。

 こうした改良の積み重ねのうえに実現したのが、14年に高橋政代・理化学研究所プロジェクトリーダーらが行った、iPS細胞から作った網膜の細胞を目の難病患者に移植する世界初の臨床研究だ。「10年以内に患者への移植が実現するとは夢にも思っていなかった」。山中所長も、この10年で最も重要な出来事に挙げる。1例目の患者に重大な問題は起きていない。

 また、iPS細胞を血液から作る方法も開発され、作製のために皮膚を傷つけずに済むようになった。

 最初の臨床研究では、iPS細胞や移植用に変化させた網膜細胞の全遺伝情報を調べた。がん化の危険を考慮した厚生労働省の有識者会議に求められたためだ。しかし、がんとの関連が評価できない遺伝子変異まで調べる必要があるのか、ルールがない中、研究者の間で混乱もみられた。

 厚労省の研究班は16年、iPS細胞を使った再生医療の臨床研究を行う際の安全確保の指針を公表。iPS細胞と移植用の細胞について、がん関連の遺伝子615種類に絞って異常がないか確かめることを研究者に求めた。

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