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がん診療の誤解を解く 腫瘍内科医Dr.勝俣の視点

医療・健康・介護のコラム

トンデモ医療に引っかからないために(上)患者さんを利用したビジネスは「人権無視の人体実験」

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一般書籍のがん情報も信頼できないものばかり

 インターネットだけでなく、一般書籍になりますと、もっとひどい状況になります。

 一般の書店に行ってみて、がん関連の書籍を見てみると

 “がんが消えていく食事”

 “がんを滅ぼす免疫療法”

 “末期がん逆転の治療法”

 “末期がんを消した奇跡の○○療法”

 “がん治療の95%は間違い”

 など、医師が書いた書籍もたくさん並んでいます。

 医師が書いた本だからと、患者さんや一般の方もつい信じてしまうのではないでしょうか。

 大変残念なことに、このような書籍は、医学的根拠に基づかない、個人の意見、感想であるものがほとんどです。

 “奇跡の○○治療“などは、普通に見たら、”怪しい“と思ってしまうものも、「医師が書いているから」、また、実際にがんになってみると「 (わら) にもすがる思いで」手を出してしまうのだと思います。

 一般書籍の中にもきちんとしたことを書いたものも存在します。しかし、残念ながら、このような本はあまり手にとられることがなく、販売部数も少なくなるために、一般書店に置いてもらえることが少なくなってしまいます。

 ちなみに、私が書いた一般向けの書籍(10、11)も、きちんとした情報を書いたせいか(?)、やはり発売部数が伸び悩み、一般書店にはほとんど置いてもらえないという現実です。

 一般書籍に関しては、インターネットよりも、規制が弱いためにこのような状況になっているものと思います。

医師が行うトンデモ医療とは?

 医師は、保険診療以外に、保険適用外の自由診療も認められています。

 自由診療でかかる医療費は医療者側が自由に決められます。患者さんと医療機関との間の取り決めによって行われるものですので、医療法や医師法に従うことが前提ですが、診察内容や費用については制限がありません。

 美容形成外科など、病気の範ちゅうでないものに関しては、自由診療で行うことは、問題ないと思いますが、がん診療ではどうでしょうか?

 医師が行う医学的根拠に基づかない医療行為は、患者さんには、メリットをもたらさないため、トンデモ医療と思います。

 保険診療は、保険適用に基づいて行われるので、ある程度規制がなされますが、自由診療になりますと、保険診療の規制外になりますので、“何でもあり”の状況になります。

 例えば、私が、“がんに効く奇跡の水”と称して、自由診療で1杯100万円で患者さんに売りつけたとしても、この行為を直接規制する法律は存在しないのです。

 日本では、がん治療現場で、自由診療で行われているトンデモ医療が大はやりの状況があります。

 がん免疫療法をはじめ、高濃度ビタミンC療法、一部の放射線治療クリニックも「トンデモ医療」に属すると思います。がん医療をすべて否定するセカンドオピニオンクリニックも該当すると思います。

 これらの施設のホームページを見ますと、あたかも医学的根拠があるような記載があるので、困ったものだと思います。

大量ビタミンC療法のエビデンス

 例えば、民間のクリニックでもよく行われている大量ビタミンC療法は実際に効果が実証されているのでしょうか?

 大量ビタミンC療法は、がんに効果があることが期待され、海外で多くの研究がなされました。

 しかし、最近報告されたシステマティックレビュー(これまでの医学研究を網羅的に集めて、厳しくレビューしたもの)(12)を見てみますと、

 これまでに、5つのランダム(無作為)化比較試験(経口、点滴ビタミンCを含む)(患者数322名)、12の臨床第I/II相試験(患者数287名)、6の観察研究(患者数7599名)、11の症例報告(患者数267名)をレビューした結果、大量ビタミンC療法に明らかな効果があるという結論には至りませんでした。また、大量ビタミンC療法によって、抗がん剤の副作用が減るということも証明できませんでした。

 この論文の著者らは、高額な治療費がかかり、無駄な時間も費やしてしまう可能性もあること、また、大量ビタミンC療法を行うことによって、赤血球が破壊される溶血や腎障害などにより死亡するリスクがあることも患者さんに伝えるべきであることに加えて、質の高い臨床試験としてのみ患者さんに提供されるべき、と結論づけています。

 私もこの著者の意見に賛成です。

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katsumata

勝俣範之(かつまた・のりゆき)

 日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授

 1963年、山梨県生まれ。88年、富山医科薬科大卒。92年国立がんセンター中央病院内科レジデント。その後、同センター専門修練医、第一領域外来部乳腺科医員を経て、2003年同薬物療法部薬物療法室医長。04年ハーバード大学公衆衛生院留学。10年、独立行政法人国立がん研究センター中央病院 乳腺科・腫瘍内科外来医長。2011年より現職。近著に『医療否定本の?』(扶桑社)がある。専門は腫瘍内科学、婦人科がん化学療法、がん支持療法、がんサバイバーケア。がん薬物療法専門医。

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4件 のコメント

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医療の宗教性と多様性 宗教問題から学ぶ

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

トンデモ医療を非難するだけでなく、構造問題を考えることが大事です。 標準医療普及の欠点はその理論や実行の不完全性の問題だけではなく、宗教的側面が...

トンデモ医療を非難するだけでなく、構造問題を考えることが大事です。
標準医療普及の欠点はその理論や実行の不完全性の問題だけではなく、宗教的側面があり、その対比構造は大事です。
追い詰められた人間の心理的弱点を狙うという意味ではカルト宗教にも似ています。
「救いがない」ことと「積極的な完治の手法がない」ことは似ています。
利益を現世に求めるか否かもそうですが、奇跡を信じたいか否かやそういう気持ちをどういう風にケアするかも争点になります。

数学のXYグラフのように、基準点(先進医療や標準医療)が前に進めば、その後ろにはマイナスになってしまう領域が発生します。
そこに発生した混乱に、トンデモ医療という商売をねじ込もうとする人間が出てくるのは自然で、むしろ、それをどうカバーするかのシステム設計が大事になります。

科学やその理解と運用には制約や限界がありますが、人間の欲望や感情には限界がない事もポイントです。
無理を無理と言えなくなれば、そこに嘘が発生します。
地域と病院のメンツと採算で、医師と患者が板挟みになり、双方が不幸になります。
地域によって医療崩壊が発生するのはこれが原因ですし、群馬大学の腹腔鏡手術などの問題もそうでした。
標準医療に混じった無理や嘘はトンデモ医療の格好の餌食です。

バルサルタンなどの捏造論文や手術の証拠隠滅、カルテ改ざんなど、標準医療を推進する側の問題に対する処罰や改善もなく、もっとトンデモな医学を非難するだけだと、最後は宗教戦争と同じで、己の立場の正義を守るための暴虐がエスカレートし、何のための正義かよくわからなくなります。

そういう点でも、過去の宗教問題に学ぶ必要があります。
トンデモ医療に勝つことではなく、最大多数への適正医療の推進がゴールのはずですから。

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残念でした

踊らされた患者家族

父が食道がんになり、すがる思いでインターネットでの患者さんのブログから、どんなものを使って効果があったかを検索する日々でした。手軽にできる、一度...

父が食道がんになり、すがる思いでインターネットでの患者さんのブログから、どんなものを使って効果があったかを検索する日々でした。手軽にできる、一度購入してしまえばずっと使える・・といううたい文句で2つで5万円もするラジウム入り枕というのを購入。
その効果もあったかどうかも分かりませんが、先日父は他界してしまいました。悲しい気持ちとともに、そういったウソにひっかかってしまう人たちに少しでも気を付けていただければと、商品の感想には、“効果なし”ということで投稿しました。
治療方法もたくさんありますが、検索すればするほど嘘くさく、手術により体力がなくなった父には残念ながら何も試せませんでしたが、こういった患者や患者家族の不安につけこむような商売、ほんと法律で裁けるようにしてほしいです。

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ガン患者は混乱する!

うみ

そうですね!勝俣先生は正しいと思います。いろいろな情報がネットや書籍を通し氾濫していて、何を信じたらいいのか?私の担当医の先生は振り回されてはい...

そうですね!勝俣先生は正しいと思います。いろいろな情報がネットや書籍を通し氾濫していて、何を信じたらいいのか?私の担当医の先生は振り回されてはいけないと言います!私もそう思います。ただ気になり見てしまうのも、事実です!

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