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がん診療の誤解を解く 腫瘍内科医Dr.勝俣の視点

医療・健康・介護のコラム

トンデモ医療に引っかからないために(上)患者さんを利用したビジネスは「人権無視の人体実験」

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 がん患者さんにとって、10年くらい前までは、がん情報を探すのが大変でした。

 逆に、現在では、洪水のように、がん情報があふれています。

 どうやって正しいがん情報にアクセスしたらよいのでしょうか?

 利用するがんの治療法の情報源としては、平成26年度の世論調査のデータ(1)によると、

 「あなたは、がんと診断されたら、ご自身のがんの治療法や病院について、どこで情報を入手しようと思いますか?」という質問に対して、次のような結果でした。

 病院・診療所の医師・看護師が60.3%と最も高く、次いで、がん拠点病院のがん相談支援センター(45.2%)、インターネット(35.6%)、家族・友人・知人(32.5%)、国立がん研究センターのウェブサイト(19.3%)の順になっています。

 これを、50歳未満の人で見てみますと、インターネットは、トップとなります。

 このように、スマホ所有率が国民の7割を超えた現代では、インターネットは、現代人にとっては、がん情報源として欠かせないものになっています。

インターネットのがん情報は信用できない

 ではインターネットのがん情報はどれだけ信頼できるのでしょうか?

 国立がん研究センターの後藤医師の調査によると、インターネットで正しいがん情報にヒットする確率は、50%以下であったという報告があります(2)。

 インターネットの情報は、玉石混交です。

 “がん治療”とインターネットで検索してみると、トップに出てくるのは、怪しいクリニックの広告ばかりです。

 検索上位に上がるものも、

 “体にやさしいがん治療”

 “がん自由診療・先端医療”

 “がん免疫療法とは?”

 などと、一見、まともそうに見えるものも、よく中を見てみると、保険の効かない自由診療の免疫療法などのクリニックにリンクしていたりします。

 確かに後藤医師の調査結果どおり、インターネットのがん情報は、半分以上は信頼できそうもないものばかりというのは、間違いありません。

適切なインターネット情報とは?

 後藤医師の報告では、米国のインターネットサイトでは、80%が正しい情報であったとのことです。

 米国では、NPO、公的機関が多くの適切ながん情報を発信しています。また、HONコード(3)や、URAC(4)などの第三者機関が適切な医療情報サイトであるかどうかを認証するシステムが発達していますので、日本のような状況と異なっているのだと思います。

 HONとは、「Health On the Net Foundation」というスイスに本部を置く非営利団体です。

 8つのガイドラインを満たすと、HONコードと呼ばれる認証ロゴが得られます。

 <コンテンツ8つのガイドライン>

  1.  Authority(健康アドバイスは、専門教育を受けた者が提供すること)
  2.  Complementarity(医師と患者との関係をサポートする範囲までの情報であること)
  3.  Confidentiality(個人のプライバシー保護を遵守すること)
  4.  Attribution(必要なリンクの提示、最終更新日の表示をすること)
  5.  Justifiability(偏りのない公正な情報を提供すること)
  6.  Transparency of authorship(コンテンツ制作者の連絡先やユーザー サポート先を表示すること)
  7.  Transparency of sponsorship(スポンサー企業がある場合は明確に表示 すること)
  8.  Honesty in advertising & editorial policy(広告とオリジナル情報の 区別、広告ポリシーを提示すること)

 HONコードは、世界72か国、8000のインターネットサイトで認証されています。

 日本でこのHONコードを取得しているのは、NPO法人キャンサーネットジャパン(CNJ)のホームページ(5)と、CNJが運営しているキャンサーチャンネル(6)の2つしかありませんでしたが、最近、ヘルスケア大学のサイトが日本で3番目にHONコードを取得しました(7)。

 日本では、医療法による“医療広告ガイドライン”があり、誇大広告はもちろん、効能効果についても厳しく規制がなされています(8)。

 しかし、この医療広告ガイドラインでは、インターネット上の情報は、原則、広告とはみなさない、と記載されています。

 インターネットは、個人で検索し、使用範囲が限定されているため、広告ではない、とみなされているのだと思いますが、昨今のインターネット状況は、誇大広告や、エビデンス(科学的根拠)のない効能効果などが満載されていて、有害なサイトが増えており、それにより、患者さんが被害を被っている状況が後を絶ちません。

 ようやく厚生労働省も、医療機関のホームページでの虚偽、誇大な表現を規制する新たなガイドラインを作成する方針を決めた(9)ということですので、がん情報も適正になることを期待したいと思います。

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katsumata

勝俣範之(かつまた・のりゆき)

 日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授

 1963年、山梨県生まれ。88年、富山医科薬科大卒。92年国立がんセンター中央病院内科レジデント。その後、同センター専門修練医、第一領域外来部乳腺科医員を経て、2003年同薬物療法部薬物療法室医長。04年ハーバード大学公衆衛生院留学。10年、独立行政法人国立がん研究センター中央病院 乳腺科・腫瘍内科外来医長。2011年より現職。近著に『医療否定本の?』(扶桑社)がある。専門は腫瘍内科学、婦人科がん化学療法、がん支持療法、がんサバイバーケア。がん薬物療法専門医。

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4件 のコメント

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医療の宗教性と多様性 宗教問題から学ぶ

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

トンデモ医療を非難するだけでなく、構造問題を考えることが大事です。 標準医療普及の欠点はその理論や実行の不完全性の問題だけではなく、宗教的側面が...

トンデモ医療を非難するだけでなく、構造問題を考えることが大事です。
標準医療普及の欠点はその理論や実行の不完全性の問題だけではなく、宗教的側面があり、その対比構造は大事です。
追い詰められた人間の心理的弱点を狙うという意味ではカルト宗教にも似ています。
「救いがない」ことと「積極的な完治の手法がない」ことは似ています。
利益を現世に求めるか否かもそうですが、奇跡を信じたいか否かやそういう気持ちをどういう風にケアするかも争点になります。

数学のXYグラフのように、基準点(先進医療や標準医療)が前に進めば、その後ろにはマイナスになってしまう領域が発生します。
そこに発生した混乱に、トンデモ医療という商売をねじ込もうとする人間が出てくるのは自然で、むしろ、それをどうカバーするかのシステム設計が大事になります。

科学やその理解と運用には制約や限界がありますが、人間の欲望や感情には限界がない事もポイントです。
無理を無理と言えなくなれば、そこに嘘が発生します。
地域と病院のメンツと採算で、医師と患者が板挟みになり、双方が不幸になります。
地域によって医療崩壊が発生するのはこれが原因ですし、群馬大学の腹腔鏡手術などの問題もそうでした。
標準医療に混じった無理や嘘はトンデモ医療の格好の餌食です。

バルサルタンなどの捏造論文や手術の証拠隠滅、カルテ改ざんなど、標準医療を推進する側の問題に対する処罰や改善もなく、もっとトンデモな医学を非難するだけだと、最後は宗教戦争と同じで、己の立場の正義を守るための暴虐がエスカレートし、何のための正義かよくわからなくなります。

そういう点でも、過去の宗教問題に学ぶ必要があります。
トンデモ医療に勝つことではなく、最大多数への適正医療の推進がゴールのはずですから。

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残念でした

踊らされた患者家族

父が食道がんになり、すがる思いでインターネットでの患者さんのブログから、どんなものを使って効果があったかを検索する日々でした。手軽にできる、一度...

父が食道がんになり、すがる思いでインターネットでの患者さんのブログから、どんなものを使って効果があったかを検索する日々でした。手軽にできる、一度購入してしまえばずっと使える・・といううたい文句で2つで5万円もするラジウム入り枕というのを購入。
その効果もあったかどうかも分かりませんが、先日父は他界してしまいました。悲しい気持ちとともに、そういったウソにひっかかってしまう人たちに少しでも気を付けていただければと、商品の感想には、“効果なし”ということで投稿しました。
治療方法もたくさんありますが、検索すればするほど嘘くさく、手術により体力がなくなった父には残念ながら何も試せませんでしたが、こういった患者や患者家族の不安につけこむような商売、ほんと法律で裁けるようにしてほしいです。

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ガン患者は混乱する!

うみ

そうですね!勝俣先生は正しいと思います。いろいろな情報がネットや書籍を通し氾濫していて、何を信じたらいいのか?私の担当医の先生は振り回されてはい...

そうですね!勝俣先生は正しいと思います。いろいろな情報がネットや書籍を通し氾濫していて、何を信じたらいいのか?私の担当医の先生は振り回されてはいけないと言います!私もそう思います。ただ気になり見てしまうのも、事実です!

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