QOD 生と死を問う 第2部
連載
[QOD 生と死を問う]救急と看取り(3)臨終の間際、特養から119番
大半の医師は非常勤、職員不足も課題
自宅で暮らせなくなった高齢者の“
「えっ、息をしてない!」
神奈川県内の特養で、介護職員が98歳の女性の異変に気付いたのは昼食時。女性は全身の機能が衰え、食べることもできない状態だったが、外の空気に触れてもらおうと、普段通り個室に迎えに行った時だった。
「どうしたらいいのか」。職員は、施設と契約する医師に電話をかけたが、別の病院で勤務中で全くつながらない。以前から、女性の家族は「高齢だし、延命治療は望まない」と話していたが、職員は「後で家族ともめても困る」と焦り、119番通報した。女性は駆けつけた救急隊員から心臓マッサージを受け、救急車で病院へ運ばれたが、そのまま死亡が確認された。
「延命治療を望んでいるわけでもないのに、看取り間際や呼吸停止後に、施設から搬送されてくるケースは珍しくない」と、同県内の病院の救急医は話す。なぜ、そうした事態になるのか。
看取りに力を入れる横浜市の「松みどりホーム」の小倉徹施設長は、「臨機応変に対応してくれる医師が欠かせないが、見つけるのは簡単ではない」と指摘する。全国老人福祉施設協議会が約2000施設に行った調査でも、看取りができない理由は「いつでも医師が対応可能な体制がとれない」が最多だった。
特養には医師の配置義務がある。その9割は開業医や勤務医など非常勤で、週1、2回の訪問で健康管理を行う。看取りは定期的な訪問だけでは対応できないが、夜間や休日でも応じられる医師ばかりではない。「中には、連絡しても救急車を呼んでと指示するだけの医師もいる」と、ため息をつく関係者もいる。
施設側にも課題がある。
千葉県の「辰巳
しかし、看取りの研修まで手が回らないなど、慢性的な人手不足に悩む特養は多い。死に不安を抱く職員も多く、別の特養で働く女性(26)は「夜は2人で40人の高齢者を見守る。生死にかかわることがあったら怖い」と顔をこわばらせる。
小出施設長は「看取りのニーズは高まっており、深夜の呼び出しや家族への対応など医師にばかり負担はかけられない。施設の覚悟と力量が問われる」と言う。
30年以上にわたり、松みどりホームで看取りを支える柳川荘一郎医師は、「本人はどんな最期を望んでいるのか。我々医師と施設職員との間での情報共有はもちろん、家族にも死期が近いことを包み隠さず説明し、みんなで考え、支え合うことが大事だ」と話している。
家族との信頼関係が大事
超高齢社会を迎え、特養など施設での
人が息を引き取った後、医師が診察し、以前から診ていた病気が原因で亡くなったと判断すれば「死亡診断書」を書く。これがなければ死亡届や火葬などその後の手続きに進めない。
厚生労働省の2012年の通知では、医師は診療中の患者が亡くなった場合、立ち会えなくても後に診察すれば良いとしている。医師法20条によると、診察から24時間以内の死亡なら改めて診なくても診断書を書くことができる。
太田理事長は「丁寧に診療していればほとんどの場合は死期を予測でき、家族や職員に伝えることができるが、できていない医師もいるのだろう。施設は看取りに理解のある医師を見つける努力が必要だが、最も重要なのは、家族と施設と医師がコミュニケーションをとることだ」と指摘する。
◎QOD=Quality of Death(Dying) 「死の質」の意味。
(手嶋由梨)
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