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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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抗がん剤が効く確率、イチローの打率と同じ!?

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 イチロー選手の大リーグ通算3000本安打で盛り上がっていますね。2001年に大リーグのシアトル・マリナーズに入団してから、ニューヨーク・ヤンキース、そしてマイアミ・マーリンズで試合に出場し、そして16年目が今年です。 (すご) いですね。通算打率も3割1分4厘です。ほぼ3回に1回はヒットを打っている勘定になります。

 正確に言うと、打率はヒット数が分子で分母は打数です。打数は打席数(実際にバッターボックスに立った数)から四球、死球、犠打、犠飛、打撃妨害の数を引いたものです。イチローは約9500打数で3000本近いヒットを打っていますが、実際の打席数は四球、死球、犠打、犠飛などが加えられるので、約10300回です。ともかく、1万回近くバッターボックスに立って、3000本のヒットを打ったということで凄い記録ですね。そして3割以上の打率を残しているので、「よく打つバッター」となります。

 でも、よく考えてください。約1万回のバッターボックス登場で、3000本近いヒットを打ったとしても、実は約7000回はヒットを打っていないということになりますね。でも野球を少しでも知っている人は、かならずヒットを打つバッター、つまり打率10割というバッターは存在しないことも知っています。1年間を通して打率4割を超えるバッターさえ日本ではまだ登場していません。メジャーでは過去に13回、打率4割を超えるバッターがいましたが、最後の4割バッターは1941年のテッド・ウィリアムスで、その後は現れていません。「よく打つ」という文言は、野球では3割が妥当だろうと多くの人は知っているということです。

「抗がん剤が効く」と言われて想像する数字は…

 さて、抗がん剤に話を移しましょう。「抗がん剤がよく効く」と言われると、どのくらいの数字を想像されますか。医療で患者さんが「よく効く」と言われて、想像する数字は野球とは違いますね。多くの方は8割以上に効くと思うでしょう。僕は実際の臨床現場で、「やっぱり良く見積もっても野球の打率と同じ、つまり3割ぐらいだろう」と説明しています。しかし、がんの治療は進歩しましたよ。外科治療も30年前に比べると安全になりました。また放射線治療も進歩しています。抗がん剤も新しいものがどんどんと開発されています。そんないろいろな治療を組み合わせて、そして昔は不治の病と思われていたがんにも希望が開けています。しかし、単独の治療でも効果が8割などということはごく (まれ) ながん以外はあり得ません。そんな言葉から受けるイメージは、患者サイドと医療サイドの誤解を生むひとつのきっかけになります。患者サイドも単独の治療は野球と同じような成功率だと理解し、医療サイドも患者さんは往々にして実際よりも過度の期待をするものだと思っておくことが大切です。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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