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医療・健康・介護のニュース・解説

群大病院、第三者委員会提言の要旨

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  【診療】

 ▽旧第一外科と旧第二外科の統合を進める。同じ肝胆膵外科を専門にする医師がいながら、間に壁があり、互いに協力する体制になかった。また細分化で人数も少なくなっていた。昨年4月、二つの外科は外科診療センターに統一された。しかし、まだ、教育母体である大学の体制改編も医師派遣先の関連病院間の人事交流も実現していない。さらに積極的に壁を解消する必要がある。

 ▽より安全で無理のない手術体制を取っていく。今回の問題の背景には、病院の規模に比べて、限界に近いほど手術件数が増加していったことがある。病院幹部は、手術件数のみで評価する姿勢であってはならず、手術部長は全体を見渡して、件数や手術時間を管理する責任がある。

 ▽主治医制からチーム体制に移行する。複数の医師がチームとして回診を週2、3回行い、その度に診療方針を確認・修正し、記録を残していくことが必要だ。

 ▽手術を行うかどうかの判断をより厳格に行う。原則として、手術を行う前に医師らによる症例検討会を2回経る必要がある。検討会の結果は患者に伝え、他に取り得る治療法や手術のリスクをわかりやすく説明し、例えば説明文書を持ち帰ってもらい、熟慮してもらう。この検討会の記録を保存し、データベース化すれば貴重な資料になる。

 ▽医師は、提供した情報の質と量が、患者が自己決定するのに十分だったかどうか常に配慮する。質と量を患者に評価してもらうシステムの導入も効果的だ。

 ▽手術を行うべきかどうか、患者が熟慮する時間を確保する。入院前に外来で訪れた時点では、手術を受けるかどうかまだ後戻りができる。ここで医師が他の治療方法との比較や手術のリスクについてよく説明し、患者に時間をかけてよく考えてもらう。

 ▽医師にとって診療録を書くことは診療の質向上のための重要な業務だと強く認識するべきだ。診療行為の後すぐに、行った内容とその判断の過程を記録し、後から点検できるようにしなければならない。

 ▽外科手術後に合併症が生じた場合、重症度などを判定し、記録することが望ましい。こうしたデータの蓄積によって、例えば切除範囲ごとの合併症の発生率が明らかになり、安全に手術を行う指標になる。

 ▽死亡症例と重大な合併症例はすべて症例検討会を開く。他の診療科の医師や他職種、そして外部の専門家も参加できるようにして、詳細な記録を残して再発防止につなげるべきだ。

 ▽緊急ではない、予定された手術後に早期に死亡した事例については、遺族を説得して病理解剖を行うべきだ。遺族感情を考えると難しいところもあるが、死亡に至った経緯を誠実に伝え、承諾を得る努力をするべきだ。また普段から、病理解剖の有効性を伝えるパンフレットなどで啓発活動を行うことも大切だ。

 ▽高難度の手術を行う場合は、専門知識と技能を得るまで、指導する上級医のもとで規定の件数を助手として務め、その後も十分な技能と判断されるまで上級医によって監督されなくてはならない。

 ▽高難度の手術を行う場合は、無編集の動画を録画することを推進する必要がある。外部の専門家に動画を見せ、改善点を指摘してもらえば技術の向上につながる。

 ▽手術技能以外の能力も向上させる仕組みを作る。手術チームとしての状況認識、チームワーク、リーダーシップ、ストレス管理、疲労管理などの能力は手術結果を左右する。

  【倫理】

 ▽安全性が確認されていない医療行為については、倫理審査を経ずに行ってはならない。群馬大病院では問題発覚後、規定の改正などを行って、こうした医療行為を倫理審査の対象とするようになった。これらの仕組みを関係するすべての職員に周知徹底し、事務局体制を強化し、教育、研修を行い、審査の質を担保していかなければならない。

 ▽倫理審査が必要な腹腔鏡手術に関する研究論文が倫理審査を経ずに投稿、掲載されていた。重大な問題と受け止め、検証を行い、チェック体制と研究倫理教育の強化を行うべきだ。

  【医療安全】

 ▽全死亡例の中にどれだけ重大な医療事故が含まれているかを把握し、対策や改善の効果を院内外に発信していくべきだ。

 ▽医療安全管理部門を全部門の上位に位置づけ、医療安全管理の経験が豊富な医師を専従部長にし、権限を強化する。

 ▽医療安全の重要性を医局員の末端にまで浸透させる。各診療科の安全担当の権限を明確に示す要綱を策定し、機能しない担当者は交代させる。

 ▽症例検討会に他診療科の医師が1~2人参加し、会の内容や参加者の記録、日常の診療の記録などが適切に行われているか相互チェックする。

 ▽重大な医療事故が起きた場合、最初から外部委員を中心とする医療事故調査委員会を設置することを標準とするべきだ。

  【教育】

 ▽実践の場で、患者の権利や、それを医療現場でどう尊重し、どう守っていくべきかという方法と医療安全について学ぶ。教える教員の育成も急務だ。

 ▽病院全職員が、インフォームド・コンセント(説明と同意)の真の意味と患者の自己決定権を尊重する情報提供について学ぶ研修を受ける。単なる講演会ではなく、例えば少人数で具体的事例について話し合う。

  【労務管理】

 ▽医師の多忙な勤務状況が、患者・家族への説明が深夜になり、診療録の記載や手術後の管理に十分な時間が割けないなどの状況を生んだ。すべての診療科長は、医局員の勤務状況を再点検し、過剰勤務にならないよう、手術数や人員配分などの適切な管理を行う必要がある。チーム制を充実させるなどし、特定の医師に業務が集中しないようにする配慮も求められる。

  【日常的な診療の質評価】

 ▽大学に、医療事故の防止、医療の質を評価し、向上させる手法を学ぶ「医療の質評価学講座」を新設する。群馬大病院の医療の質・安全管理部と連動させ、そこで活躍できる人材を輩出していくことも重要だ。

  【患者参加の促進】

 ▽外来患者に、原則としてすべての医師が診療データの写しを提供する仕組みを1年をめどに構築する。正確でわかりやすい情報提供は、患者・家族が治療法の選択をし、セカンド・オピニオンを受けるためにも欠かせない。

 ▽入院中の患者や家族が、電子カルテを閲覧できる仕組みを1年をめどに整備する。診療録の共有は、患者や家族からの情報提供につながるという認識が必要だ。

 ▽「群大病院医療安全週間」を設け、一連の事故の教訓を風化させない取り組みを毎年、少なくとも10年程度は続ける必要がある。医療事故を経験した本人や遺族による講演会などを行うよう提言する。

 ▽多くの遺族は、一連の死亡事故を再発防止に生かしていくことを望んでいる。今後設置する医療事故調査委員会などへの参加を遺族に要請することを推奨する。

  【改革に向けた組織体制】

 ▽今後、群馬大病院を改革するには様々な旧態のしがらみを断つ必要がある。医学部出身者でない学長による改革が必要だ。今後、5年程度はこうした体制の継続が望まれる。

  【外部機関への要望】

 ▽日本肝胆膵外科学会が認定する指導医、専門医の手術実績基準では、手術記録に名前があれば、参加していなくても実績として登録可能ということがわかった。学会は対策を講じるべきである。

 ▽医療機関からの保険診療への疑義照会に対し、地方厚生局による電話による回答は、誤解が生じる恐れがあるため、書面で回答することが望ましい。

  【おわりに】

 ▽提言の実現には、病院の組織文化や風土の変化が求められるものもあり、短期間で達成することは容易ではないが、全職員が一丸となって取り組み、実現していかなければならない。

 ▽群馬大病院で指摘された問題点は、全国の病院にも多かれ少なかれ存在すると考えられる。本委員会の提言によって「群大病院の医療は完全に変わった、群大病院の経験によって日本の医療は変容する」となることを祈念してやまない。

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