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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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野球も医療も…新しい技術と経験の積み重ねで進歩

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 今日は、再び野球のお話。黒田博樹投手が日米通算200勝を達成しました。野茂英雄さんに次ぐ快挙だそうです。日本球界だけでの通算勝利記録は金田正一さんの400勝を筆頭に、200勝以上を成し遂げた投手は24人います。

 イチロー選手の日米通算最多安打で、「認める」とか、「認めない」とかの議論がありましたが、黒田投手の記録については、そんなことを言う人はいないでしょう。理由は簡単で、基本的に誰もが、アメリカの方が日本よりもレベルが上だと知っているからです。メジャーリーグで控え選手だった人が、日本に来たらクリーンアップを打ったり、マイナーリーグの投手が日本で活躍したりしています。そして、日本選手が全員メジャーリーグで活躍できる訳ではありません。メジャーリーグの記録に日本プロ野球の記録を合算することには当然に異論が出ますが、日本プロ野球の記録にメジャーリーグの記録を合算することには異論が出ないのです。

ツーシームを武器に活躍した黒田投手

 野茂さんが黒田投手と違うのは、日本球界では速球派で、そこにフォークボールなどの変化球を交えて三振を奪っていくタイプの投手だったことです。野茂さんはそれをアメリカでも貫き通しました。ところが黒田投手は投球スタイルを変えました。わずかにボールが打者の手元で変化するツーシームという変化球を身につけて、それを武器にして内野ゴロの山を築くといった作戦です。

 このツーシームという変化球、わかりますか? 英語ではtwo-seam fastballと書きます。シームとは縫い目のことで、野球のボールは二つの革を縫い合わせて出来ていますが、ボールが1回転する間に、その縫い目が2回通過するように握って投げる球が、ツーシームです。一方で純粋な直球やストレートといわれる球は、フォーシームと呼ばれます。英語ではfour-seam fastballでボールが1回転する間に、縫い目が4回通過するように握って投げます。言葉でわかりにくい時は、実際の野球のボールを自分で握ると簡単に理解できますよ。

 そして、縫い目はつるつるしてボールからは少々はみ出していますので、回転すると空気抵抗になります。そしてフォーシームではその回転が浮き上がる力(揚力)を生み出します。しかし、上から投げ下ろすときに、球が実際に浮き上がることはありません。通常よりも落ちる度合いが減るということです。ですから、ツーシームでは、縫い目が1回転で2回しか通過しないので、4回通過するフォーシームに比べて、よりさらに、落ちるように感じます。だからこそ、バッターがフォーシームと思って振れば、バットの下に当たることになるので、内野ゴロが増えるのです。

球種判定、映像技術の進化で一目瞭然に

 一方で、球筋から分類すると、フォーシームはストレートになり、ツーシームはシュートになることが多いのです。フォーシームやツーシームがボールの握り方による分類で、ストレートやシュートがボールの曲がり方による分類だからです。そして最近の映像技術の進歩で、昔は経験ある解説者やアナウンサーが「今の投球はストレート」、「今度の球はツーシーム」などと言っていたものが、映像で完璧にわかるようになりました。外野からホームベース方向を映し出すカメラからみると(最近のテレビ中継で映される角度ですが)、そして超スローモーションで見れば、ピッチャーがどんな握りをしているかが一目瞭然です。また、複数のカメラを備えれば、球筋もすべてコンピューターで捉えることができ、その上、ボールの回転数や回転方向も、画像から客観的に数値化できるのです。するとなんと、投手によってストレートの回転数や回転方向が異なることもわかっています。変化球の回転数や回転方向も数値化できます。素晴らしいストレートが実は多くの場合、シュート回転していることも、画像から事実としてわかってきました。つまり、人の経験と相関と技術に基づいて語っていたこと、ある意味「偉そうに」語っていたことが、本当か間違いかがわかるようになりました。

CTスキャンの導入で診断は激変

 医療の世界では、CTスキャンの導入で診断学は激変したのです。神経診断学はCTが導入される以前から確立されており、患者さんを一生懸命診察して、そして神経学的所見を取って、そこから病巣部位を推測したのです。そして経験豊富な医師のコメントほど 信憑(しんぴょう) 性があるとされていました。ところがCTスキャンの導入によって、神経所見をまったく取ることが出来ない医師でも、脳内の病巣を簡単に確認できるようになりました。そして経験豊富な医師の信憑性があると思われていたコメントも実は間違っていることがあることも事実として判明しました。技術が進歩したので、経験に基づく知恵を省略しても事実を得ることが出来るようになったのです。

 スポーツ観戦も映像技術の開発やコンピューターの進歩で楽しみ方が増えています。そして医療でも画像診断の進歩で診断技術が格段に向上しました。そして画像だけを見て診断する専門家も、放射線診断医と呼ばれて、なくてはならない医療のプレーヤーになりました。一方で、昔からの神経学的診断の価値もなくなりません。なぜなら、画像では映らない病気もあるからです。そんな時には昔の知恵も大活躍します。技術の進歩と昔の経験が融合して医療も進歩しています。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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