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元記者・酒井麻里子の医学生日記

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患者さんの悩みは複合的で変化する…訪問実習で気づいたこと

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患者さんの悩みは複合的で変化する 訪問実習で気づいたこと

放課後の教室で

 すっかり夏らしい気候となり、背の高い建物の少ない出雲市は、遮るものがないせいか、太陽の光が強いように感じます。蒸し暑さで体調を崩してしまう人もいるかもしれません。

 先日お会いしたAさんも、蒸し暑いこの時期に、毎年、持病の膝の痛みが悪化するとのことでした。

 Aさんは、大学の環境保健医学の実習の一環で、定期的に訪問している出雲市内の男性(86)です(環境保健医学の実習については、ヨミドクター編集長の岩永直子記者が7月にコラム「 医療部発 」でも紹介してくださいました)。

 この実習は、医学科の4年生が2~3人一組で、月に1回、地域住民を訪ねて、お話をうかがう内容です。島根大学でもう35年以上続いているそうです。

 訪問先は、一人暮らしのお年寄りだったり、ご夫婦だったり、体が不自由だったり、ご高齢で介護認定を受けておられたり。何年にもわたり実習に協力してくださる方も少なくないそうです。

 2014年の島根県の高齢化率は31.8%と全国3位で(『2015年版高齢社会白書』)、東京など大都市圏の一歩先を進んでいます。学生は、1年近くの実習を通し、お年寄りがどんな生活をされ、どんなことに困っておられるのかなど課題を見つけていきます。

 そして、高血圧症に対して塩分に気をつけた食生活のアドバイスができないか、公共の福祉サービスが利用できないか、など学生なりにアプローチできる点を探っていきます。

 私は、一緒に学士編入した同期の男性と2人で、Aさん方を訪ねています。3月に初めて訪問して以来、今月、5回目の訪問を終えたところです。

 新聞社にいた頃も、高齢の患者さんやご家族のお宅にお邪魔し、お話を聞く機会はたくさんありました。ですので、人の話を聞くことは得意な方ではないかと思っていました。

 ですが、5回の訪問を終えて感じるのは、病気の状況や、生活への支障、精神的な健康はどうなのか、などAさんの抱える様々な問題をとらえ、そこから課題を探っていくのは、そう簡単なことではないということです。

 一つに、ご高齢の方はたくさんの不調を抱えておられ、それらが複雑に絡み合うため、どんなことに困っておられるのか、とらえるのが難しいことがあるかもしれません。

 訪問初期の頃は、Aさんの課題は、持病の膝や腰の痛みが主なものだと思っていたのですが、徐々に、一人暮らしによる孤独を感じておられることに気づきました。

 別の訪問のときには、たくさんの薬を朝昼晩と毎日飲まなければいけないことが一番のストレスだと訴えられます。また別の回には、膝や腰の痛みがこれ以上ひどくなることへの不安が強いことをお話しされます。

 一口に「ご高齢」と言っても、生活環境が違えば、人によって老化の進み具合も異なりますし、年齢や病名だけではひとくくりにできない、多様で複雑な背景があると感じます。そして、梅雨時には膝の痛みが増すなど、気温や気候によっても課題は変わっていきます。

 新聞社にいた頃は、定期的に同じ方にお会いして、同じような質問をする機会はありませんでした。実習では、月に一度、お一人の方にお会いすることで、課題は複合的で、かつ変わっていくものだということがよくわかります。

 秋まで続く実習はまだ半ばですが、ご高齢の方の普段の様子を知ることで、将来、診察室で、目の前の患者さんにはいろんな背景があるのだと思いをはせることにもつながっていくのだろうと思います。

 また、多様な悩みを抱えるご高齢の方の心身の健康の維持には、医師や看護師以外にも、栄養士、薬剤師、介護福祉士など多職種が連携していかなければ解決できないと感じます。

 そして何より、Aさんから逆に学ぶことが多いです。やはり、ご長寿の方には理由があるのではないかと思ったのですが、食生活や筋力トレーニングなど健康に気を使っておられ、積極的に地域と交流をもたれています。世の中の話題にも詳しく、記憶力が落ちないよう、日々、意識しておられるのだそうです。戦前からこれまでの生き方をうかがうにつけ、その時間の流れに、まだまだ自分は未熟だと感じます。

 そんなわけで、お菓子を前に、Aさんと話をする穏やかな時間が月に一度の楽しみになったりしています。

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酒井麻里子(さかい まりこ)
 2003年、慶應義塾大法学部卒、同年読売新聞東京本社入社。北海道支社、東京本社社会部、医療部を経て、2015年3月末に退社。同年4月、島根大医学部に3年次編入学。医療部で患者さんを取材したことがきっかけで医学部を目指した。著書に『限界自治 夕張検証』(2008年)

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4件 のコメント

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医療と政治 機械やインフラの進歩と人間

寺田次郎関西医大放射線科不名誉享受

たまたま、インターネットで、昔の有名な政治家の言葉を見つけました。 「親、子、孫が故郷を捨てず、住むことができるようにするのが政治の基本なんだ。...

たまたま、インターネットで、昔の有名な政治家の言葉を見つけました。
「親、子、孫が故郷を捨てず、住むことができるようにするのが政治の基本なんだ。だから私はこのトンネルを造ったんだ。」

何をもって採算や正義を語るのかは難しい問題です。

地方が食料自給率を確保してくれていることが前提にあって、いくつかの大都市での都市型の生活が成立しています。
都心部と同じ仕事は地方では採算が成立しにくい場合もあります。

ITその他のインフラの整備により、いくつかの都心産業は地方や郊外に移転しましたが、それでも、高齢化の人口減少社会の中で、人口をさらに吸着する都市と過疎化が進む都市に分かれつつあります。

北海道や金沢まで延伸された新幹線が象徴的ですが、空き家率上昇の現状もかんがみ、いずれは、税制とかも整備されて、地方と都心部の二重生活がスタンダードになっていくのかもしれません。

自分は学会などの際にあちこちでフットサルやサッカーに参加させてもらいますが、関東圏が圧倒的に優位です。
第2の都市である大阪でさえ足元にも及びません。
サッカーは趣味ですが、教育産業で置き換えることもできます。

人の人生、集団の人生は物語に例えることができます。
機械の進歩による人間や社会の在り方と向き合う必要もあります。

そういう意味でも、都心と地方で医者や医療の在り方も変わります。
どういう立場で、人や社会と向き合うのか?

「小医は病を癒し、中医は人を癒し、大医は国を癒す」などという言葉もありますが、適性にあう生き場所を見つけることが幸福ではないかと思います。

そういう視点で、全国の医学生に生き方を問うような記事もまた期待します。

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微細な症状と向き合う エビデンスの外側

寺田次郎関西医大放射線科不名誉享受

パーキンソン病・運動障害疾患コングレスに来ています。 神経内科を研修してた時の先生にご挨拶したり、新薬や情報サイトにおける企業の説明を受けながら...

パーキンソン病・運動障害疾患コングレスに来ています。
神経内科を研修してた時の先生にご挨拶したり、新薬や情報サイトにおける企業の説明を受けながら、時代の変化を考えさせられます。

リハビリ療法やITによる動作解析の演題もあり、複数科だけでなく、多職種で疾患や患者と向き合う時代が来ているのだなと思いました。

フロアでリハビリの先生とお話ししながら口を突いて出ましたが、改めてエビデンスの外側にある情報も含めてどう解釈して、どうデータや理論と向き合うかの難しさです。

本文も似ていますが、投薬やリハビリは投薬やリハビリだけではないですね。
その人の動線や感情、生活習慣に影響を与えます。
孤立しがちな人であれば、触れたり話したりする人が増えます。
併用療法の場合、仮に主病変には薬剤の効果しかなくても、個人には影響があるのではないかと思います。

もう一つは微細な症状の拾い上げや高額な精査に回すか否かの判断への影響です。

パーキンソン病や関連疾患を超早期から捉えるためのセッションもありましたが、専門家ではない一般医師が軽度の症状だけで大病院に送るのは勇気のいることですし、どういうふうに経過を追うのか難しいです。

欠点もありますが、目が多いほどに、微細な症状を拾う確率が上がります。

相手によって言動(主訴)や行動が変わるのは誰にでもありますし、そういう意味でも、複合的なアプローチが求められます。

決まりきった答えを書けないので難解ですが、その難解な症状や患者・家族とどう接するかの難しさではないかと思います。

「年食えば少々のことは普通で、あちこちガタ来ててもその人なりに生活ができて機嫌がいいなら身体だけ元気で精神病んでいるよりもよっぽど幸福ですよ」
とか、健診でも口にしますが、そう思わない人もいますし、患者さんの症状も気持ちも移ろうもので難しいです。

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人間・人生の理解と0次救急と予防医学

寺田次郎関西医大放射線科不名誉享受

本文にもあるように、一つの問題の理解の仕方は複数あり、解決の仕方も複数あります。 医学生ですから、正しい医学的知識に基づいて、病気は治さなくては...

本文にもあるように、一つの問題の理解の仕方は複数あり、解決の仕方も複数あります。

医学生ですから、正しい医学的知識に基づいて、病気は治さなくてはいけないとか、生活は改善しないいけないとか思ってしまうのは当たり前ですが、物事にはいろいろな制約があり、お金や物的資源、人的資源のほか、本人の意思や理解が大きなハードルになることは医学部ではあまり習いません。

「ハンマーを持つと全てが釘に見える」という格言がありますが、医学知識と言うハンマーが患者さんの生活を潰すのではなく、より良い人生のデザインに役立つように使い方が問われます。

さて、昨今問題になることも増えましたが、救急医療を変えるのは看取りや診断治療の経路の転換ではないかと思います。

予防医学だけではなく、早期診断に基づく、ハイリスクの致命的疾患の同定と予後予測や対処法の共有が重要になるのではないかと思います。

死を避けられる人はいませんが、ある程度の予測に基づいて、救命される確率を上げたり、望まない治療を避けることはできます。

不健康な生活を許容するのは特に高齢者では許容されるべきと思います。
人はいつか何かで死ぬのですから、よっぽどの迷惑でない限り好きなことをして死ぬ権利もあるのではと思います。

研修医時代に、人生最期に好物のラーメンを汁まですすって満足そうに亡くなられた心不全の患者さんの逸話を上級医から聞きました。

救命や予防医学としては許容しがたいですが、良い死に方だと思いました。

多くの人間は高尚な目的ではなく、小さな喜びとともに生きているわけですから。

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