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QOD 生と死を問う 第2部

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[QOD 生と死を問う]救急と看取り(2)終末期の希望、明確に示す

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後悔ないよう家族で話し合う

[QOD 生と死を問う]救急と看取り(2)終末期の希望、明確に示す

東京都内の男性は「次に倒れたら救急車は呼ばない。もう二度とあんな思いはしたくない」と夫婦で話し合っている

 高齢者の容体が急変し、救急搬送されると、重い決断を即座に求められる。本人の意思をはっきり示せない場合、誰がどう判断すべきなのか。明確なルールがないだけに、「その時」に備え、自分や家族の死について話し合い、示しておくことが重要だ。

 「あの時、医者に飛びついてでも手術をやめさせていれば。夫に申し訳ない」。病院で寝たきり状態の夫を1年半看病する関東地方の女性(79)は後悔する。

 80歳代の夫は2014年秋、自宅で風呂上がりに突然倒れ、病院に救急搬送された。「脳梗塞です。すぐ手術をします」と医師に言われたが、女性は「夫は日頃から、無理な延命は必要ないと話していたので」と、手術を断った。だが、医師は「そんなことを言われても、後で訴訟になる可能性もある」と言うだけで、詳しい説明もないまま一刻を争うように同意を迫った。

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 手術室から出てきた夫は意識がなく、鼻には栄養を送るチューブが通されていた。以来、話すことも食べることもできず、顔をしかめるなどつらそうな様子も見せる。「ただ生かされているだけで、苦しいとも言えない。こんな状態を夫は望んでいなかったのに」

 女性は不自由な足でほぼ毎日見舞いに訪れる。夫の手をさすり、誕生日には、カードに感謝の気持ちを書いて握らせたこともある。

 ただ、先は見えない。病院からは転院を打診されている。今は協力的な親族も、負担に感じるようになるかもしれない。さらに、女性もがんが見つかった。「夫を残して死ねない。いっそ一緒に死んでしまえたら」

 老い支度の勉強会を開き、延命治療に対する書面の書き方も指南するNPO法人「ライフ・アンド・エンディングセンター」の 須斎すさい 美智子理事長は「望んでいなかった終末期の対応は本人や家族の苦痛につながる恐れがある」と指摘する。

 東京都内の男性(79)も後悔を抱える一人だ。男性は14年夏に自宅で心筋梗塞で突然倒れ、救急搬送された。延命治療について具体的に話し合ったことはなかったため、妻(78)が動転している間に、気管切開をされ、口から3本以上の管が入れられていた。

 男性は約半年後に自宅に戻ったが、後遺症で歩くことが難しく、思うようにしゃべることもできない。介護する妻の負担も大きい。男性は病院での処置を思い出すと「苦しくて……」と涙を流し、「今度倒れても救急車は呼ばないで」と訴える。現在、ベッド脇には、かかりつけ医の携帯電話番号のメモを置く。妻は「今は夫の希望がかなうよう、先生としっかり話し合っています」という。

 須斎さんは「万一について話し合い、記しておくことは、自分のためだけでなく、家族のためにもなる」と話す。「必ずしも希望通りになるとは限らないが、本人の意思がわかっていると、家族の判断の支えにもなるはずだ」と話す。

書面作成した人は3%

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 死期が迫った時に、望む治療と望まない治療について、明確に意思表示している人は少ない。国が2013年に行った意識調査では、7割の人が、望む治療を書面で示しておくことに賛成していた。だが、そのうち実際に作成しているのは3%にすぎなかった。

 こうした中、延命治療や葬儀など自分の考えを整理できるエンディングノートを書き記す動きも広がっている。

 東京都国立市では、市内の高齢者に「ハンドブック」を配布。人工呼吸器の使用や人工栄養の摂取など11の医療行為項目について、希望の有無を記す欄を設けている。専門的な内容のため、正しく理解して選択できるよう、地元の医師や看護師らによる勉強会も開く。参加者からは「これほど具体的に書かないと、希望が伝わらないのだと初めて知った」などの声が寄せられている。十分理解した上で「できる処置はすべて行ってほしい」と記す人もいる。

 同市で多くの高齢者を 看取みと ってきた新田クリニックの新田国夫院長は「意思表示を残しても法的な拘束力はないが、細かに意思が示せるということは、本人や家族がきちんと理解し、納得している証しになる。まずは、こうしたノートなどをきっかけに、自分はどうしたいのかを考え、かかりつけ医や家族と話し合うことから始めてほしい」と話している。

 ◎QOD=Quality of Death(Dying)「死の質」の意味。

 (小沼聖実、大広悠子)

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