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[認知症のはてな](4)不安や妄想、受け止める

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介護される側、納得させる工夫

[認知症のはてな](4)不安や妄想、受け止める

認知症の女性が便器に手を入れないようにと、夫が作った貼り紙。青い水が流れるトイレ洗浄剤を一緒に使ったところ、妻が納得したという

 認知症は、物忘れなどの基本的な症状に伴って、不安や妄想、 徘徊はいかい 、介護への抵抗といった気持ちや行動の変化(行動心理症状)がみられることがある。表れ方は様々で、介護する人を悩ませることも少なくないが、かかわり方によっては、落ち着いたり、改善したりする。

 東京都中野区の女性(80)は、夫(80)と2人暮らし。女性は65歳の時にアルツハイマー型認知症と診断された。

 最初は軽いもの忘れ程度だったが、異変はあった。趣味の社交ダンス教室や定食屋のパートで、「辞めてくれと言われた」と事実とは違うことを思い込むようになり、人づきあいを嫌がるようになった。

 しばらくして時間や場所が分からなくなると、毎日自宅から出て行こうとした。夕方になると茶わんや化粧品をタオルに包み、玄関へ向かう。夫が「家はここだよ」と言っても、興奮して「開けて」と繰り返した。

 排せつ後に、便器に手を入れて便をいじることもあった。夫が「不潔だよ」と注意してもやめない。イライラして強く叱ると、女性の顔は険しくなったという。

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 東京都健康長寿医療センターの臨床心理士・扇沢史子さんは、「認知症で記憶を失っても、感情は保たれる」と話す。例えば、当たり前にこなしていた家事や仕事が急にできなくなったり、親しい人とのコミュニケーションがうまくいかなくなったりして、パニックに陥る。行動心理症状は、認知症の人が不安や焦り、不自由を感じているサインだ。

 「特に初めの頃は、介護する家族も認知症を受け入れがたく、元に戻そうとする。しかし、叱られる、否定されることで本人はさらに不安になり、行動心理症状につながることがある」と扇沢さんは指摘する。症状の予防や改善には、安心して過ごせる環境が大切だ。

 では、どうすればいいのか。認知症相談センターゆりの木(東京都)の 右馬埜うまの 節子代表はまず、「認知症の人と、私たちの住む世界は異なる」と説明する。

 「新しい記憶や知識が失われていく認知症の人に、私たちの常識や理屈を押しつけてもストレスに感じるだけ」。正しいことを説得するより、その世界に合わせ、“納得”を引き出すと本人は落ち着くという。

 例えば、深夜にコートと帽子を身に着けて「会社に行く」と言う男性。妻が「もう辞めたでしょ」と止めても聞かず、興奮して暴れだす。そこで、まだ会社員のつもりでいる男性に合わせて、「今日は日曜日よ。ゆっくり休んで」とねぎらうと、「そうか」と布団に戻ったという。

 生い立ちや職業を考え、思いを尊重することも大切だ。「うそをつくのを後ろめたく感じるかもしれないが、忘れるという特性を利用するのも、優しい関係を築くためのひとつの方法」と右馬埜さんは言う。

 冒頭の女性の場合では、夫が、便器の横に「危険 消毒中」と貼り紙をし、青い水が流れる洗浄剤を使うと、女性は便器に手を入れなくなった。自宅から出て行こうとする時はなるべく夫が付き添ったが、「警察が外は危険と注意していたよ」と話すと、素直に部屋へ戻ったという。

 夫は「妻の表情は、私の顔を映す鏡なのだと思う。叱ったり、否定したりせず、どうしたら妻が納得できるかを考え、工夫している」と穏やかに語る。

 ただ、介護する家族が悩み、一人でつらい思いを抱え込むと、共倒れにつながる。右馬埜さんは「家族会で悩みを打ち明けたり、介護のプロに頼ったりして、心や体を休ませることも大事」とアドバイスする。

 (手嶋由梨)

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