がん診療の誤解を解く 腫瘍内科医Dr.勝俣の視点
医療・健康・介護のコラム
正しい免疫療法のすすめ(下)本物の免疫療法~免疫チェックポイント阻害剤~の登場
がんワクチンに優った免疫チェックポイント阻害剤
免疫チェックポイント阻害剤のイピリムマブが、がんペプチドワクチンの「gp100」よりも 優 ったという臨床試験の結果があります。
米国でも、がんペプチドワクチンは、前立腺がんに対するシプリューセルTの樹状細胞ワクチン( 前回 の原稿で紹介しました)の開発後に最も期待がなされていた免疫療法でした。
悪性黒色腫は、がん細胞の表面に特徴的な目印を出す「がん抗原提示性」が高いことが知られていて、それをターゲットに攻撃する免疫療法が最も期待できるがんです。gp100は、米国の免疫療法の権威である米国国立がん研究所のローゼンバーグ博士が開発した悪性黒色腫に対して限定して反応するがんペプチドワクチンであり、その有効性が期待されていました。
gp100ペプチドワクチンは、当初、臨床第2相試験での奏効率がネイチャー・メディシンに、42%(31人中13人に効果あり)と非常に高い効果が報告され、期待が高まりました(5)。
続いて、第3相試験が行われましたが、全生存期間の有意(統計的に意味があること)な改善までは得られず、米国でも承認にまで至りませんでした(6)。
進行悪性黒色腫に対して、このgp100と、イピリムマブとを直接比較した第3相ランダム化比較試験が行われ、その結果、gp100は、イピリムマブと比べて、有意に全生存期間が劣るという報告がなされました(生存期間中央値10.1か月対6.4か月で有意差ありP<0.003)(7)。この試験では、イピリムマブとgp100との併用療法も検討されましたが、イピリムマブとgp100との併用療法は、イピリムマブ単独で使うのと比べて効果は同程度であり、併用効果は認められませんでした。
このように、がんペプチドワクチンは当初の期待とは裏腹に、有効性は証明できませんでした。
こうして、免疫チェックポイント阻害剤が登場してから、免疫細胞療法やがんワクチン研究は、あっという間に下火となり、現在ではほとんど研究結果の報告がなされなくなったというのが世界の現状と思います。
日本では、がんワクチンに対して、正しく報道がなされているとは言えないと思います。当のNHKも、がんペプチドワクチンのエルパモチドの研究が失敗に終わった結果を報道していません。
インターネットでは相変わらず、がんワクチンが有効であるかのごとく宣伝されています。
このため、患者さんはおろか、医師でも、がんワクチンが有効かのごとく信じてしまわれているという現状があります。
先日も、ある内科医で、身内のかたが肉腫になり、インターネットで宣伝されているがんペプチドワクチンを自費で受けたと相談されました。200万円ほどしたそうですが、研究段階の治療であることの説明もなく、結果的にも効果はありませんでした。
このように、一部の施設で、保険の利かない高額な自由診療として、がんワクチンを投与することが、現在でも行われているのは、困ったことと思います。
がんワクチンは、これまで有効性が証明されたものは一つもなく、研究段階の治療薬です。研究段階の治療で、先進医療の指定も受けず、しかも、有効であるように宣伝され、高額な医療費を請求して治療を行っていることは倫理的にも問題があると思います。
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3月の連載以来、勝俣先生のコラムは欠かさず拝見しています。がん患者が困っていること、誤解、ミスしそうな日常の事柄が論文と例を根拠に分かりやすくまとめられていて、とても参考になります。先生の患者さんを救おうとする冷静さと温かさが伝わってきます。
世の中が先生のような良いお医者さんばかりでないことは、残念なことです。がんをビジネスと捉え、お金儲けをする人、詐欺まがいの人がいるのが現実です。
あなたが今受けようする治療は本当に効果があるものですか?一度冷静に考えてみましょう。
話は変わりますが、予後不良だった乳がん患者の治療薬、ハーセプチンを開発するまでの道のりを描いた映画の上映会を、勝俣先生の奥様が企画されたとの記事を目にしました。きっと奥様も素敵な方なのでしょうね。
先生のような激務の名医に患者さんが殺到してしまわないように、保険の範囲内で診療を行うたくさんの名医が世の中に誕生しますように。良心的な名医が評価され、報われる世の中であることを願っております。
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知人に、藁にもすがる思いで免疫療法を受け、高額な費用を払った甲斐もなく、亡くなった方がいます。「免疫療法を受けたからこそ、ここまで延命できたんだ」と言わんばかりの医師に「ありがとうございました」と言うしか無かったに違いありません。
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