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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

貧困と生活保護(35) ケースワーカーの数と質が足りない

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 生活保護は国が責任を持つ制度ですが、実際に運用するのは自治体が設けている福祉事務所です。福祉事務所には、保護世帯を担当するケースワーカー(法律上の名称は現業員、略称CW)がたいてい地区割りで配置され、それを指導監督する査察指導員(通常は係長級、略称SV)がいます。行政上の決定権限を持つのは、全体の責任者である所長です。ほかに事務職員、就労支援員などがいます。

 そうした人員配置を「保護の実施体制」と呼びます。生活の維持・再建に必要な支援を行うためにも、いろいろな不正を防止するためにも、しっかりした実施体制を整えることが欠かせません。

 ところが、現実の実施体制を見ると、以下に述べるように3つの大きな問題があります。これらの改善を抜きにして、生活保護行政を的確に進めることはできないでしょう。

多すぎる担当ケース数、専門性の不足、非正規の増加

 第1に、ケースワーカーの数が足りない自治体が、都市部を中心にかなりあることです。社会福祉法で示された標準数(都市部の場合、1人あたり80世帯)を大幅に超えて、120、130といった多数の世帯を担当しているケースワーカーもまれではありません。当然、非常に忙しくなり、計算や書類作成など事務仕事にも追われて、担当世帯へのていねいな支援がむずかしくなります。

 第2に、ケースワーカーや査察指導員の専門性(質)です。福祉職の枠で採用した職員で福祉の職場を切り回すという人事方針の自治体はわずかです。大半の自治体は、ほかの部門と同様に行政職の職員を人事異動で福祉事務所に配置し、3年ぐらいで別の職場へ異動させています。その結果、社会福祉の基本的な考え方や対人援助の姿勢が身についていない職員、知識や経験の足りない職員が多くなりがちです。つまり、たいていの自治体で、福祉事務所の職員は福祉の専門家と言えないのが現状なのです(もちろん、まじめに努力している職員はいるし、経験豊富なケースワーカーも一部にいます)。

 第3に、非正規化の進行です。公務員定数の抑制・削減が進められる中、福祉行政の需要が増えても簡単に人を増やせないという理由で、任期付き、嘱託、アルバイトといった非正規のケースワーカーを置く自治体が、とくにリーマンショック(2008年9月)の後から増えました。正規と非正規の待遇の格差は大きく、経験の蓄積、意欲、チームワーク、創意工夫などの面でも影響を及ぼします。

強制力のない職員配置の標準数

 最初に福祉事務所とは何か、制度の基本を確認しておきましょう。社会福祉法にもとづき、福祉事務所を設置する義務があるのは、すべての市、東京の特別区、都道府県です。政令市は通常、区ごとに福祉事務所を設けており、一部の市や東京の特別区は複数の福祉事務所を置いていることがあります。町村の場合に福祉事務所を設置するかどうかは任意で、設けている町村はわずかです。それ以外の郡部(町村部)を、都道府県が設置した福祉事務所がカバーします。

 市町村・特別区の福祉事務所の場合、生活保護法だけでなく児童福祉法、母子父子寡婦福祉法、老人福祉法、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法も担当します。ただし実際に「福祉事務所」という看板がかかっていることはまれです。法律上の福祉事務所は形式上のものになり、分野ごとの課に分かれているのが一般的だからです。生活保護の部門は、保護課、生活援護課、生活福祉課といった名称が多くなっています。

 さて、社会福祉法16条は、ケースワーカー配置の標準数を、生活保護世帯数に応じて、次のように定めています。

市・特別区が設置する福祉事務所   80世帯あたり1人(最低でも3人)

町村が設置する福祉事務所      80世帯あたり1人(最低でも2人)

都道府県が設置する郡部の福祉事務所 65世帯あたり1人(最低でも6人)

 受け持ちケース数が80というのは、学校のクラスをイメージして、教師1人がどれぐらいの人数の状況を把握できるかを想像すれば、意味がわかりやすいでしょう。郡部の担当ケース数が少なめなのは、地理的な広さを考えたものと思われます。

 これらの数字は、かつては法律上の最低基準で、ほぼ守られていたのですが、2000年度から実施された地方分権の際、標準数(目安)に変わり、自治体に対する強制力がなくなりました。この地方分権で自治体が行う生活保護関係の業務は、かつての機関委任事務から、法定受託事務に変わりました(相談・助言は自治体本来の自治事務)。国と自治体、都道府県と市町村の関係も「指揮監督」という上下関係ではなくなり、意見を伝える場合は「技術的助言」などの形になりました。

 国による規制が緩くなったわけです。すると、その後、標準の配置数を満たさない自治体が増えました。背景には生活保護世帯の急増と、各自治体の公務員定数の削減があります。

 自治体の生活保護担当幹部に尋ねると「標準数を満たすように増やしたいけれど、人事部門や財政部門がウンと言ってくれない」と嘆いていることが多いのですが、なかには標準数とかけ離れた独自の配置基準にしている自治体もあります。極端なのが大阪市で、高齢者世帯に関しては380世帯につきケースワーカー1人という配置基準です。

 なお、査察指導員の数は法律上の定めがありませんが、1951年の社会福祉事業法(当時)の施行に関する通知によって、ケースワーカー7人につき1人が標準数とされています。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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