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『子の無い人生』が話題のエッセイスト酒井順子さん

編集長インタビュー

酒井順子さん(4)子無しも子ありも機嫌良く生きるために

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「高齢になっても元気だったら、子無しの老後について書くかもしれません」と話す酒井さん

 50歳を目前に、最近は自身の死について考えることが増えた。

 「最近、死ぬことばかり考えているんです。友達の親御さんも含めてですが、周りにいっぱい死ぬ人が出てきているし、同世代でがんの人も増えている。日々、こうして過ごしていても、どうせ死ぬのだなということばかり考えますね。50ってすごく死が身近になるなと思います」

 「一人で死ぬ時代へ」という章では、介護や葬儀、死後の後始末について考察し、「『子供に 看取(みと) られ、子供に葬られなくても、誰でも安心して一人で死ぬことができる』という世の中は、我々のような子ナシ族のみならず、子供がいる人達にとっても、良い世の中なのだと思います」と語る。

 「子あり、子無しでみんなで話している時に、やはり子無しの人は『老後が不安だ』ということを言うと、子ありの人は『いや、私たちだって子どもに頼れるとは限らないし、頼ろうとも思っていない』と返しますね。気を使ってそう言ってくれているのかもしれませんが。社会学者の上野千鶴子さんが『おひとりさまの老後』で、結婚して子どもがいる人でも、老後に一人で暮らす可能性は非常に高いと書かれていらっしゃいました。やはり子どもに絶対頼れるとは限らないし、お葬式ぐらいは出してくれるかもしれませんが、そこに至るまでは自分でやらなければ迷惑をかけるという気持ちは、子ありの人も持っています。子無しも子ありも、最期の世話になる人に対して、『申し訳ない』とか『迷惑かけてすみません』という気持ちがなるべく薄い状態で老いて死ねる世の中になれば、『老後は不安』と皆が考える状況が変わっていくのではないかと思います」

 マイノリティー(少数者)に優しい社会は、マジョリティー(多数者)にも優しいという思想は、子あり子無しに限らず、病気や障害、性的マイノリティーを巡る生きづらさでも共通に語られる理想型だ。

 「やはり看取りや葬儀が家族頼みになるのは、家父長制が前提の話だと思います。今、それは崩れてきているし、それがますます成り立たなくなっている世の中においては、死の前後の問題はだんだん家族から切り離されていくのかなと思います。いや、切り離されてほしいなと思います。嫁というものがいて、嫁が最期の面倒をみてくれるという感覚が一昔前はあったわけですけれども、それももうない。それを求めようとしたら、みんなますます結婚しなくなるでしょうしね」

 この本の後書きで、欲しくて授からなかった人であれ、「子どもはいなくて良かった」と思う酒井さんのような人であれ、子無し族はそれぞれ、自分なりの「納得のしどころ」を見つけながら生きていくしかないと語る。そしてこの先、「子どもがいなくてよかった」という気持ちと、「子どもを産んでおけばよかった」という気持ちの両方が浮き沈みを繰り返すのだろうと、予想する。

 「やはり完全に楽になりきることはできないと思います。友人に孫が生まれればうらやましいと思うかもしれないし、子ありの友人が家族問題で悩まされているのを見て、ああ一人で良かったと思うかもしれない。そういう振幅は一生ついて回るのだと思います。そういうものなのだと、ずっと心が安定していることはないのだと、思わなくてはいけないのでしょう」

 パートナーとは今のところ婚姻関係を結ぶつもりはないが、状況次第では、関係を変えることも考えている。

 「もし籍を入れるとしたら、互いに生き死にがかかってきた時ですかね。手術や入院など、いろいろな手続きの面倒くささを排除するために結婚するということはあるかもしれない。今、たぶんお互いに健康上の重大な問題がないから、いろいろなことを真剣に考えずに先延ばしをしているのだと思います」

 パートナーはいても、子のないことによる不安はそれだけで解消されるわけではない。振り子がマイナスに振れて、落ち込んだ時は、むしろ一人で過ごすこともある。

 「私は一人でいることがすごく好きなので、そういう時には一人旅に出ていますね。京都に行ったり、鉄道に乗りに行ったり、温泉に行ったり。身近にいる人と比較することによって、自分の欠落部分が浮かび上がってくることが多いので、知り合いがいないところに行く。私の場合はそれが解消法ですね」

 老後、自分がどう過ごしているのか、何を感じているのかは49歳の今は、本当にはわからない。だからまた、『負け犬』や『子の無い人生』を書いたように、その時、見聞きしたことを自分は書くのだろうと思う。

 「老後の問題は、まだ“高齢者”にはなったことがないので、本当にどうなるかはわからない。ただ、健康問題がすごく大きく関わってくると思うので、食事をバランス良くしたり、毎晩10分程度ストレッチや筋トレをしたりして、健康には気を付けるようにしています。したいこと、好きなことがあっても、体が悪ければできなくなるでしょうから、今の段階では老後の問題に何をしているかは軽々に言えない。その時、元気だったら、『子無しの老後』という本を書くかもしれませんね」

 (終わり)

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編集長インタビュー201505岩永_顔120px

岩永直子(いわなが・なおこ)

1973年、山口県生まれ。1998年読売新聞入社。社会部、医療部を経て、2015年5月からヨミドクター担当(医療部兼務)。同年6月から2017年3月まで編集長。

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4件 のコメント

子供 いてます

あさくやびか

自分は おぎゃぁと 産まれた 日から 親子関係では あるが ひとりの人 と ひとりの人 としか 見て来ていないし これからも そうだろう

自分は おぎゃぁと 産まれた
日から
親子関係では あるが
ひとりの人

ひとりの人
としか
見て来ていないし
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今・この記事を読んでいる人は同じ時間を共有している。

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生命の営みは経験工学、その体験がモノを言います。動物園の人工飼育された動物は繁殖や子育てが難しいと言われています。昔は大家族で近所付き合いも濃密でしたから、出産、子育て、結婚、介護、死別と身近な疑似体験が可能でしたが、今はそうではありません。それが何事も人生の面倒を避けるような意識を醸成しているように思えてなりません。
それは若い世代に限りません。私の母は自分の親と夫の介護で苦労したことから、同じ苦労を子供にかけたくないと自ら老人ホームを選択し延命治療を拒否しました。他方、義母はそのような体験がないため自分の最期は万事他人任せです。しかし、少子化で親の介護を誰もが担う今はむしろ転機かもしれません。「介護は親が子に授ける最大最後の教育である」という言葉があるように、介護の現実を目の当たりにしてきた私や子供たちは人生の在り方や家族の絆を自然と学んだような気がします。
看取りを家族から切り離すと言っても、そもそも政府は介護は在宅が基本との姿勢です。しかも夫婦だけの老々介護の厳しさは周知の通りです。老後の安心安定はやはり子供の存在に頼らざるをえないというのが実感です。
子育てとは無限無償の愛情を注ぐことです。「この子のためなら命を捨てても構わない」が親心です。それを子供が感じないはずはない。それが介護という形に投影されるのであって、家父長制の所産でも他人が担うものでもない、これが親の看取りと3人の子育てから得られた答えです。

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