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筋ジストロフィーの詩人 岩崎航の航海日誌

yomiDr.記事アーカイブ

それは、生きるため。自分の人生を生きるため

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特別なことではない「ひとり暮らし」

点滴ポールにぶら下げた栄養剤を胃瘻から入れる

点滴ポールにぶら下げた栄養剤を胃瘻から入れる

 冒頭の「ひとり暮らしをする」。

 とりたてて特別なことではありません。

 皆さんも人生のどこかの時点で経験する暮らしです。 学生時代、下宿することになれば。仕事で単身赴任することになれば。別居や離婚など人生の何らかの選択によってだったり、家族との死別によってもあるでしょう。自分の生き方として選ぶ場合でも、生活環境の変化からの場合でも、きっかけはいろいろあると思います。誰にも想定されるライフステージです。

 けれど、私のような人。体が不自由で介助がないと片時も生きられない人がこの暮らしをしようとすると、たくさんの困難が立ちはだかります。

 難しい。無理です。ダメです。出来ないです。

 それはなぜでしょうか。

 私が、なぜ、ひとり暮らしをしたいと思ったのか。

 それは、生きるため。

 自分の人生を生きるためです。

平日と土曜日の日中はヘルパーが身の回りの介助をする

平日と土曜日の日中はヘルパーが身の回りの介助をする

 さらに細かくいうと、現実に即した二つの理由があります。

 一つには、現在の家族による介護を前提にして組んできた介助体制がすぐにも見直しを迫られているからです。常に介助者がそばにいないと片時も生きられない身にとって、介助を得ることは生命線です。衣食住や生計と同様、なしでは生きられません。

 今、その私の介助は平日と土曜日の午前9時~午後6時を訪問介護のヘルパーが、日曜日の終日と平日・土曜日の午後6時から翌朝9時までを両親が担ってくれています。しかし両親の高齢化と持病の悪化もあり、これから先も両親に頼り介助をしてもらうことは事実上できません。ヘルパー介助のないとき、母は腱鞘けんしょう炎やリウマチのため、手の指や手首が痛いのを こらえています。父は首や肩、腰が痛いのを堪えています。夜、私に呼ばれて介助に起きるたび、疲労の色が濃く見えます。体のあちこちに不調を抱えて、疲れや痛みに苦しんでいる70歳代半ばの両親です。

スマートフォンで撮影した写真を見せる母親の博子さん

スマートフォンで撮影した写真を見せる母親の博子さん

 笑顔の多い二人なので外から見ただけでは、まだまだ元気そうと思われてしまうのですが、実際、心身共に切羽詰まっています。下手をすると三人共倒れてしまう。何より、私も息子の心情として、もう親にこれ以上は無理をさせたくありませんし、穏やかな老いの時間を過ごしてもらいたいと願います。

 

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yomidr_iwasaki

岩崎 航(いわさき・わたる)

 1976年、仙台市生まれ。本名は岩崎稔。3歳ごろ、筋ジストロフィーを発症する。現在は胃瘻と人工呼吸器を使用し、仙台市内の自宅で両親と暮らす。25歳から詩作を始め、2013年、詩集『点滴ポール 生き抜くという旗印』、15年、エッセイ集『日付の大きいカレンダー』(共にナナロク社)を出版。16年、創作の日々がNHKのETV特集で全国放送され、話題を集める。公式ブログ「航のSKY NOTE」で新作を発表中。

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1件 のコメント

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航さん、はじめまして

らん

以前NHKで再放送含め2度テレビで拝見させて頂きました、らんと申します。 航さんの人柄、お兄様の人柄に感銘を受けてテレビを拝見しました。 お父様...

以前NHKで再放送含め2度テレビで拝見させて頂きました、らんと申します。
航さんの人柄、お兄様の人柄に感銘を受けてテレビを拝見しました。
お父様、お母様もなんと穏やかで知的で…。
確かに御両親からすれば心配もあるでしょうが幸せな御家族という印象を持ちました。
私には自閉症の息子がいてシングルマザーでもあります。私は友人がなかなか出来ない息子を半ば放ったらかしにして働きに出掛けねばならず息子に申し訳ない思いでいっぱいになります。息子を幸せにしてあげたいのに出来ないもどかしさ、そしていつか息子をこの世に置いて行かねばならぬせつなさ、辛さ。
御両親も同じ思いを抱えていることと思います。障害がある子がいるということは世話することの辛さより息子に辛い思いをさせているのではないか…という思いのほうが強いのではないかと思います。航さんがお兄様とお話したり詩を公表して皆さんを助けることが出来ていることに御両親は本当に喜んでらっしゃることと思います。
親孝行な息子さん達…是非是非ずっと幸せでいて下さい。それが私達親に取っての一番の親孝行なのです。可愛くていとおしくて仕方のない存在なんです。

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