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『子の無い人生』が話題のエッセイスト酒井順子さん

編集長インタビュー

酒井順子さん(3)「子無し」から少子化対策を斬る

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酒井順子さん(3)「子無し」から少子化対策を斬る

「政府の少子化対策担当者の肩をたたいて慰めてあげたい」と語る酒井さん

 少子高齢化が何年も前から問題となり、政府は様々な検討会議を開いてきた。

 結婚や出産に対する国民の希望がかなった場合の「希望出生率」1.8という数値目標も打ち出され、出生率はわずかに回復しているが、それでも微増にとどまるのみ。団塊ジュニアという人口のボリュームゾーンも出産可能年齢を徐々にはずれていき、いよいよ少子化対策は手詰まり感を増している。

 「政府の気持ちはわかる、という感じなんですよねえ。数値目標は立てたくなるでしょうし、産む産まないは個人の自由ということも、もちろんあちらもわかってはいるのでしょう。『本当に難しいですよねえ』と、肩をたたいて慰めてあげたい気分です(笑)」

 しかし、少子化への働きかけがまだ間に合ったであろうこの20年、政治家は実効性のある対策を打ち出せず、保守的な「本音」が透けて見える放言で、ますます女性を産むことから遠ざけてきた。

 「子どもをたくさん作った女性が、将来、国がご苦労様でしたといって、面倒をみるのが本来の福祉。ところが子どもを一人もつくらない女性が、好き勝手と言っちゃなんだけど、自由を 謳歌(おうか) して、楽しんで、年とって……税金で面倒みなさいというのは、本当におかしいですよ」という元首相発言、「(女性という)産む機械、装置の数は決まっている。あとは一人頭で(多くの子どもを産むように)頑張ってもらうしかない」という当時の厚生労働相の発言――。そして、今も「3年抱っこし放題」など古い価値観の「子育て対策」が、仕事や遊びもあきらめない、今を生きる女性たちの反発を生む。

 「私としては、面白いのですよね。だって、今のこの世の中で、会社でそれを言ったら、もうセクハラ発言で、その人はおしまいじゃないですか。男性の本音が見えづらくなってきている中、たまに政治家がその本音をちらっと見せてくれるのが、エッセイストという職業意識からすると、『ああ、書ける! ネタを提供してくれてありがとう!』と思ってしまう……。産む産まないは個人の自由ということは十分みんなに浸透しているはずですし、それをいかにすり抜けて、本音を押し隠して少子化対策を打ち出すかというのは、『ご苦労が忍ばれます』という感じですね」

 『子の無い人生』で、酒井さんは、子無しの人を見下げる子持ちマダムの言動を、持ち前の観察力で細かくあぶり出している。それとは別に、女優が「親になって初めて人間にさせてもらっているなと思う」など子どもを持つ喜びを表現した発言が、「子無しは人間ではないということか」と糾弾される炎上騒動も起きた。「子どもを持つも持たないも自由」という「社会常識」が浸透する一方、「子どもを持たないのは貧しい人生」とする「本音」や、当事者の「過剰反応」は、一般社会でも払拭されていないのが現実だ。

 「それは、私はしょうがないと思っていますね。子育て中の人が、そういう発言をついしてしまうのは、子どもを産んでとても幸せだった人の実感なので、言いたい気持ちもわかる。目の前で言われたら、むっとするかもしれませんが、お互いに持っているものが違うので、仕方ないことなのだと思います。逆に、無職の専業主婦に対して私が仕事をする楽しさをとうとうと語る気にはなれないわけですが、言葉の端々に何となく仕事をしている喜びをちろちろと出しているかもしれません。それはお互いさまなのだと思いますし、あまり目くじらをたてる必要はないのではないかと思います。女優さんの発言だって、仕事をしている人が『仕事によって成長させられたことがあります』と語るのと同じ話なのだと思います。ただ、それぞれの質は違いますが、今、メディアなどで女性が子どもを持つ幸せと働く幸せを語るなら、子育て自慢の方が繊細な話題になっていると思いますね」

 そしてまた、こうしてデリケートになっている話題だからこそ、フェイスブックなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やブログは、少子化対策に効果があるのではないかと酒井さんは皮肉も込めて書く。

  知り合いの若い女の子が出産し、赤ちゃんの写真をフェイスブックにアップ。同級生で未婚のA子ちゃんが「おめでとう」と祝福コメントをつけると、若いママは、「A子も他人のお祝いばっかりしていないで、早く自分でも産みなよ。 可愛(かわい) いよ」と返信コメントを。(中略)公衆の面前で「あなたも早く私のように幸せにおなりなさいな」と言われたも同然のA子ちゃんは、その言葉で傷ついたかもしれません。が、おそらく奮起もすると思うのです。「ぼーっとしている場合ではない、頑張って結婚して子供を産もう」と。SNSは、ネット上の「世間」なのであり、我々は日本人である限り、「世間の規範からずれている自分」では絶対にありたくないのですから。(中略)日本人を動かすのに、刃物は必要ありません。「皆と一緒でありたい」と思わせればいいのです。(『子の無い人生』より)

 「政府が希望出生率を打ち出すより、SNSでこっそり子育てリア充(現実生活が充実していること)の様子をもっと流す方が効果が高い気がしますね。我々が産める年齢だった10年前はSNSは普及していなかったので、年賀状がそれらしきものだったのです。自分がもし子産み世代で、SNSのただ中にいたら、プレッシャーは強かっただろうなと思います」

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編集長インタビュー201505岩永_顔120px

岩永直子(いわなが・なおこ)

1973年、山口県生まれ。1998年読売新聞入社。社会部、医療部を経て、2015年5月からヨミドクター担当(医療部兼務)。同年6月から2017年3月まで編集長。

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2件 のコメント

少子化大賛成

コボちゃん

50年後、100年後を考えたら少子化大賛成。 日本の人口は半分以下、もしくは10分の1でいい。 そうしたら原発など必要なし。 潰れる企業も商店も...

50年後、100年後を考えたら少子化大賛成。
日本の人口は半分以下、もしくは10分の1でいい。
そうしたら原発など必要なし。
潰れる企業も商店も大学、ホテルなども沢山出るだろう。
物を売りまくる、買いまくる時代は終わりだ。
年金も大変だろう。苦労する世代が出る。
しかし遠い未来を考えたらそれでいい。
しかし今のままの人口は何も解決しない。
食料自給率を100%以上。
人口激減で、議員も公務員も財団なども激減。
奴らの既得権も激減させることだ。

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コストも掛かります

子供にはお金が掛かります。 その辺のお話しは今後あるのでしょうか? 税金を子育て、教育に使う政策を掲げるのはいいのですが・・・財源どうするの?と...

子供にはお金が掛かります。

その辺のお話しは今後あるのでしょうか?

税金を子育て、教育に使う政策を掲げるのはいいのですが・・・財源どうするの?という報道をよく目にします。

親は無くとも子は育つ・・・そういう面もあるのでしょうが、それもねぇ・・。

高齢者(多数派)が若い人のマインドを喚起するような行動をとらないと
解決しないような気が・・・

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