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佐藤記者の「新・精神医療ルネサンス」

コラム

うつ診断に光トポ検査は役立つか?(上)

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 「体温計みたいな抑うつ計があればいいのに」

 うつ病関連の取材中、ある精神科医が漏らした嘆き節だ。精神科には、身体疾患では当たり前の画像検査法がない。そればかりか、血圧計や体温計に相当するメンタル測定器すらない。患者が訴える精神症状に基づいて、医師が病気を判断するしかなく、ある意味、前時代的な医療といえる。

 「お はら いの時代からたいして変わっていない」という精神科医の自虐的な声は極端過ぎるにしても、精神疾患の多くは今もって病気の原因がはっきりしない。医師の主観や経験の差が診断や治療に影響しやすく、医師が変わると病名が変わるなど、「科学的」とは言い難いあいまいさが不名誉な特徴となっている。

「精神医療を変える」と期待されたものの……

 こうした停滞にあえぐ精神医療に、科学の衣をまとわせようと登場したのが、光トポグラフィー検査だった。近赤外線を前頭部や側頭部に照射する帽子型の装置を頭にかぶり、課題をこなしている間や前後の脳血流量の変化をみる。抑うつ症状に苦しむ患者が、本当にうつ病なのか、それとも統合失調症、あるいは双極性障害による抑うつ症状なのかを医師が鑑別するための補助手段として、日本で開発が進んだ。メディアの期待も大きく、テレビや新聞、雑誌が大きく取り上げたことで患者の期待が高まり、研究途中の段階から、予約で数か月待ちになる医療機関もあった。

群馬大学病院で光トポグラフィーを体験する筆者

群馬大学病院で光トポグラフィーを体験する筆者

 私もこの検査には期待していたので、2009年の先進医療認定の直前、研究の中心となっていた群馬大学病院で体験させてもらった。たくさんのセンサーが付いた帽子型の装置を頭にかぶり、音声の指示に従って、一つのひらがなで始まる単語を答えていく。例えば「あ」と指示されたら、「秋、愛、明日……」などと答える。単語を頑張ってたくさん答えても、回答数の多い少ないは鑑別のポイントではないのだという。検査は60秒間で、20秒おきに計3種類のひらがなが示され、この間と前後の脳血流量が記録される。

 被験者がうつ病の場合は、健常者よりも脳血流量の変化が乏しく、双極性障害では、脳血流量の山のピークが後半に来るという。統合失調症の場合は、脳血流量の増加のタイミングがずれ、課題終了後に増加するなど不自然な変化を見せるという。

 私の検査はどうだったかというと、出題されたひらがなで妙な言葉ばかりを連想してしまい、近くに見学の医師が複数いた手前、口に出せずアワアワしていたら、脳血流が異常な動きを示しておかしな結果になったらしい。「慣れないと、こういうこともあるんですよ」と医師から慰めの言葉をかけていただいたが、ふと、「慣れで結果が変わったら良くないのでは」と思ったのを覚えている。

 先進医療の認定を経て、2014年4月から公的医療保険が使えるようになった。自費で1万数千円かかっていた検査が、3割負担で受けられるようになったのだ。精神科でこのような検査が保険適用になるのは初めてで、画期的な出来事だった。保険診療の対象は、「抑うつ症状でうつ病と診断されているが、治療の効果が乏しく、統合失調症、あるいは双極性障害の可能性が考えられると医師が判断した患者」となっている。

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佐藤写真

佐藤光展(さとう・みつのぶ)

読売新聞東京本社医療部記者。群馬県前橋市生まれ。趣味はマラソン(完走メダル集め)とスキューバダイビング(好きなポイントは与那国島の西崎)と城めぐり。免許は1級小型船舶操縦士、潜水士など。神戸新聞社社会部で阪神淡路大震災、神戸連続児童殺傷事件などを取材。2000年に読売新聞東京本社に移り、2003年から医療部。日本外科学会学術集会、日本内視鏡外科学会総会、日本公衆衛生学会総会などの学会や大学などで講演。著書に「精神医療ダークサイド」(講談社現代新書)。分担執筆は『こころの科学増刊 くすりにたよらない精神医学』(日本評論社)、『統合失調症の人が知っておくべきこと』(NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボ)など。

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