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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

視覚障害、脳の異常が原因の場合…眼科医の多くは「お手上げ」

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 前回は眼球から後頭葉第1次視覚中枢までの経路(視路)で、脳腫瘍などの脳の病変が生ずると不可逆的な視覚障害が発生しうることをお話ししました。

 脳は、視覚情報を迅速かつ的確に取得するために、いろいろな機能を備えています。

例えば、まぶたを開けて、注目すべき対象物を探す場合には、視線を合わせるための眼球運動、対象物の距離に応じて両目を適切な位置にする 輻輳開散(ふくそうかいさん) とよばれる目の位置調整、距離によって対象物にピントを合せる焦点調節が活躍します。

 ものを見るにあたって脳が素早く複雑な方程式を解いて、眼球にそうするよう命令しているのです。

 網膜から第1次視覚野に到達した視覚信号は、今度は頭頂葉経路、側頭葉経路という二つの大きな経路を進みます。その間、その視覚情報の性質、色、形、立体感や質感、大きさや、他の対象物との空間上の位置関係(例えば遠近差)など、さまざまな性質を解析します。こうして、見たものを具体的な対象物として捕捉しつつ、それを前頭葉に運びます。ここで、記憶や知識などと対比し、対象物から受ける情動(感情や考え)に集約されてゆくのでしょう。おそらくここまでに、他の器官から受けた情報(音、におい、触感など)も併せて、それを言葉にしたり、絵にしたり、旋律にしたりという人間らしい表現が出てくるのです。

 「まぶしい」「目が痛い」「二重に見える」「全体が白っぽくぼやける」「光が散乱する」「見続けると気分が悪くなる」などは、適切な視覚機能を邪魔する、比較的よくある雑音です。   

 もし、視路にそうした雑音を発生させる病変があれば、話はたやすいのですが、私が外来で経験している症例でみますと、視路には何ら症状を説明できる病変のない例が少なくありません。

 こうした自覚症状があって、つらい状態になると、目や視覚の問題ですから、必ず眼科に行くでしょう。しかし、多くの眼科は、眼球のことだけを調べる眼球科ですから、眼球に症状を説明できる変化がないと、もうお手上げになります。

 しかも、そうした症状は、必ずしも眼科で検査する視力や、視野検査に反映されませんので、異常ありませんということになりがちです。

 ここにこそ、私の専門である神経眼科、心療眼科が役に立てる余地が出てきます。

 つまり、さきほど述べましたように、視路だけでなく、大脳、小脳、脳幹では、視覚に関するさまざまな高次の神経回路が存在しますので、そこに何らかの異常が生ずると、目や視覚に関連するさまざまな症状が出てくる可能性があるからです。

 次回は、この中で特によく受診のきっかけになる、「まぶしい」と「目の痛み」に絞って考えてみようと思います。 

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。北里大学医学部客員教授、日本神経眼科学会理事長などを兼務し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ、副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」(春秋社)、「健康は眼に聞け」(同)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「高津川 日本初の女性眼科医 右田アサ」(青志社)、「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・執筆活動のほか、NPO法人などのボランティア活動に取り組む。

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