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『子の無い人生』が話題のエッセイスト酒井順子さん

編集長インタビュー

酒井順子さん(2)余はいかにして子無しとなりし乎

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転機は35歳で訪れたと話す酒井さん

 高校に進学してからは、笑ってもらえるような文章を書いて、友達に見せるようになった。ノートやリポート用紙に身の回りのことを書いて、友達に笑ってもらうのが好きだった。その頃流行した男性誌「ポパイ」で、作家の田中康夫さんと泉麻人さんが、都内の大学の特徴を分類したエッセーを読み、その女子高生バージョンをパロディーで書いた。友達に見せると、「これ、きっと雑誌に載るよ!」と、ポパイの姉妹誌として創刊されたばかりの「オリーブ」に送ってくれたことをきっかけに、雑誌に文章を書くようになった。

 「当時、ヘタウマのイラストがはやっていて、自分もその文章にヘタウマのイラストを添えていたんです。このイラストが編集部の目に留まったらいいなぐらいの気持ちだったんですが、イラストは黙殺されて(笑)、『文章を書きませんか?』とそちらが評価されたので、『へええー』と驚きながら書くようになりました」

 自分の身の回りに起きた日常の出来事や、何げなく聞いていた会話を描写しているだけなのに、大人たちはおもしろがってくれる。それでも、商業誌に載って舞い上がることもなく、冷静に周囲の反応を見つめていたという。

 「特に頑張って観察しているわけでもなくて、自分としては『普通の視力』で見て書いたものなんです。なぜこれが『他の人』にはわからないのだろう、という感覚でした。文章が雑誌に載るようになると、ああこんなことで大人は喜んでくれるんだとか、若いというのは売りになるんだなということに気づきました」

 大学卒業後は、時折、雑誌に書く仕事をしながら、大手広告会社に就職。しかし、会社員に向いていないことを痛感。3年で退職した。エッセイストとしての仕事を続け、35歳になった頃、転機が訪れた。

 「私は35歳になった時に覚醒したという感じなんです。四捨五入すると40歳だということにすごくびっくりして、30歳になった時よりも、年齢を感じました。30代前半はまだ若者に片足を突っ込んだような感覚を持っていましたが、35歳の時に、ああ本当に中年になるんだという実感を得た、と言いましょうか。肉体的にシミや白髪には気づく年ではあるのですが、とはいえ、別にどこが痛くなるわけじゃないし、まだまだなんて思っていたのが、年齢は着実に重ねられていくことに気づき、年齢の実感が重くのしかかってきたんでしょうね」

 そのタイミングで、次のテーマに選んだのが、独身、子無しの生き方だった。

「たまたま同い年の結婚していない担当編集者の女性と『いやあ、我々は十分楽しく生活していますけれども、いくら楽しいと言っても、それは世間から見たら負け犬の遠吠えなんでしょうね』と話していて、それで『負け犬の遠 () え』という独身をネタにしたものを書こうという話になったんです」

 2002年1月~03年2月まで、月刊雑誌に1年間連載した時は、特に話題にもならなかったが、同年10月に書籍化されると、急に世間で話題になり始めた。

 「私は本が売れるタイプじゃないので、ビッグウェーブが来た感じでびっくりしました」

 ただ、筆者の思いとは違う様々な誤読もされた。

 「『本当は自慢をしているんじゃないのか』とか『負け犬を推進し、結婚していないことをすばらしいと広める本なのではないか』とか。私は、結婚した方がいい派で、『できるものなら、結婚をした方がいいんじゃないですか?』という気持ちを通奏低音として響かせているつもりだったので、その反応は驚きました。物書きのような仕事であれば結婚はしなくてもいいかもしれませんが、今の社会で普通に会社員とかOLさんなのであれば、した方が余計なことを考えずに済む。先日、『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』というドラマを見ましたが、まさに『負け犬』を出版した十数年前、私の友人が『私は結婚できないんじゃなくて、しないのだということをどうしたら周囲にわかってもらえるのか』と悩んでいて、『それは結婚すれば解決するのではないか』と私は思っていたんですよね(笑)。そういうややこしいことを悩まずに済む。実際、彼女も結婚したことによって、精神が落ち着いたようです」

 それは、世の中の大多数が行っている流れに、身を任せた方が楽、という同調圧力の問題なのだろうか。

 「それもあるでしょうし、やはり何かに所属することは安定につながるじゃないですか。フリーでいるよりも会社員でいる方が身分は安定しますし、男女業界においても、『フリーです』という看板を上げているよりは、『夫婦です』という方が安定はしますよね。そこに冒険はないけれど」

 (続く)

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編集長インタビュー201505岩永_顔120px

岩永直子(いわなが・なおこ)

1973年、山口県生まれ。1998年読売新聞入社。社会部、医療部を経て、2015年5月からヨミドクター担当(医療部兼務)。同年6月から2017年3月まで編集長。

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5件 のコメント

子なし前提での結婚

トリ

アシカ様 >子供が要らないと宣言しつつも結婚するカップルを私は理解できません。 >子供がいないのを前提とすれば法律が婚姻について定める親権は無用...

アシカ様

>子供が要らないと宣言しつつも結婚するカップルを私は理解できません。
>子供がいないのを前提とすれば法律が婚姻について定める親権は無用、相続も成人間なら遺言で充分
>同棲・内縁関係以上に何が必要なのでしょうか。

では、子供を作るつもりで法律婚をしたものの、結婚後に不妊が発覚し、二人だけで生きていこうと決めた夫婦は、法律婚を続ける意味は無く、離婚届を提出して内縁関係になれば良いのに、と思いますか?

あるいは、女性に子宮が無い、男性が無精子症、結婚の時点で女性がアラフィフ以上の年齢…等々の理由で、最初から妊娠は望めないと分かっており、代理出産や精子提供、養子縁組も考えておらず、それでも、同棲でも事実婚でもなく、法律婚をするカップル、いますよね。そういう人達のことも、理解不能ですか?

>子供を産むという世間の常識に反旗を翻した人たちも、結婚という形式にすがっているとすれば滑稽

私は子供が欲しくなくて、子供がいなくても良いと言ってくれる男性と法律婚しました。あなたにとっては無意味でも滑稽でも、私には有意義なことですので。

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そのとおり

アシカ

そうなんですよ。ヨミドクターの観点から言っても身近に監護者が必要、これが酒井さんの言われる結婚の安心感なのでしょう。でも、それが本当に必要になる...

そうなんですよ。ヨミドクターの観点から言っても身近に監護者が必要、これが酒井さんの言われる結婚の安心感なのでしょう。でも、それが本当に必要になるのは老後、その時に配偶者の方が先に逝ったり監護が必要だったりして、当てにできません。だからそれを本当に求めるならばやはり子供に託すのが一番安心ということではないでしょうか。私は親の介護で老人ホームの身寄りなく誰も訪れない老人を見てきました。酒井さんは自らの生い立ちから子なしの選択をされた、しかし人生の最期から逆算して考えれば今をどう評価されるのか、是非とも取材していただきたいです。

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誰もが安心して老い、死ねるために

岩永直子(ヨミドクター編集長)

アシカさま コメントありがとうございます。わたくしも子無し当事者ですので、現状では死ぬ時にどうなるのだろうと不安があります。ただ、子持ちの方でも...

アシカさま
コメントありがとうございます。わたくしも子無し当事者ですので、現状では死ぬ時にどうなるのだろうと不安があります。ただ、子持ちの方でも、不仲だったり、病気など子どもが親の面倒をみられない事情が発生したり、世話になれるという確実な保証はないわけですから、誰もが一人で死ぬリスクは抱えているわけです。このあたりについては連載4回目で酒井さんも語っていらっしゃるので、引き続きご覧ください。また、前のコメントの追加ですが、法律婚という形を取らなくても、法的効力のある書類で関係性を証明して婚姻と同等の権利を確保する方法もございます。https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20141106-OYTEW52400/?catname=news-kaisetsu_kaisetsu-kikaku_kokoro-genkijyuku 参考になさってください。

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結婚の意味

アシカ

酒井さんのように独身、子供なしを貫かれるのは分かりますが、子供が要らないと宣言しつつも結婚するカップルを私は理解できません。 結婚とは法律婚、そ...

酒井さんのように独身、子供なしを貫かれるのは分かりますが、子供が要らないと宣言しつつも結婚するカップルを私は理解できません。
結婚とは法律婚、それによってどんな効果があるのか考えてみてください。子供がいないのを前提とすれば法律が婚姻について定める親権は無用、相続も成人間なら遺言で充分です。扶養義務も夫婦だけならば愛情の喪失とともに清算すべきでしょう。同棲・内縁関係以上に何が必要なのでしょうか。
結局、子供を産むという世間の常識に反旗を翻した人たちも、結婚という形式にすがっているとすれば滑稽なことです。

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アシカさま

岩永直子(ヨミドクター編集長)

コメントありがとうございます。  結婚に何を求めるかは、それこそ「人それぞれ」という言葉で終わってしまいますが、ヨミドクターですので医療や介護関...

コメントありがとうございます。
 結婚に何を求めるかは、それこそ「人それぞれ」という言葉で終わってしまいますが、ヨミドクターですので医療や介護関係で考えますと、法的な家族関係がないと医師からパートナーの病状説明さえ受けられない可能性が高いですし、パートナーが判断能力を失った時に、代わりに治療の選択をするということも難しいのが現実だと思いますよ。

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