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『子の無い人生』が話題のエッセイスト酒井順子さん

編集長インタビュー

酒井順子さん(2)余はいかにして子無しとなりし乎

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酒井順子さん(2)余はいかにして子無しとなりし乎

生まれ育った家庭環境が、自身の家族観やものを書くという姿勢に影響を与えたと語る酒井さん

 幼い頃から、子どもは好きではなかったという酒井さん。兄がいる2人きょうだいの末っ子で、「自分より年上の人にかわいがられるのが得意」な子どもだった。

 「たぶん甘えん坊だったんだと思います。年下に甘えられるよりは、甘える方が好きだったので、姉貴分として年下を仕切るという感覚はまったくなく育ちました。学校時代は普通に同級生と遊んでいたのですが、同級生の中でリーダーシップを取るようなことはなく、後ろの方でこそこそしているような子でした」

 小学校から高校まで私立の女子校に通った。女子校に入ると、「男性に頼らなくなり、男女平等意識が強くなる」というのが、筆者(岩永)も含めて女子校出身者でよく語られる特徴の一つだが、酒井さんはまったくそうではなかったと言う。

 「私は逆にすごく依存心が強いので、男の人にやってもらえることは全部やってもらいたいというタイプですね。女子校にいたからと言って、全員がリーダーシップを取るわけではない。女子校の中の頼りがいのある人に頼る人もいっぱいいて、私は頼る側の人間だったので、自立心はまったく養われなかったです。委員会の委員長を避けまくるとか、部長になりそうになったらクラブを辞めるとか、そういう意味での責任は絶対取りたくなかったですね」

 ところがそのような思春期時代、結婚して男性に養ってもらおうという思考は育まれなかった。

 「それは、たまたまならなかったです。専業主婦願望もないし、お母さん願望も本当になかった。きっと世代的な思想が関係すると思うのですが、私の母親が専業主婦で、経済力がなかったが故に離婚を踏みとどまったところがあるらしく、『あなたは経済力を身につけたほうがいいわよ』ということを言われて育ちました」

 両親の仲は良好とは言えなかった。酒井さんが中学生の時には、「私には好きな男性がいるので、別れます」と母親が宣言し、離婚騒動も勃発した。

 「それまでもずっとボーイフレンドがたくさんいたので、別にそれがおかしなこととも思わず、傷つくこともありませんでした。兄は傷ついていたようだと後で気づいたものの、それは男女の違いがあるのかもしれません。結局、両親は別れなかったのですが、私はまた『子どもがいるから別れなかったのかな』と思っていたら、違ったんです。うちは父方の祖母と3世代同居だったんですけれども『おばあちゃんがいるから別れなかった』と言われたんですよ。『おばあちゃんを 看取(みと) らなきゃと思ったのよ』と母から言われて、『意外。子どもが理由じゃないんだ』と思いましたね」

 そうした両親の姿を見て、夫婦や家庭というものを学んだ酒井さん。

 「やはり家庭というものに対する幸せなイメージはあまりないですよね。きちんと統計を取ったわけではないのですけれども、ご両親が仲のいい家庭で育った人の方がちゃんと結婚していく傾向にあるような気はしています。やはり、こういう家庭を作りたいなとか、こういう夫婦になりたいなとかイメージしたうえで、実現に向けての努力をするのではないでしょうか」

 そんな家庭環境の中で、自分にとっては普通のことが、ほかの人にとっては当たり前でないという感覚が身についていった。そんな自分の内面を見つめ、日記などに思いを書き (しる) すことが習慣になった。

 「とても特殊な母親だったせいで、私はものを書き始めたのかもしれません。しゃべるのが得意ではなく、書く方が自分の考えを自由に表現できるという思いもありました」

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編集長インタビュー201505岩永_顔120px

岩永直子(いわなが・なおこ)

1973年、山口県生まれ。1998年読売新聞入社。社会部、医療部を経て、2015年5月からヨミドクター担当(医療部兼務)。同年6月から2017年3月まで編集長。

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5件 のコメント

子なし前提での結婚

トリ

アシカ様 >子供が要らないと宣言しつつも結婚するカップルを私は理解できません。 >子供がいないのを前提とすれば法律が婚姻について定める親権は無用...

アシカ様

>子供が要らないと宣言しつつも結婚するカップルを私は理解できません。
>子供がいないのを前提とすれば法律が婚姻について定める親権は無用、相続も成人間なら遺言で充分
>同棲・内縁関係以上に何が必要なのでしょうか。

では、子供を作るつもりで法律婚をしたものの、結婚後に不妊が発覚し、二人だけで生きていこうと決めた夫婦は、法律婚を続ける意味は無く、離婚届を提出して内縁関係になれば良いのに、と思いますか?

あるいは、女性に子宮が無い、男性が無精子症、結婚の時点で女性がアラフィフ以上の年齢…等々の理由で、最初から妊娠は望めないと分かっており、代理出産や精子提供、養子縁組も考えておらず、それでも、同棲でも事実婚でもなく、法律婚をするカップル、いますよね。そういう人達のことも、理解不能ですか?

>子供を産むという世間の常識に反旗を翻した人たちも、結婚という形式にすがっているとすれば滑稽

私は子供が欲しくなくて、子供がいなくても良いと言ってくれる男性と法律婚しました。あなたにとっては無意味でも滑稽でも、私には有意義なことですので。

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そのとおり

アシカ

そうなんですよ。ヨミドクターの観点から言っても身近に監護者が必要、これが酒井さんの言われる結婚の安心感なのでしょう。でも、それが本当に必要になる...

そうなんですよ。ヨミドクターの観点から言っても身近に監護者が必要、これが酒井さんの言われる結婚の安心感なのでしょう。でも、それが本当に必要になるのは老後、その時に配偶者の方が先に逝ったり監護が必要だったりして、当てにできません。だからそれを本当に求めるならばやはり子供に託すのが一番安心ということではないでしょうか。私は親の介護で老人ホームの身寄りなく誰も訪れない老人を見てきました。酒井さんは自らの生い立ちから子なしの選択をされた、しかし人生の最期から逆算して考えれば今をどう評価されるのか、是非とも取材していただきたいです。

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誰もが安心して老い、死ねるために

岩永直子(ヨミドクター編集長)

アシカさま コメントありがとうございます。わたくしも子無し当事者ですので、現状では死ぬ時にどうなるのだろうと不安があります。ただ、子持ちの方でも...

アシカさま
コメントありがとうございます。わたくしも子無し当事者ですので、現状では死ぬ時にどうなるのだろうと不安があります。ただ、子持ちの方でも、不仲だったり、病気など子どもが親の面倒をみられない事情が発生したり、世話になれるという確実な保証はないわけですから、誰もが一人で死ぬリスクは抱えているわけです。このあたりについては連載4回目で酒井さんも語っていらっしゃるので、引き続きご覧ください。また、前のコメントの追加ですが、法律婚という形を取らなくても、法的効力のある書類で関係性を証明して婚姻と同等の権利を確保する方法もございます。https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20141106-OYTEW52400/?catname=news-kaisetsu_kaisetsu-kikaku_kokoro-genkijyuku 参考になさってください。

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結婚の意味

アシカ

酒井さんのように独身、子供なしを貫かれるのは分かりますが、子供が要らないと宣言しつつも結婚するカップルを私は理解できません。 結婚とは法律婚、そ...

酒井さんのように独身、子供なしを貫かれるのは分かりますが、子供が要らないと宣言しつつも結婚するカップルを私は理解できません。
結婚とは法律婚、それによってどんな効果があるのか考えてみてください。子供がいないのを前提とすれば法律が婚姻について定める親権は無用、相続も成人間なら遺言で充分です。扶養義務も夫婦だけならば愛情の喪失とともに清算すべきでしょう。同棲・内縁関係以上に何が必要なのでしょうか。
結局、子供を産むという世間の常識に反旗を翻した人たちも、結婚という形式にすがっているとすれば滑稽なことです。

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アシカさま

岩永直子(ヨミドクター編集長)

コメントありがとうございます。  結婚に何を求めるかは、それこそ「人それぞれ」という言葉で終わってしまいますが、ヨミドクターですので医療や介護関...

コメントありがとうございます。
 結婚に何を求めるかは、それこそ「人それぞれ」という言葉で終わってしまいますが、ヨミドクターですので医療や介護関係で考えますと、法的な家族関係がないと医師からパートナーの病状説明さえ受けられない可能性が高いですし、パートナーが判断能力を失った時に、代わりに治療の選択をするということも難しいのが現実だと思いますよ。

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