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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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ジカ熱、治安のリスクを回避…松山選手のリオ五輪辞退に思う

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 今日も、リスク回避のお話です。先日は 「みんなで手すりにつかまろう!」という無責任とも思える、そして無用な心の 軋轢(あつれき) を生じるポスターのお話 をしました。その結論として、危ないことには近づかない努力も大切だと締めくくりました。

 そして、今度はゴルフ界のスーパースターである松山英樹選手が、なんとリオ五輪を辞退したというニュースです。読売新聞の記事は、「 ジカ熱に不安、ゴルフ・松山選手がリオ辞退…『虫さされに極度に強い反応』 」という見出しです。

 そして、ご本人のコメント(抜粋)は以下の通りです。

 関係者から情報はいただいてはおりますが、開催地リオデジャネイロにおけるジカ熱および治安に関する不安を十分に払拭出来ませんでした。私は虫刺されに対して極度に強い反応が出る傾向があり、これまで何度も虫刺され部位の 化膿(かのう) による影響で十分な態勢でプレーに臨めない事態に見舞われました。こうした不安を抱えながらでは、世界と戦う上でベストなコンディションで臨めないと考え、苦渋の決断ではございますが、辞退を決意した次第です。

松山選手の決断、非難されないように…

 辞退の理由は、ご自身のコメントで明らかなように、「開催地リオデジャネイロにおけるジカ熱および治安に関する不安を十分に払拭出来なかった」ことです。僕はこの選択は間違っていないと思っています。ジカ熱は基本的には妊婦が感染すると、胎児に小頭症の子供が産まれる確率が激増します。

 しかし、その他の健康被害に関しては情報が少なく、ある意味、詳細は不明とも考えられます。そして松山選手は虫刺されに極度に強い反応を示す体質だそうですから、致し方ありません。

 また、バングラデシュのレストランでのテロ、トルコでの空港テロ、ベルギーの空港テロ、パリでの同時多発テロなどなど、警察や軍の監視が及びにくいソフトターゲットを狙った、そして外国人を巻き込んだ無差別攻撃が増加しています。これらのテロに遭遇する確率は実は極めて少ないのですが、やはり不安であることは間違いありません。リスクを回避するという基本姿勢は、健康長寿にも、 怪我(けが) の防止にも、そして不幸な事故に巻き込まれないためにも大切な視点です。

 松山選手のコメントによると、虫刺されに強い反応があり、それが心配だということで、微妙に反対意見、つまり、五輪を辞退するなどとんでもないという発言から逃げているようにも感じました。だって、ゴルフは自然の中で行うスポーツですから、蚊に刺されることもあるでしょう。当然に、それに対して防衛する方策を講じて既に試合に出場しているはずです。つまり、いろいろな事情での決断と思っています。

 ゴルフは112年ぶりにオリンピックに登場するスポーツだそうですが、すでに10人以上が出場を辞退しています。松山選手が辞退すれば、他の有力選手が五輪に出て活躍することでしょうし、それを願っています。

 僕はリスクを回避する松山選手が非難されることがないように願っています。五輪を辞退してまでも行きたくない場所だったのです。そして、そんな時期だったのです。人の直感は、結構合っていることがあります。また、不安な状態で臨んでも優秀な成績は残せないでしょう。リスクを恐れて、敢えて出場して十分な結果を残せないよりも、リスクは承知で、でもオリンピックに出たい選手が普段以上の成績を残してもらいたいと願っています。

リスクの少ないスポーツとは?

 さて、健康維持のために最良の運動は何かという話で締めくくりますね。スポーツには基本的にリスクがあります。怪我をします。運が悪いと死亡することもあります。僕が趣味にしているトライアスロンでも (まれ) に死亡事故があります。

 適切な指導を受けずにランニングを始めると、膝を壊す人が少なからずいます。チームを作って得点を争う競技は、チームのために無理をすることもしばしばです。

 減量のためにはプール内の歩行を勧めています。水中では浮力が働いて、膝や腰の障害が激減するからです。しかし、プールサイドや階段で、更衣室で転ぶ事故は少なくないのです。プールは面倒くさいと思う人に最良の運動は、やはり散歩と思っています。毎日30分の散歩です。

 身の回りには 沢山(たくさん) のリスクがあります。そして、少々のリスクは承知で生きていることも事実です。また、リスクを避けて生きることも知恵のひとつです。そんなバランスの中で生きているのです。各個人の責任で、そのバランスを決めれば良いのでしょう。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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