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『子の無い人生』が話題のエッセイスト酒井順子さん

編集長インタビュー

酒井順子さん(1)女の人生を左右するのは子どもの有無

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相手の目をじっと見つめながら語る

 少子高齢化で社会保障財源の未来が不安視される中、「産んでいない」ということは、個々の選択として受け止められるよりむしろ、解決すべき「社会問題」として扱われることが増えた。その「負の 烙印(らくいん) 」は、当事者の心にも刻まれていく。

 「具体的に誰かに何かを言われるというわけではないのですが、少子化が進んでいく中で自分が産んでいないとなると、『ああ、社会のお役に立てていないな』と自分で考えてしまう。少子高齢化社会がどんどん進む中、自分がいずれ高齢者となり、周りに負担をかけることになるのだろうと思うと、申し訳ない気持ちにはなりますね。なんだかんだ言っても、“子を産み、育てる”ということは、世の中の多くの人が経験しています。それを自分がしていないと、学校の宿題をまだ提出していない感覚に陥るのではないかと思います。別にやらなかったからといって罰せられるものではないのですが、“宿題していない”という罪悪感がずっと続くというか……」

 著名人でも最近、女優の山口智子さんが「意識的に子どもを持たない選択をした」と語り、小泉今日子さんが「やり残したことがあるとしたら子どもを産まなかったこと」と書き、NHKのアナウンサーが子どもを持たない人生を「社会の捨て石になる」と表現して話題になった。その道でそれなりのキャリアを築いた人であっても、産む産まないが人生に影響していると明かし、その告白が社会で話題になったことについて、酒井さんはどう感じたのだろう。

 「ああ、やっぱりみんな考えていたのだと思いましたね。山口さんや小泉さんの思いは意外でしたし、やはり普段は話さないだけに、その本音のようなものに驚かされたところはあります。世間で話題になったのは、芸能人はとても華やかな世界で満足して生きているというイメージがあったのが、そうではないのだな、同じように悩んでいるのだなと気づかされたこともあるのではないでしょうか。『私と一緒だ』と思う人がいたり、逆に『私は違う』と思う人がいたり、普段は持たざる者と持てる者の対立や互いへの遠慮があって話しづらい話題なわけですが、あれをきっかけに語り合えたのではないかと思います」

 政治家のプロフィルでも子どもの有無や人数が書かれるのは女性、テレビのコメンテーターでも「何児の母」というのが売りにされ、「ママタレント」という肩書で再起を図る芸能人も多い。子どもの有無が話題になるのは女性ばかりで、男性が問われることはない。

 「男性も子育てをしていることが売りになりつつありますが、やはり女性よりは割合が少ないし、子育てをしていないということが人生の欠落として見られるのも男性の方が少ないと思います。子どもの有無が肩書化されにくい、というか。男性が子育てや子どもの有無について語り合う場も少なく、男性向け週刊誌などで子どもネタが取り上げられるケースはほとんどありません」

 そして、少子化問題を論じる時も、「卵子の老化」など出産のタイムリミットや「育児とキャリアの両立」の啓発活動をする時も、その対象はほとんど女性になっている。酒井さんは「子ナシ男性の場合」という章で、こう指摘する。

  晩婚化問題に関しても同じですが、ほとんどの女性は結婚もしたいし、子供も欲しいと思っているもの。しかし男性と交際しても、相手が結婚したがらなかったり子供をほしがらなかったりすることがしばしばあるのです。だというのに、日本で晩婚化問題や少子化問題を俎上に載せる時は、ほとんど「女性の問題」として語られるのであり、男性をどうにかしようという視点は多くない。(『子の無い人生』より)

 「ここをどうして少子化対策とか考えている人たちも気づかないのだろうというのがものすごく疑問です。やはり為政者側に男性がまだまだ多いからなのかなと思うのです。こんなに女の人が産みたがっているのに産めずに終わる人が多いのは、男性のせいもあることに早く気づいてほしいなと思いますね。どういう手段をとればいいのかはわかりませんが、たとえば、女子高生に赤ちゃんを抱っこさせて母性を育てる、というような教育がある。だったら同時に父性も育てる教育をしなくちゃいけないのかなと思います。ただ、30代独身男性などに話を聞くと、そういうことを言われると『放っておいてくれと思う』のだそうです。男性は子作りの期限が女性よりも先にあって女性と切実さが違うせいもありましょうが、結局は“産まない性”だからなのでしょうね。社会の中でまだまだ、出産や育児は女の仕事と目されているし、若いうちからの男子教育が必要だと思います」

 (続く)

【略歴】酒井順子(さかい・じゅんこ) エッセイスト

 1966年、東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを執筆。立教大学社会学部卒業後、広告会社に入社するも、3年で退職。その後は執筆業に専念している。2003年10月に出版した『負け犬の遠吠え』(講談社)で、第4回婦人公論文芸賞と第20回講談社エッセイ賞をダブル受賞。『下に見る人』(KADOKAWA)、『地震と独身』(新潮社)など著書多数。

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編集長インタビュー201505岩永_顔120px

岩永直子(いわなが・なおこ)

1973年、山口県生まれ。1998年読売新聞入社。社会部、医療部を経て、2015年5月からヨミドクター担当(医療部兼務)。同年6月から2017年3月まで編集長。

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8件 のコメント

他家族に興味はない

あーむ

前回、既婚か未婚。 今回は子ありか子なし。 きっとこの次は 子供の性別、 子供の障がいの有無、 子供の学力、運動神経の差、 子供の受験、 子供の...

前回、既婚か未婚。
今回は子ありか子なし。

きっとこの次は
子供の性別、
子供の障がいの有無、
子供の学力、運動神経の差、
子供の受験、
子供の就職、
子供の容姿、
子供結婚の有無と孫の有無、
と、色々な項目で負け組勝ち組と優越感を探していくんでしょうね。

最後の集大成は自分の老後や介護が必要になったとき子供が力になってくれるかとかになりそうです。
子供がいない人は子供がいないなりに子あり家庭より時間も金銭的にも精神的にも余裕がある。上記の不必要な負け組勝ち組とも無縁になるので悪いことばかりでもないと思うのですけどね。
子供がいるから故の上から目線なわけではないのですが、子無し家庭からみれば不快になるのでしょう。見下しても、上を見上げてもどうにかなるもんでもないのに

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個人の問題

さゆり

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私は、晩婚でしたが、子どもは持つべきと思い、50近くまで不妊治療をしました。1度妊娠した時に、担当医から出生前診断をするか聞かれ、迷いました。夫のどんな子も我が子という言葉に診断しませんでしたが、結局、4ヶ月で流産しました。悲しいというより、42歳で出産する不安からの解放感の方が大きかったかも。夫は常にまず夫婦が基本、子どもは授かればというスタンスで、いつも二人でいると楽しく過ごせます。でもこんなことは他人にいうことでもないので、言いませんし、確かにどちらかがいなくなったら、一人ですが。二人で長く過ごせたことに感謝したいと思います。負けとか勝つとかそのような視点で生きることの価値を決めることに疑問を感じます。

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疑問

「自ら子供を産まない選択をするのは生物の中で人間だけです」 そうなんですよね。 なぜなのでしょうか? 人間以外の生命でLGBTとかあるのでしょう...

「自ら子供を産まない選択をするのは生物の中で人間だけです」

そうなんですよね。

なぜなのでしょうか?

人間以外の生命でLGBTとかあるのでしょうか?

両性具有

個体を切断されてもそれぞれが個体としてなりたつ生命体。

生きている以上、生き続ける必要があります。

でも、人は自殺もします。

自ら生命を断つのです。

人間は生き物の本質から、はずれてるのでしょうか・・・?

でも・・知能を発達させた生命は今の人類と同じ問題にぶち当たるとおもう。

私は何がいいたいのだろう?

「産めよ増えよ地に満ちよ」それ絶対、合っている。

でもそうできない人もいるから皆で考えようよ!

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