文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

『子の無い人生』が話題のエッセイスト酒井順子さん

編集長インタビュー

酒井順子さん(1)女の人生を左右するのは子どもの有無

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
酒井順子さん(1)女の人生を左右するのは子どもの有無

「女性の人生に影響するのは、子供を産んだか否か」と語る酒井さん

 独身子無し女性の実態を描いたベストセラー『負け犬の遠吠え』から十数年。人気エッセイストの酒井順子さん(49)が、今度は、『子の無い人生』(KADOKAWA)を出版して話題を呼んでいる。「女の人生を左右するのは、結婚しているか否かではなく、子どもがいるかいないかだ」という分析には、既婚子無しの私もかなり思い当たる節がある。「少子化対策」があちこちで叫ばれ、何かと肩身の狭い思いをしがちな「子無し」を代表して、酒井さんにあれこれ聞いてきた。

 出版社の会議室で取材した酒井さんは、会話をしながら私の目をじっと見つめてきて、こちらがどぎまぎしてしまう。そして、その目力を発揮したまま、子無し当事者である私にも時折、「どう思います?」「会社で肩身の狭い思いをすることありますか?」「不安になった時、何で気晴らししています?」と質問を投げかけてくるので、油断ならない。あれよあれよとこちらも本音を語らされ、人を観察し、何げない会話にもアンテナを張り続けるエッセイスト魂を感じさせられた2時間だった。

 『負け犬』は、自虐的なユーモアがちりばめられた明るいエッセーという印象だったが、『子の無い人生』は違う。子無しのために「子どもの写真なし」の年賀状を別に用意する「心遣い」を見せる子持ちへのいらだちから、「女性は家で子育てに専念すべき」と主張する「子育て右翼」への疑問、独身のまま亡くなると実家の墓に入れない沖縄の風習、子産みの「諦め時」や、 看取(みと) りや死後の後始末の問題など、全体のトーンがシリアスだ。読者の受け止め方で興味深かったのは、複数の人が「泣きました」と書いてきてくれたことだ。これまでたくさんの本を書いてきたが、そういう反応は初めてだった。

 「結婚して子どもがいない人からも、独身で子無しの人からも。どこの部分で泣いたかは人それぞれだったんですが、今まで“産んでいない”ということについて誰かと話したり、深く考えたりしたことなく、中年まで生きてきた人が多かったのかもしれない。私も『なぜ産まなかったのか』については、考えるのを避けて生きてきたところがありますから。もしかしたら、後悔がそこにあったのかもしれないし、不妊治療をしたことがあるのかもしれない。やはり女性にとって、産むも産まないもすごくセンシティブな問題なんだなという気がしました。泣いた理由も尋ねにくいし、それぞれの心の中で思いがいろいろあったんだろうなと思います」

 「結婚していないことは自虐的に笑い話にしやすかったのですが、やはり子どもがいないということは繊細な話題ですね。『負け犬』は気軽に独身の人にプレゼントできたのですが、この本は子無しの人にはほいほいあげられません。いろいろな事情で欲しくなかった人もいれば、産みたいのに産めなかった人もいるし、なんとなく産んでいない人もいる。私も、“もしかしたら産むかもしれない”という年頃では書こうという気にならなかった。なんとなくもう自分が子どもを産むことはないだろうなと感じ始めた40代後半になって書くことができたのだと思います」

 『負け犬』を書いた35歳頃には、結婚しているかどうかが女性の「勝ち負け感」を左右しているのだと思っていた。ところが『負け犬』出版後、意外な反響があった。

 「結婚しているけれども子どものいない女性の方から、『私はどちらなんでしょうか? こんな私は負け犬なんでしょうか?』と、切実な訴えがあったんです。私はその頃は、子どもがいない既婚者のことを考えに入れていなかったので、『ああ、結婚していても、子どもがいない悩みは深いのだ』と初めて気づかされました。それから時は過ぎ去り、自分が40代後半になってきて、同級生の子どもも大きく育ってくると、子育ても大変なことばかりではなくなり、実りの時期を迎えた実感がわき始めてくる。子どもがいる人生といない人生はかなり違ってくるし、夫がいるかいないかよりも深く生活に影響し、特に老後は大きく変わってくることに気づきました」

 特に自分のこととして実感させられたのは、両親の死がきっかけだった。

 「父の死の時は母がいましたし、母はほとんど突然死だったので介護は未経験なのですが、死後の葬儀や家の片づけ、相続にまつわる手続きなど、この膨大な作業を自分が死んだ後は誰がやるんだろうと考えるようになったんですね。人が一人死ぬということはこんなに大変なことなのだとわかった時に、これを (めい) にやらせるのかと思うと、あら大変と思って。おむつを替えてもらおうとは思っていませんが、私が老人になって死ねば連絡が行くのはどうしても唯一の身内である姪になってしまいます。頼ろうと思っていなくても、どうしても降りかかってしまう。申し訳ない、という気持ちになりますねえ……」

1 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

編集長インタビュー201505岩永_顔120px

岩永直子(いわなが・なおこ)

1973年、山口県生まれ。1998年読売新聞入社。社会部、医療部を経て、2015年5月からヨミドクター担当(医療部兼務)。同年6月から2017年3月まで編集長。

編集長インタビューの一覧を見る

8件 のコメント

他家族に興味はない

あーむ

前回、既婚か未婚。 今回は子ありか子なし。 きっとこの次は 子供の性別、 子供の障がいの有無、 子供の学力、運動神経の差、 子供の受験、 子供の...

前回、既婚か未婚。
今回は子ありか子なし。

きっとこの次は
子供の性別、
子供の障がいの有無、
子供の学力、運動神経の差、
子供の受験、
子供の就職、
子供の容姿、
子供結婚の有無と孫の有無、
と、色々な項目で負け組勝ち組と優越感を探していくんでしょうね。

最後の集大成は自分の老後や介護が必要になったとき子供が力になってくれるかとかになりそうです。
子供がいない人は子供がいないなりに子あり家庭より時間も金銭的にも精神的にも余裕がある。上記の不必要な負け組勝ち組とも無縁になるので悪いことばかりでもないと思うのですけどね。
子供がいるから故の上から目線なわけではないのですが、子無し家庭からみれば不快になるのでしょう。見下しても、上を見上げてもどうにかなるもんでもないのに

つづきを読む

違反報告

個人の問題

さゆり

私は、晩婚でしたが、子どもは持つべきと思い、50近くまで不妊治療をしました。1度妊娠した時に、担当医から出生前診断をするか聞かれ、迷いました。夫...

私は、晩婚でしたが、子どもは持つべきと思い、50近くまで不妊治療をしました。1度妊娠した時に、担当医から出生前診断をするか聞かれ、迷いました。夫のどんな子も我が子という言葉に診断しませんでしたが、結局、4ヶ月で流産しました。悲しいというより、42歳で出産する不安からの解放感の方が大きかったかも。夫は常にまず夫婦が基本、子どもは授かればというスタンスで、いつも二人でいると楽しく過ごせます。でもこんなことは他人にいうことでもないので、言いませんし、確かにどちらかがいなくなったら、一人ですが。二人で長く過ごせたことに感謝したいと思います。負けとか勝つとかそのような視点で生きることの価値を決めることに疑問を感じます。

つづきを読む

違反報告

疑問

「自ら子供を産まない選択をするのは生物の中で人間だけです」 そうなんですよね。 なぜなのでしょうか? 人間以外の生命でLGBTとかあるのでしょう...

「自ら子供を産まない選択をするのは生物の中で人間だけです」

そうなんですよね。

なぜなのでしょうか?

人間以外の生命でLGBTとかあるのでしょうか?

両性具有

個体を切断されてもそれぞれが個体としてなりたつ生命体。

生きている以上、生き続ける必要があります。

でも、人は自殺もします。

自ら生命を断つのです。

人間は生き物の本質から、はずれてるのでしょうか・・・?

でも・・知能を発達させた生命は今の人類と同じ問題にぶち当たるとおもう。

私は何がいいたいのだろう?

「産めよ増えよ地に満ちよ」それ絶対、合っている。

でもそうできない人もいるから皆で考えようよ!

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

『子の無い人生』が話題のエッセイスト酒井順子さん

最新記事