予防医学研究者・石川善樹の「続けたくなる健康法」
yomiDr.記事アーカイブ
地域で役割ある高齢者は長生き
こんにちは。
予防医学研究者の石川です。
今回は、最近発表させていただいた、「地域で役割ある高齢者は長生き(死亡率12%減)」という研究についてご紹介したいと思います。
「孤立」はたばこと同じくらい健康に悪い
以前のブログ(第9回「つながりを大切にするとは?」)でも書かせていただきましたが、予防医学の研究が進み、「孤立」は健康にとって、たばこと同じくらい悪いことがわかってきました。そしてわが国でも、自治会など社会組織へ参加することは健康に役立つという多くの研究報告が行われています。
しかし、社会組織への参加の仕方は人それぞれです。たとえば、ある人は会長のような立場で参加するでしょうし、またある人はそのような特段の役割を持たずに参加しているかもしれません。
私たちが興味を持ったのは、組織内での立場(例:役員についているか否か)によって受ける恩恵が異なるのではないかということです。ちなみにそのような研究はこれまで行われていませんでした。
そこで私たち(千葉大、東大、米ハーバード大の研究者チーム)は、地域で役割を担っている高齢者は、長生きするのか、調べてみました。愛知県で、自治会などの組織に参加している65歳以上の高齢者1万271人を約5年間(2003~08年)追跡し、役員(例:会長、世話役、会計係など)かどうかで、死亡状況が異なるかを検討しました。
その結果、通常メンバーと比較して、役員の死亡リスクは12%減少していることが分かりました(下図1)。
老人会などの役員は死亡リスクが12%減
より詳しく言うと、死亡状況は、通常メンバーで1年あたり21.1人(1000人中)、役員で1年あたり15.3人(1000人中)でした。さらに年齢や性別、社会経済状況、主観的健康状態など役員のなりやすさや死亡率に影響を与える要因を統計的に調整した上でも、通常メンバーと比べて老人会などの役員は死亡リスクが12%減少していました。
立場や役割が、生きがい・自尊心を高める
老人会などの役員は、通常メンバーよりも死亡率が低いことが示されました。まだその理由については不明な点も多いですが、組織内で高い立場に就くことで、生きがいや自尊心が高まったことが原因の一つと考えられます。
もちろん、最終的には一人ひとりによって役割を持つことの意義は異なると思います。場合によっては、それがあまりに負担になる場合もあるでしょう。今後は社会組織への参加を促すだけではなく、どのような形での社会参加が健康に貢献しうるのか、さらなる研究が求められます。
参照(英文):Y IshikawaらBMC Public Health 2016, 16:394.
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。