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ホントはどうなの?健康食品・サプリメント

国立健康・栄養研究所

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[葉酸]妊婦さんはサプリで上手に摂取を

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 「妊婦さんは葉酸サプリメントを取らなきゃ、なんだって」そんなお話を耳にしたことはありませんか? 今回は、サプリメントも上手に利用すべきと言われている、葉酸について解説します。

葉酸はビタミンです

spinach  葉酸はB群ビタミンと呼ばれる水溶性ビタミンの一種で、細胞の分化や赤血球の生成、アミノ酸やビタミンの代謝、タンパク質の生合成などに必要な栄養素です。不足すると、動脈硬化の危険因子となるホモシステインというアミノ酸が血中に蓄積したり、異常な赤血球が生成されてしまう巨赤芽球性貧血や、腸の細胞がうまく再生できないことによる腸機能障害が起こったりします。日本人の食事摂取基準(2015年版)では、このような症状が起きないように、成人で240μg/日の葉酸を摂取することを推奨しています。

 葉酸は、ほうれん草の抽出物から発見されたことから、ラテン語の「葉」を意味する「folium」と「酸」を意味する「acid」を組み合わせて「Folic acid(葉酸)」と名づけられました。ほうれん草や菜花、からし菜、アスパラガス、春菊、ブロッコリーなどの他、各種レバーやイクラ、ウニなどにも含まれています。葉酸には、こうした通常の食品に含まれる天然型と、加工食品やサプリメントに添加物として使用される合成型があります。通常の食品中にある天然葉酸は、小腸から吸収される割合(生体利用率)があまり良くありません。それに対し、合成葉酸の生体利用率は天然型の約2倍と考えられています。

 

脳卒中、がん、認知症などへの効果も研究中

  近年では、葉酸には、欠乏症に対する効果の他に、脳卒中や心筋梗塞、がん、高齢者の認知機能低下の予防などに対する効果も期待されています。しかし、これらの効果に対しては、効くという研究結果と効かないという研究結果があり、研究の対象となった人の年齢や地域、摂取した葉酸の量や期間、形態など様々な条件によって異なります。推奨量を大きく上回る量の葉酸を摂取することにより、このような効果が得られるかどうかについては、まだこれから、多くの研究データの蓄積が求められると言えます。通常の食品から葉酸を過剰に摂取することはないのですが、サプリメントなどでは生体利用率の良い合成葉酸を簡単に摂取することができ、大量に摂取すると、発熱・じんましん・紅斑こうはん・かゆみ・呼吸障害などの葉酸過敏症を起こすことがあります。たくさん取れば取るほど良いというものではありませんので、サプリメントからの摂取量は1mg(=1000μg)/日を超えないようにしましょう。

 

サプリメントも上手に利用するといい理由

 サプリメントの利用は過剰摂取につながりやすいため、一般的には勧められません。それでも、「妊婦さんは葉酸サプリメントを」と言われるには理由があります。それは、葉酸の効果として、上記の他にもう一つ、胎児の神経管閉鎖障害(二分脊椎症や無脳症という先天性の疾患)のリスク低減があるからです。受胎前後に母体が十分量の葉酸を摂取していると、この先天性疾患が起こる可能性(リスク)を減らせることが多くの研究で明らかにされています。そのため厚生労働省は、妊娠を希望する女性に、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月まで、400μg/日の葉酸を推奨量(18歳以上は240μg/日)にプラスして摂取することを勧めています。

 2014年の国民健康・栄養調査の結果では、日本人の女性が普段の食生活で摂取している葉酸の量は、平均276μg/日でした。前述のように、通常の食品に含まれる天然葉酸は生体利用率が悪いことも併せて考えると、必要な量を食事から摂取するのは難しいのです。そこで、妊娠を希望する女性が神経管閉鎖障害のリスクを減らすためには、生体利用率の良い、加工食品やサプリメントに添加された合成葉酸を上手に利用すると良いと言われています。

 

吸収の良い「合成」がおすすめ

 神経管閉鎖障害リスク低減のためには、葉酸の摂取量だけでなく、摂取する時期も重要です。胎児の神経管ができる時期は受胎後28日頃からですので、この時期に十分な葉酸を摂取している必要がありますが、これは多くの場合、まだ妊娠に気づいていない時期です。そのため、「妊娠の1か月以上前から」や、「妊娠を希望する女性は」と言われるのです。また、妊娠3か月以降は、すでに胎児の神経管は出来上がっていますので、神経管閉鎖障害リスクの低減効果は望めません。利用するならば、適切な時期に利用しなければ意味がありません。

 また、インターネットなどの葉酸サプリメントの広告では、天然や自然を強調したものが目につきます。これは、「天然=良い、合成=悪い」という、根強い誤解を狙ったものですが、葉酸は「天然のものは生体利用率が悪いので、合成のものを取るように」推奨されている栄養素です。「天然だから安心」という宣伝には引っかからないようにしましょう。

 妊婦さんに必要な栄養素はたくさんあります。しかし、サプリメントの利用が勧められているのは神経管閉鎖障害に対する葉酸のみです。その葉酸であっても、まずはバランスのとれた食事から摂取し、どうしても足りない分をサプリメントで補うのが基本です。サプリメントを選ぶ時には、「葉酸の他に、あれもこれも一緒に簡単に摂取できるものを……」と欲張らないようにしてください。中にはハーブのような安全性の検討が十分になされていない成分も一緒に含んだ葉酸サプリメントもあります。葉酸をきっかけに、いろいろなサプリメント摂取につながっていかないように気を付けてください。

 

葉酸について、もっと詳しく知りたい方は、国立健康・栄養研究所 「健康食品」の安全性・有効性情報サイトを参照してみてください。

・葉酸の安全性・有効性に関する科学的根拠:

     素材情報データベース「葉酸」

・葉酸の基本情報:

     「葉酸解説」

・妊娠中の葉酸摂取:

     「妊娠中の食事とサプリメントについて」

     「妊娠中の食事とサプリメントについて 赤ちゃんとあなたのために」

                (パンフレット)

     「お母さんになる前に、葉酸を摂ろう!」(リーフレット)

 

(国立健康・栄養研究所 佐藤 陽子)

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国立健康・栄養研究所

国立健康・栄養研究所(健栄研、東京都新宿区)は、国民の健康の保持・増進に関する調査研究、栄養や食生活に関する調査研究等を行う機関。1920年に前身の機関が内務省に創設されて以来、国民の健康・栄養に関する調査研究に従事し、近年は「健康食品」の安全性・有効性に関する調査研究や情報提供も行っている。2015年4月に「医薬基盤研究所」(基盤研、大阪府茨木市)と統合し、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(略称:医薬健栄研)が設立され、現在はその中の組織として位置づけられている。

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