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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

医療・健康・介護のコラム

眼瞼けいれん(5)「けいれん」という病名が…誤診の原因に?

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  眼瞼(がんけん) けいれんという病気は、専門家が知っていてさえすればよい、まれな病だと思えば、以下のお話には興味がわきにくいでしょう。

 しかし、あなたにも起こるかもしれない非常に (つら) い不具合なのに、眼科医を含めて一般の医師はよほど勉強し関心を持っている人でないと、なかなか診断に至らないという舞台裏の事情を知れば、きっと関心が湧くはずです。

 今日でも、自分でネットや新聞、テレビなどで得た情報から、その可能性を疑って受診される方が、眼科医などから紹介される数よりまだまだ多いのです。

 自身の病状や不都合は自分にしかわからないのですから、自分も、診断や治療に積極的な関心を持つべきです。ですが、不思議に多くの日本人は診断や治療を医師に丸投げしていて、病の成り立ちや、治療の選択肢に関心が薄く、自分が受けた手術の内容や、現在使用している薬物さえ、ほとんど内容を知らないという例によく遭遇します。

 一方で、私が総合的に判断して、「眼瞼けいれん」と診断し、その病や対応法についてある程度時間をかけて説明した場合でも、別の医師に、「けいれんなんてないじゃないか」と否定され、何を信じたらよいかわからなくなってしまう人もいます。

 そんな事態が起こる理由のひとつに、病気の名称がよくないことが挙げられます。

 「けいれん」というと多くの人は、勝手にぴくぴくと動く状態を頭に描きます。しかし、実際に患者さんが「ピクピク動く」ことを自覚している例は少ないものです。

 ではなぜ「けいれん」なのでしょうか。

 この病気が発見されたのは、1910年に遡ります。アンリ・メイジュというフランスの神経学者(今日の精神神経科医に近い)が、勤務する精神病院に、精神的にはほとんど異常がないのに、目を固く閉じ、開けて下さいと命じても眼の周囲の筋肉や表情筋が勝手に動く「けいれん」ばかりで、全く自力で眼を開けることができない症例を学会報告したのがはじまりです。神経学的には局所ジストニア(ジストニアは不随意な筋肉運動の意味)に属するものと、のちに分類されました。

 今でも、眼瞼けいれんの重症例を「メイジュ症候群」と呼び、彼の名前が残っています。

 さて、そういう重症例は別にして、自在に眼を開けられない、不必要なまばたきが多発するというようなところに「けいれん」の性質が確認できるものの、目立った「ピクピク」運動は通常前面には出てきません。

 それで、患者も医師も「けいれん」はないと即断してしまうのです。

最も困るのは薬物性の場合です。「けいれん」が目立たないため、薬の副作用として認識されにくく、いつまでも苦痛が続くのですが、それはまた別の機会に話題にしましょう。

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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