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がん診療の誤解を解く 腫瘍内科医Dr.勝俣の視点

コラム

がんを正しく恐れること(下)~検診に向かないがんもある~

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 「毎年検診していたのに、なぜ、がんが見つからなかったのでしょう?」

 Fさんは、毎年、人間ドックを受け、婦人科検診も受けていたそうです。

 昨年10月に人間ドックを受け、異常がなかったと言われたのですが、今年の2月から急にお なか がふくれてきて、卵巣がんと診断されたのです。

 このように、毎年検診をしていたのに、がんが見つからなかったという人は、よくいらっしゃいます。

検診に向かないがんとは?

 検診に向かないがんをご存じでしょうか?

 “毎年検診をしていたのに、がんが見つからなかった。”

 などということを、時々耳にすると思います。

 がんには、数か月であっという間に、遠く離れたほかの臓器やリンパ節へ広がり(遠隔転移)、超高速に進行するがんから、比較的ゆっくりと進行するのんびりがん、また、がんと診断されてもほとんど進行しないがんまで存在します。

 急性白血病や胚細胞性腫瘍のように増殖速度が速いがんや、甲状腺乳頭がんや前立腺がんのように増殖速度が比較的遅いがんがあります。

 同じがんでも、増殖速度が速いがんと、遅いがんがあります。

 あっという間に遠隔転移まで起こしてしまう乳がんもあれば、何年も進行せずゆっくりと進行する乳がんもあります。

 私の患者さんの中にも乳がんと診断されましたが、高齢で積極的治療を希望されず、5年間でわずかに大きくなった程度で様子を見ている患者さんがいらっしゃいます。

 図は、米国国立がん研究所のホームページに掲載されているものです(1)。

 がんの種類を進行速度別に分類して、1.急速に進行するがん(急速がん)、2.比較的ゆっくり進行するがん(のんびりがん)、3.非常にゆっくり進行するがん(超のんびりがん)、4.がんであるがほとんど進行しないがん、の4つに分類しています。

図 がんの進行速度による分類(米国国立がん研究所(1))
がんを正しく恐れること~がんは検診さえしておけばよいというのではない~その2

検診に向かない急速がん

 急速がんは、数か月、もしくは数週間のうちに、あっという間に進行がんになってしまうがんです。

 急速がんの代表は、急性白血病や胚細胞性腫瘍、小児がんや固形がんの一部です。

 これらのがんは、急速に進行するので、検診で見つかることがほとんどありません。毎年検診していても、半年前に検診を受けていたとしても、あっという間に進行するので検診で見つからないのです。

 固形がんの一部のがん、乳がんや肺がん、卵巣がん、胃がん、大腸がん、 膵臓すいぞう がんなどにも見られます。

 卵巣がんは、発見された際には半数以上が進行がんで見つかるという難治がんの一つです。卵巣がんで、CA125という血液中の腫瘍マーカーを定期的に測定するのと、 ちつ 内に検査機器を入れる 経腟けいちつ 超音波検査を定期的にするのとを組み合わせた検診法の有効性を検証するランダム化比較試験が米国で行われました(2)。

 その結果は、検診群は非検診群と比べて、発見率はわずかに増加させるものの、死亡率を減少させることができず、卵巣がんに対するCA125測定と経腟超音波検診は無効と判断されました。

 このことは、卵巣がんは急速がんが多いため、検診が有効でなかったとも考えられると思います。

 急速がんは、あっという間に進行して、転移してしまう性質があります。放っておくと命に関わってしまいますので、大変です。

 では、検診が向かない急速がんに対してはどうすればよいのでしょうか?

 急速がんは、細胞分裂が活発で急速に進行します。そのような細胞分裂が活発ながんに対しては、抗がん剤がよく効きます。

 急性白血病や胚細胞性腫瘍は、抗がん剤の発達により、治療成績が飛躍的に向上しました。固形がんでも、進行の速い卵巣がんや膵臓がんに対しては、抗がん剤の開発が進んでいます。

 このように急速がんに対しては、検診よりも、よりよい治療法の開発が必要であり、今後も、続けられることと思います。

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katsumata

勝俣範之(かつまた・のりゆき)

 日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授

 1963年、山梨県生まれ。88年、富山医科薬科大卒。92年国立がんセンター中央病院内科レジデント。その後、同センター専門修練医、第一領域外来部乳腺科医員を経て、2003年同薬物療法部薬物療法室医長。04年ハーバード大学公衆衛生院留学。10年、独立行政法人国立がん研究センター中央病院 乳腺科・腫瘍内科外来医長。2011年より現職。近著に『医療否定本の?』(扶桑社)がある。専門は腫瘍内科学、婦人科がん化学療法、がん支持療法、がんサバイバーケア。がん薬物療法専門医。

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1件 のコメント

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マーキー

17年前に渡米して、癌の新しい治療法の開発の研究をしている、勝俣先生と同い年の元内科医です。癌の検診についての今回のお話を非常に興味を持って読ま...

17年前に渡米して、癌の新しい治療法の開発の研究をしている、勝俣先生と同い年の元内科医です。癌の検診についての今回のお話を非常に興味を持って読ませていただきました。非常に意味のある情報を発信していただきありがとうございます。正しい科学に基づいた医療を患者さんに理解いただき施行してゆくトランスレーションは必要性がますます高まっているものの、医療側の勉強不足と、情報発信の不足からまだまだ不十分です。アメリカでは、特定の疾患については、患者団体がそのような機能を担っている場合もありますが、日本ではそのようなこともまれかと思います。その意味で、このコーナーの持つ意味は大きく、勝俣先生と、場を提供する読売新聞に敬意を表します。

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