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知って安心!今村先生の感染症塾

医療・健康・介護のコラム

結核…今そこにある危機

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 「世界人口の約3分の1は、結核に感染しています」…まさかと思うでしょうが、これは本当の話です。そして今、世界では「薬の効かない結核菌」が大きな問題となっています。日本も決して他人事ではありません。結核は「過去の病気」ではないのです。

世界の3分の1が感染?

 結核は「世界三大感染症」のひとつとされています(あと二つはHIV感染症とマラリアです)。 結核菌に感染したとしても、そのすべてが発症するわけではありません。感染しても発症するのは10%くらいだといわれ、このうち5%が1年以内に発症し、残りの5%は一生の間のどこかで発症するとされています。つまり、発症しているよりも、はるかに多い感染者がいることになるのです。これが、世界の3分の1の人が感染しているといわれる理由です。

日本は大丈夫なのか

 「でも、それって途上国の話でしょ?日本は先進国だから、きっと大丈夫」…なんて声も聞こえそうですね。しかし、日本では今も多くの感染者が報告され、世界の中でも「中 蔓延まんえん 国」とされているのです。

 日本では、明治時代から結核の大きな流行がありました。結核が死亡原因の1位となっていたこともあり、「国民病」と恐れられていました。その当時と比べれば、今は衛生環境もよくなり、予防や治療も進歩しています。そのような中で、結核の発生も徐々には減ってきていますが、それでもまだ年間に約2万人もの人が発病しています。最近でも、 東京・渋谷警察署で署員らが集団感染 したり、 佐賀県の医療機関で患者や医療者が集団感染 したり、 東京都の日本語学校で学生が集団感染 したりするなどのニュースがありました。こうした様々な施設での集団感染がしばしば報道されているように、結核は今も身近な感染症のひとつなのです。

結核の多い年齢

 最初に説明したように、結核は感染した人は、その5%が1年以内に発症し、残りの5%は一生の間のどこかで発病します。日本では、過去に大きな結核の流行があったため、その当時に結核に感染してしまい、まだ発症していない人も多くいます。したがって、高齢者からの発症が多いということが、日本における結核の特徴となっています。下のグラフをごらんください。2014年に結核と診断されたうちの約7割が、60歳以上の人であったことがわかります。

結核…今そこにある危機

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今村顕史(いまむら・あきふみ)

がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長

石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。著書に『図解 知っておくべき感染症33』(東西社)、『知りたいことがここにある HIV感染症診療マネジメント』(医薬ジャーナル社)などがある。また、いろいろな流行感染症などの情報を公開している自身のFacebookページ「あれどこ感染症」も人気。

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