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在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活

医療・健康・介護のコラム

野菜をたくさん食べる秘訣は……

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野菜をたくさん食べる秘訣は……

患者さんの好みに合わせて献立を組み立てることも管理栄養士のお仕事です

 前回から、糖尿病の食事療法についてゆるっと紹介しております。糖尿病だけではなく、高血圧症や高脂血症などの生活習慣病は、毎日の食生活の積み重ねによって、良くも悪くもなることは皆さんも十分ご存じだと思います。しかし、なかなか食習慣は変えられません。「野菜をたくさん食べたいけれど、お昼は 蕎麦そば やラーメンだし、夜はつい揚げ物など肉類に偏ってしまう」という声が聞こえてきます。

 それでは、 美味おい しく野菜を るためにはどうすればいいのでしょうか。

 実を言うと私は、あまり生野菜が好きではありません。特に朝食にサラダというのは、冷たいレタスを口に入れたとたん、体が内側から冷えてくる感じがします。朝は具だくさんの温かいスープや 味噌みそ 汁の方がほっとします。そして、昼食、夕食に心がけているのは、「野菜の小鉢をプラスする」ということです。朝、忙しくてお弁当を作れなくても、野菜の和え物だけ小さな密閉容器に入れて出勤することもあります。そうすれば、コンビニでおにぎりと揚げ物だけ購入したとしても、全体のバランスは良くなります。

 さて、管理栄養士が献立をたてる時、頭の中でどんな風に料理を組み合わせているか、想像してみてください。

 まず、主食は何にするか。ごはんなのか、パンなのか、それとも麺にするのかをまず決めます。次にメインとなる主菜は、肉か魚か? 調理方法は? 最後に献立全体の味や栄養のバランスを見て、副菜となる「小鉢」を決めます。

 例えば、メインの料理が「鶏のから揚げ」だとすると、小鉢にはさっぱりとした酢の物や、青菜のおろし和えなどを合わせます。高脂血症(脂質異常症)の方の場合は、ポテトサラダなどマヨネーズを使ったものではなく、メイン料理が揚げ物のときには、なるべくオイルは使わない料理を合わせるのがおすすめです。このように、「小鉢」には献立全体のバランスを取る、重要な役割があるのです。

 野菜スープや煮物は調理に時間がかかるものです。そこでさっとゆでた青菜を水にとってからぎゅっと絞り、ザクザクと5cm程度の長さに切り、ポン酢をかけたり、 胡麻ごま 和えなどにしたりすれば、簡単に野菜料理を一品増やすことができます。

 ここで注意していただきたいのは、いくら健康に良い野菜でも、味付けをしたものをどんぶり1杯食べてしまっては、塩分摂取量が増大します。やはり「小鉢」に見合う量が適量なのです。

 糖尿病の方へのおすすめの小鉢は、食物繊維を多く含み、しっかり 咀嚼そしゃく しないと食べられない料理です。また、イモ類やレンコン、かぼちゃ、とうもろこしなど「糖質を多く含む野菜」を控えめにすることがポイントです。例えば、おふくろの味「肉じゃが」をメニューに加えるのであれば、糖質が多いじゃがいもを少し減らして、玉ねぎとしらたきを増やします。

 食材そのものを変えてしまう方法もあります。病院給食では、普通食の患者さんは「肉じゃが」の献立でも、糖尿病など食事の制限がある患者さんには「ふろふき大根のそぼろあん」など、糖質の少ない野菜を使った料理に変えていることがあります。このような工夫は、家庭でも応用できるのではないでしょうか。

 糖尿病を長く患っていると、徐々に腎臓の機能が落ちてくることがあります。腎臓は、血液をろ過して尿を生成していますが、体の中で余分になった物質をからだの外に出す役割もあります。例えば「カリウム」も体内で余分になれば、尿から 排泄はいせつ されるのですが、腎臓の機能が低下すると、カリウムが体内に とど まり、高カリウム血症となって不整脈などさまざまな症状を引き起こし、重篤な場合は死に至ることもあります。

 したがって、糖尿病歴の長い方で「腎機能が低下しています」と主治医から言われたら、カリウムを多く含む野菜や果物の摂取に注意が必要です。しかし、野菜を全く食べないと、他の栄養素が不足しますので、そんな時には、遠慮せずに管理栄養士によるアドバイスを受けてください。

 以前、私が訪問栄養指導を行っていたある80代の男性は、糖尿病の合併症で腎機能が低下していました。検査の結果、血中のカリウムの値が異常に高くなっており、医師が食習慣について尋ねてみると、毎日たくさんの果物を摂取していることがわかりました。一日に何個もみかんを食べたり、比較的カリウムを多く含んでいるバナナやメロンもかなりお好きで食べたりしているようでした。そこで主治医から私に訪問栄養指導のオーダーがありました。

 この方の場合、「果物を禁止する」ということは、ご本人の楽しみを奪うことになってしまいます。医師と相談し、私の任務は「大好きな果物を安心して食べられるように食事の組み立てを考え、アドバイスすること」となりました。一日の食事量を確認し、どの程度のカリウムの量なら摂取しても大丈夫なのかを計算します。さらにカリウム含有の低い果物を調べ、一日の摂取上限量を提案しました。その結果、1か月ほどで血中のカリウムの値が徐々に下がって、基準値内になりました。

 ちょっとした工夫と知恵で、食生活はよりよいものに変えることができます。それは病気になってしまった方も、そうでない方も同じです。大切なのは、「ひとりひとりに合った方法を継続する」ということだと思います。

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塩野崎顔2_100

塩野崎淳子(しおのざき・じゅんこ)

 「訪問栄養サポートセンター仙台(むらた日帰り外科手術WOCクリニック内)」在宅訪問管理栄養士

 1978年、大阪府生まれ。2001年、女子栄養大学栄養学部卒。栄養士・管理栄養士・介護支援専門員。長期療養型病院勤務を経て、2010年、訪問看護ステーションの介護支援専門員(ケアマネジャー)として在宅療養者の支援を行う。現在は在宅訪問管理栄養士として活動。

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