再生医療 九州・山口の現場から
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[再生医療](2)「剣山」に細胞、血管づくり
「細胞を1か所に集めると、自然に『団子』のようなきれいな塊をつくります。できた細胞団子を生け花の『剣山』のような針に刺して串団子の状態でしばらくおくと、団子同士がくっついて立体的な構造物ができあがります」
細胞だけで立体的な形をつくる方法を発明した中山功一・佐賀大教授(臓器再生医工学)の英語のプレゼン資料には、「DANGO」「KENZAN」という日本語がそのまま使われている。今、この「団子」と「剣山」の技術を使って、各地の大学の研究者たちが様々な臓器づくりに取り組んでいる。
「細胞団子」を針で固定して立体物をつくるアイデアは、中山教授が整形外科医として経験した骨折の手術からヒントを得た。金属製の細長いピンを骨片に刺して形を整え、骨がくっついた後にピンを抜く手術法だ。自然の治癒力を生かした治療法で、それを細胞レベルで実現したのが、「剣山」による臓器づくりというわけだ。
■ バイオ3Dプリンター
一つの細胞団子は数万個の細胞が集まってできており、直径約0.5ミリ。針に刺して積み上げる作業は培養液の中で行う。人の手では困難で緻密な作業を可能にしたのは、独自に開発したバイオ3D(立体)プリンターという自動化装置だ。現在は佐賀大、九州大、長崎大、京都大などのほか米国も含め十数台が稼働しているという。
佐賀大、京都府立医大と共同研究を進めているのは、血管の作製だ。細胞の塊を血管の形に積み上げ、剣山から抜いた後に培養すると、1か月半ほどで強度が増し、血管特有の内皮細胞を備えた「血管」が完成する。現在はミニブタで実験を行っている。
■ 人工透析のシャントに
当面の開発対象は人工透析患者のシャント(太い血管)だ。人工透析では大量の血液を機械を介して循環させるため、腕の複数の血管を手術でつないでシャントをつくるが、血管が傷んでいる人には難しい。そこで、患者自身の皮膚の細胞などからつくった人工血管を、シャントとして移植しようと考えている。
中山教授が開発した技術を用いて、他にも九大では肝臓や軟骨、
京都大とは、あらゆる細胞に分化できるiPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた共同研究も実施。iPS細胞からつくった軟骨細胞による人工関節の研究や神経、血管作製などに取り組む。
中山教授は「他にも心臓や半月板、先天性の病気の治療、薬の副作用やがんの研究など様々な分野での応用が広がりつつある」と話す。
(編集委員 田村良彦)
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