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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

医療・健康・介護のコラム

眼瞼けいれん(2)「まぶた開けられない」はずが…診察室では症状出ず

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  眼瞼(がんけん) けいれんは、自分の意志によらない、無目的な「ジストニア」と呼ばれる異常運動が (まぶた) やその周辺に生ずる病気です。その異常運動が、眼周囲だけでなく、表情筋、口の周囲、口の中や 頸部(けいぶ) にもみられる重症型もあります。

 ところで、私がこの病気に関心を寄せ始めたのは、大学から、今の眼科専門病院に移って、専門である神経眼科の診療を中心に診療を始めることになった、1999年以後のことです。それまで、治療は後輩に任していたのを、ボツリヌス注射による治療を自分で手掛けることになってからのことでした。

 自分で治療をするとなると、病気を一から学び直す必要がありました。日本の教科書には情けない記載しかありませんでしたから、英文の教科書や論文を随分と読みました。それでも、重症例、典型例はともかく、合点のいかないものが多く残りました。自分で、たくさん症例を経験するしかなさそうでした。

 ある時、「 (まぶ) しくて、すぐに目が閉じてしまう」と訴える人が来院しました。眼球に異常はなく、眼瞼けいれんに合致する愁訴ですが、全く普通の表情で、少しも眩しそうな表情でもありません。

「そんな風には見えませんがねえ」

 私が疑問を差し挟むと、「今は多分緊張しているから、何ともありませんが、昼間は外出もままならない」と言うのです。濃いサングラスを常用していました。

 その日は外来がすいていましたので、その患者さんと外へ出てみました。それでも、

「おかしいな。いつもはこんな風ではないのですが…」

 やはり、何ともありません。確かに曇った日ではありましたが…。

 仕方なくそのまま戻り、患者さんに (しばら) く待合室で少しお休みいただくことにして、彼女のところから診察室へと戻りかけました。

と、その瞬間から、患者さんの目に異変が生じました。

 両側の瞼をしっかり閉じて、開けようにも開かなくなってしまったのです。

「なるほど、これか」

 私はようやく、気付きました。異常運動は常時出ているとは限らないのです。初対面の私と一緒にいるような緊張した特殊な条件下では、症状が出にくいということです。

 そういう軽症例は、何も異常がないとか、単なる眼精疲労やドライアイなどと、これまで判断されてしまっていたのです。

 そこで、診察室でも、異常がわかるようなよい方法はないかと、考えました。

 それが、今日眼瞼けいれんの診断ガイドラインにも採用されている、 瞬目(まばたき) 試験です。

 この詳細は次回にお伝えしましょう。 

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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