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元記者・酒井麻里子の医学生日記

医療・健康・介護のコラム

知識も技術も人間性も 目指す医師像にたどり着くために

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知識も技術も人間性も 目指す医師像にたどり着くために

一緒に授業を受けている同級生と学校で

 夏の暑さを感じるようになり、学校からの帰り道、ホタルを見かけました。初めて見たこともあり、幻想的な雰囲気にしばらく見入ってしまいました。

 今回は、そんな自然の豊かさを感じる余裕もなく東京で働いていた頃を思い出しながら、日々考えていることを書きたいと思います。

 先日、大学で、聴診器で心音を聞くトレーニングを受ける機会がありました。心音を聞くことができる人形を使い、心臓の中にある弁が閉じる音や雑音を聞くことで、異常があるかどうか聞き分ける練習をしました。

 聴診器を使うのは初めてです。どうやってつけるのか、体のどこの部分に当てるのかなど、いちいち戸惑いながらの作業でした。

 自分の心音も聞いてみました。初めて聞く人間の心音に、普段は見えない体の中をかいま見たような気になりました。この心臓が働いてくれているから生きているんだということを、しっかり実感する機会でした。

 先生にポイントを教わりながら、音の違いについて耳を澄ませる時間は、もっと勉強して分かるようになりたいと思う有意義なものでした。

 同時に、きっと実際の患者さんを前にすると、緊張してしまい、限られた時間でなかなか落ちついて聞き分けることが難しいだろうと感じました。

 きちんと聞き分け、診察できるようになるには、これからたくさんの勉強と経験が必要だろうと思います。

 そして、私はまだ、スタート地点に立つための準備運動をしている段階、でしょうか。

 新聞社の医療部で仕事をしていた頃、自分が受けた医療について読者から意見を求める「私の医見」というコーナーを担当していたことがあります。

 メールやはがきで新聞社に寄せられるたくさんの意見の中から、週に一度、年齢層や内容が重ならないように、掲載する意見を選んでいました。

 印象的だったのは、その多くが、医師の言葉遣いやちょっとした態度に関する内容だったことです。

  うれ しかったことの意見の多くが、「体に触れて気遣いの一声をかけてくれて、すごく安心した」「丁寧に話を聞いてくれ、家族にも気遣いの言葉をかけてくれた」といった具合です。

 逆に、悲しい思いをしたり、不満に思ったりしたことも、同じく医師の言葉遣いや態度でした。患者さんや家族は、医師のことをよく見ていると思いました。

 働きながら医師を目指していた頃、取材を通じて、患者さんと信頼関係を築いておられるたくさんの医師に出会い、こんなふうになりたいと思う機会がたくさんありました。

 実際に医学を勉強し始め、こうしたトレーニングを受ける機会があると、目指す医師像はあっても、それまでにはとてもたくさんの勉強と経験が必要なのだということを改めて思います。

 最初は技術を身につけ、きちんと診断ができることだけでいっぱいいっぱいになると思います。こうした技術を使いこなせるようになり、一人で何の病気か診断ができ、治療できるようになるには、まだまだ長い道のりです。

 ですが、新聞記者として患者さんの話を聞き、客観的に医療の世界を見ていた頃に、「こんな医師になりたい」と思っていた気持ちをずっと忘れずにいたい。

 知識も技術も人間性も。身につけなくてはいけないことはたくさんです。「医師は一生勉強」と授業でもよく聞いています。

 まだ長いこれからの過程を日々楽しみながら、勉強を積み重ねていこう。

 そんなことを思いながら、しばらくふわふわ動くホタルの光を眺めていました。風が涼しい夜です。

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酒井麻里子(さかい まりこ)
 2003年、慶應義塾大法学部卒、同年読売新聞東京本社入社。北海道支社、東京本社社会部、医療部を経て、2015年3月末に退社。同年4月、島根大医学部に3年次編入学。医療部で患者さんを取材したことがきっかけで医学部を目指した。著書に『限界自治 夕張検証』(2008年)

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1件 のコメント

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頑張って下さい

shunsuke

拝読しました。医師を目指す動機、立派ですね。初心忘れるべからずという言葉がありますが、私も初心を忘れずに仕事をしていこうと改めて思いました。 あ...

拝読しました。医師を目指す動機、立派ですね。初心忘れるべからずという言葉がありますが、私も初心を忘れずに仕事をしていこうと改めて思いました。
ある程度、年齢を経てから新しいことに挑戦するのは非常に困難で苦労も多いと思いますが、頑張ってください。陰ながら応援させて頂きます。

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