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緊張の本番に「ルーチン」…「マイルール」で平常心

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心が動作に条件反射

緊張の本番に「ルーチン」…「マイルール」で平常心

ボールを蹴る前の「ルーチン」で集中力を高めるラグビーの五郎丸歩選手

 いざという時、心臓がバクバク、膝はガクガク、喉はカラカラ――。そんな経験はないだろうか。緊張を克服し、本番に強くなる方法を探った。

 昨秋のラグビー・ワールドカップ(W杯)で正確なキックを次々と決めた五郎丸歩選手。ボールを蹴る前に見せるしぐさが「五郎丸ポーズ」として有名になった。緊張をほぐすためのおまじないだろうか。

 「おまじないでもゲン担ぎでもありません。 スポーツ心理学 に基づいた『ルーチン』と呼ばれる動作です」

 そう指摘するのは、ラグビー日本代表のメンタルコーチとして、五郎丸選手とともに3年がかりでルーチンを作り上げた荒木香織・園田学園女子大学教授だ。

 五郎丸選手のルーチンは、「ボールを回す」「胸の前で拝むポーズをする」「決めた歩数で助走を取る」など決まった流れがある。こうした動きに集中することで、ボールを蹴るという本番の動作にスムーズに移行するのが目的だ。

 荒木さんは「選手は機械じゃないので、風向きや地面の状況が気になってしまう。ルーチンに集中することで、そんな雑念を取り払うことができる」と説明する。一連の動作に入ると、五郎丸選手は周りの音が聞こえなくなるほど集中力が高まるという。

 五郎丸選手も「ルーチンがなかったらと思うとぞっとする」と、効果に感心していたという。ただ、「手を組むポーズ自体には意味がない」(荒木さん)とか。

 こうしたルーチンを、私たちも取り入れられないだろうか。スポーツメンタルトレーナーの高畑好秀さんは「決まった刺激と、その後の動作や心理状態を関連づける方法が有効だ」と勧める。「パブロフの犬」が条件反射の実験で、ベルの音を聞いてよだれが出るのと同じ理屈だという。

 「この音楽を聴くと集中力が高まる」「コーヒーを飲むと頭の中がスッキリする」というように、自分でルールを決める。それを意識して繰り返すことで関連づけられ、無意識に望んでいる状態を作り出せるようになる。高畑さんは「重要な会議の時など、ビジネスへの応用も可能」と話す。

 いざ本番の場面で、人はなぜ緊張するのだろうか。

 精神科医の大野裕さんは、〈1〉自分の力の過小評価〈2〉問題の過大評価〈3〉支援はないという思いこみ――を挙げる。大野さんは「いずれも現実ではなく、本人の頭の中で起こっていること。客観的に自分を見つめ直すことで、冷静に判断できるようになる」と指摘する。ルーチンには緊張を断ち切り、冷静さを取り戻すのを助ける働きがあるという。

 「(自分に)ルーチンなんてない」と、諦めるのはまだ早い。大野さんは「本番前は、あれこれ考えすぎて緊張する。深呼吸などで間を置くことで落ち着ける」と助言する。それでも緊張がほぐれるとは限らないが、大野さんは「どんな方法にしても、完璧なんて求めない方がいい。ある程度緊張している方が良い成果にもつながる」と付け加えた。

 たとえ緊張がほぐれても、実力がなければ発揮できない。仕事でもスポーツでも、きちんと準備することは大前提。何もせずにうまくいく方法は、やっぱりない。(森井雄一)

 スポーツ心理学 
 スポーツ科学の一分野で、運動に関わる行動を、心理学の側面から研究する学問。実験や統計的な手法を用いて心理状態と成果の関係を探る研究のほか、「なぜスポーツに好き嫌いはあるのか」なども取り組むテーマになる。
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