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医療部発

医療・健康・介護のコラム

チャレンジドが挑戦 被災地への祈りを込めた菓子作り

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 プロのパティシエが全国の作業所や施設のチャレンジド(障がいのある人)たちに、一流の技を伝授する「神戸スウィーツ・コンソーシアム」が、オリジナル創作菓子「祈りのプレッツェル」を発売しました。統括講師で、オーストリア国家公認製菓マイスターの八木淳司さんが、福島県の名産品エゴマを使い、東日本大震災の被災地への おも いを込めてレシピを作成。昨年1年間、福島や仙台、東京、神戸で作業所や施設でお菓子を作るチャレンジドに講習会を行い、プロから直接、作り方を教えてきました。

チャレンジドが挑戦 被災地への祈りを込めた菓子作り

八木さんが創作した「祈りのプレッツェル」。右側はエゴマのかかったチーズ味、左側は乾燥ブルーベリーが入った甘い味

 プレッツェルは、胸の前で腕を交差する”祈り”のポーズを表したドイツ菓子。様々なバリエーションがあるそうですが、今回のお菓子は、香ばしいエゴマと、ほんのりとしたチーズ味、ほろほろと崩れる口溶けの良い生地が特徴の、ちょっと意外な味のするお菓子です。同じ形で、砕いた乾燥ブルーベリーの入った甘いバージョンもあります。八木さんによると、「福島産のイメージを大切に、おいしく、そして、作業所でも作れる工程でできるものを考案」したそうです。

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講習会でプレッツェルの作り方を教える八木さん

 神戸スウィーツ・コンソーシアムは、社会福祉法人「プロップ・ステーション」(本部・神戸市)理事長の竹中ナミさんの提唱で2008年に発足。毎年、全国各地で作業所などで働く障がいのある人たちにパティシエが直接教える講習会を開いてきました。

 
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「神戸スウィーツ・コンソーシアム」を創った「プロップ・ステーション」の竹中ナミ理事長(左)と娘の麻紀さん

 竹中さんは、重度の障がいのあるお嬢さんを持ったことをきっかけに、「ハンデのある人たちが人から何かをしてもらうだけでなく、自分自身が身につけた技能で誇りを持って働き、生活できる社会を作りたい」と、障がいのある人たちをチャレンジド(挑戦という使命やチャンスを与えられた人=アメリカで始まった呼称)と呼び、様々な就労環境を提供してきました。その考えに、製粉大手の日清製粉が共鳴。問屋さんを通じて日清製粉から話を聞いた八木さんが統括講師を買って出たそうです。

 八木さんは、オーストリア、ドイツのホテルや専門店で修業し、オーストリアで製菓マイスターの国家資格を得て帰国。国内でパティシエとして活躍していましたが、3人兄弟の一番下の息子さんが障がいを持って生まれました。「自分の技術が役立つのなら」と二つ返事で引き受けたところ、意外にも、家族や周囲に障がいのある人がいる、というパティシエたちが全国にいて、協力の輪が広がったそうです。

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協力の意義について話す日清製粉専務取締役の山田貴夫さん

 講習会は主に日清製粉が各地に持つ講習会場で開かれ、同社の技術スタッフもボランティアで参加。「日常業務の延長線上でできる、企業の社会貢献のつもりで始めましたが、思いがけず有名な洋菓子店のオーナー兼パティシエたちから直接意見を聞く機会となり、新商品開発にもつながりました」と日清製粉専務取締役の山田貴夫さん。竹中さんは「日清製粉の全社をあげた応援と、社員の皆さんのボランタリーな支援がなければ、続けることができないプロジェクト。同社の業界における信用で、多くの素材メーカーの協力も得られました」と話しています。

 現在、「祈りのプレッツェル」を製造、販売しているのは宮城、福島、神奈川、大阪、兵庫の11の作業所。ホームページ( http://www.kobesweets.org/brezel.html )に連絡先が掲載されています。

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プレッツェルを製作するチャレンジドたち(川崎市の多摩川あゆ工房で)

 その一つ、川崎市の「多摩川あゆ工房」では、今年4月から焼き菓子工房を増設し、プレッツェル作りにも力を入れています。5月中旬に見学させていただきましたが、生地を延ばす人、型を抜く人など、それぞれの工程に分かれ、手際よく作っているのが印象的でした。「講習会に参加して自信をつけた人も」と支援員の谷澤浩子さん。今は電話やファクスで随時注文を受け付けていますが、近くネットショッピングもできるようにするとのことです。

 様々な縁が重なって誕生した新しい創作菓子。今後の広がりが期待されます。

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【略歴】

館林 牧子(たてばやし・まきこ)

2005年から医療部。高齢者の医療、小児科、産婦人科などを取材。趣味は育児。

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医療部発12最終300-300

読売新聞東京本社編集局 医療部

1997年に、医療分野を専門に取材する部署としてスタート。2013年4月に部の名称が「医療情報部」から「医療部」に変りました。長期連載「医療ルネサンス」の反響などについて、医療部の記者が交替で執筆します。

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