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佐藤記者の「新・精神医療ルネサンス」

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覚醒剤招く「心の隙間」を埋めるには

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 覚醒剤取締法違反(使用など)に問われた元プロ野球選手の清原和博被告の判決公判が5月31日、東京地裁であり、懲役2年6月、執行猶予4年が言い渡された。

 高校生にして全国区のスター選手となり、プロでは記録より記憶の歴史を積み上げ、引退後も金に困ることはなかったはずの超大物が、なぜ薬物に走ったのか。清原被告は5月17日の初公判で、動機をこう語った。「いずれどこかのチームのコーチや監督になりたいと思っていましたが、依頼してくるチームはありませんでした。心の隙間を埋めるようにして覚醒剤を使うようになりました」。山のように大きな体に宿る、繊細で傷つきやすい心。体に刻んだ入れ墨は、打たれ弱い心を守る よろい だったのだろうか。

依存症患者の共通の特徴

覚醒剤招く「心の隙間」を埋めるには

埼玉県立精神医療センターが作った薬物依存症患者向けのテキスト

 覚醒剤などの薬物に走る人は、共通の傾向があると専門家は言う。埼玉県立精神医療センターは、薬物依存症患者の治療に使うテキストで、以下の六つの傾向を挙げている。

 ・自己評価が低く自分に自信を持てない
 ・人を信じられない
 ・本音を言えない
 ・見捨てられる不安が強い
 ・孤独で寂しい
 ・自分を大切にできない

 喝采を浴びていた全盛期の清原被告は、そのような思いで苦しむことはなかったはずだ。だが、けがなどの影響で成績が下降し始めた頃から、隠れていた生来の もろ い心が顔を出し、自分を追い込んで行ったのかもしれない。清原被告のケースとは異なるが、覚醒剤で身を持ち崩す人の中には、幼少期にゆがんだ環境で育ち、不当に低い自己評価しか持てなくなってしまった人も多い。

 覚醒剤の使用や所持で逮捕されると、仕事を失うなど社会的な制裁を受け、再犯を繰り返すと長い実刑が待っている。清原被告は初犯だが、「反省を促すため厳しい実刑を」とする意見も多かった。

 再犯者を実刑に処するのは、社会秩序を守るためにも当然と考えられる。だが、制裁ばかりを重視すると大切な視点が抜け落ちてしまう。「薬物依存症は脳の病気である」という視点だ。

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佐藤写真

佐藤光展(さとう・みつのぶ)

読売新聞東京本社医療部記者。群馬県前橋市生まれ。趣味はマラソン(完走メダル集め)とスキューバダイビング(好きなポイントは与那国島の西崎)と城めぐり。免許は1級小型船舶操縦士、潜水士など。神戸新聞社社会部で阪神淡路大震災、神戸連続児童殺傷事件などを取材。2000年に読売新聞東京本社に移り、2003年から医療部。日本外科学会学術集会、日本内視鏡外科学会総会、日本公衆衛生学会総会などの学会や大学などで講演。著書に「精神医療ダークサイド」(講談社現代新書)。分担執筆は『こころの科学増刊 くすりにたよらない精神医学』(日本評論社)、『統合失調症の人が知っておくべきこと』(NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボ)など。

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