在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活
コラム
糖尿病の食事療法のポイントはしっかり噛むこと、それに食べる順番も大切です
みなさんは毎回の食事にどれぐらい時間をかけていますか? 忙しいからと言って、ちゃんと 噛 まずにのみ込んでしまったりしていませんか?
最近、小学2年生になった長女が、「今日は、時間内に給食を食べ終えたよ」と 嬉 しそうに報告してくれます。というのも、長女は1年生になりたての頃は、給食の時間内に食事を終えることができなかったのです。まだ給食が残っていても、給食後の掃除が始まる前には下膳しなければなりません。聞けば、給食を食べる時間は平均して20分程度しかなく、配膳の準備に手間取ると、15分になってしまうこともあるそうです。
皆さんは、こどもの頃から「よく噛んでたべましょうね」と言われませんでしたか?
我が家でも、食事はよく噛んで、会話を楽しみながらゆっくり食べるように心がけています。寝坊してしまった朝は、そのようなことを言っていられないこともありますが、食事はただ栄養を 摂 るだけでなく、大切な「コミュニケーションツール」のひとつです。
ところが、子どもたちは小学生になると、「早く給食を食べる」ことが求められてしまいます。まだ十分な 咀嚼 力のない子どもたちが、食事をしっかりと噛むことをせずに丸のみしている可能性もあります。
「20分で食べてください」と言われた場合、子どもたちが限られた時間をまるまる使うように考えながら食べるのは、かなり難しいと思います。その結果、15分、10分で食べ終えるようになってしまいます。
配膳後に残ったおかずは、給食を早く食べ終わった子どもがおかわりできるシステムになっていれば、「たくさん食べたい子ども」はさらに急いで食べようとします。小学校の6年間で身に着いた食習慣は、将来に大きな影響を及ぼします。「給食時間の短さ」が、「早食いの大人」を作ってしまうことにならないかと、栄養士の母はとても心配です。
糖尿病の方への訪問栄養指導では、まず「よく噛んでいますか」と尋ねることにしています。そうすると、「あまり噛んでいないかも…」「あまり噛まなくても食べられるもの(ごはん・パン・麺)が好きです」との答えが返ってくることがほとんどです。
人間の体は食事をする時に熱を産生してエネルギーを消費します。これを「食事誘発性熱産生」といいます。同じエネルギー量の栄養でも、食事としてよく噛んで食べた場合と、チューブで胃に流し込んだ場合とで比較すると、チューブの場合はよく噛んだ場合の4分の1の熱産生しか得られなかったという研究データもあります。(※参考文献1)。
しっかりと咀嚼してのみ込んだ場合、体内で熱の産生が高まるのは、糖質などのエネルギー源が消費されているということです。
また、しっかりと咀嚼することで、「食欲中枢」に作用し「食欲を抑制する」というのはよく知られています。早食いの方は、満腹感が得られる前に、必要以上の食事を食べてしまうわけですね。とても忙しくて、「ゆっくりと食事なんて摂れない」という方もいらっしゃると思いますが、3食をすべて 掻 き込むように食べるのではなく、せめて1食はゆっくりと咀嚼することを意識してみてはいかがでしょうか。
これは私が訪問栄養指導を実施している糖尿病の高齢女性の事例です。
女性は一人暮らしで、調理も自分でしており、おおむね自立した生活をしていますが、血糖値が高くなってしまい、主治医から「このままではインスリンを導入しないといけない」と言われていました。そこで一念発起し、今までの食事内容を改める決意をされました。担当ケアマネジャーから私に依頼があり、ご本人や主治医と相談して、在宅訪問栄養指導を始めることになりました。
その時の私の最初の質問です。「しっかり咀嚼して食べていますか?」
返ってきた答えは、「あたしゃね、歯がないから、噛めないのよ」
ところが食事の様子を拝見すると、しっかり歯茎で噛んでいらっしゃいます。しかし、肉や野菜を歯茎で「すりつぶす」ことはできません。ごはんのおかずは、コロッケやカボチャの煮つけなど、糖質の多いものに偏っていました。
ならば、糖質の吸収をなるべく遅らせる方法を考えつつ、彼女の好きな食べ物を聞いていくと、「ワカメと昆布が好きなの」とのお答えでした。
軟らかくクタクタに煮たワカメなら、歯がなくても食べられます。そこで、ワカメの 味噌 汁を作り、白米を食べる前に、最初にワカメを食べるよう指導しました。海藻類には豊富な食物繊維が含まれています。食物繊維を多く含む食品を先に食べることで、腸の中で糖質の吸収をゆるやかにしてくれる作用が期待できます(※参考文献2)。さらに、瓶詰の「なめたけ(えのきを細かくして甘辛く煮たもの)」を豆腐にかけたり、なるべく簡単に食物繊維が取れる方法をアドバイスしました。
「なめたけ豆腐、いかがですか?」と聞くと、「 美味 しいねぇ、いままで思いつかなかったよ」ととても嬉しそうです。
こうして、少しずつ食生活を美味しく健康的に変えていき、血糖値をコントロールできるようになるなど、結果が出れば理想的だと思います。
しおじゅん式ゆるっと食事療法では、まずしっかり噛むことと、ご飯、パン、麺などの主食から食べないことです。「食事制限なんて無理」と思う方は、まずはこの方法から試してみるのはいかがでしょうか。
食事で生活習慣病の予防や治療ができるのは、食事療法の最終目標ではありますが、それ以前に、「待っていたのよ~」と嬉しそうな笑顔を見せてくれる女性を見ると、私が訪問することそのものに意義を感じています。どんな人でも、「美味しいものを作ってくれる人」が家に来てくれたら、それだけでも嬉しいものですよね。
※参考文献
- 「はじめてのカーボカウント2版」坂板直樹・佐野喜子編著 p.6 中外医学社 2013年
- 「糖尿病治療ガイド2016-2017」日本糖尿病学会編・著
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