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性とパートナーシップ

yomiDr.記事アーカイブ

発達障害の疑いのある夫との関係性について(寄稿)

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 別居した初めの頃は、物理的距離はできたものの、精神的な距離をどうすればいいのか自分でもわかりませんでした。夫とのやりとりを思い出しては1人でいら立ったり泣いたり。思い出すと、ストレスに反応して体のあちこちが痛みました。独りぼっちで過ごす休日はずいぶんと寂しかったししょっちゅう泣いていました。子ども達にも気を使わせました。娘は「なんで家族仲良くできないの?」と言ってときどき泣いていました。その度に謝りました。これ以上夫を憎みたくないと思うくらいでしたから、小さな子どもにもはっきりとわかるほど、パパとママの仲は険悪でした。

  私は、別居する何年も前から、カウンセリングに通っていました。息子への虐待を悩んで通い始めたのですが、数年 () ってから、発達障害のパートナーとの関係に思い悩み苦しむ「カサンドラ症候群」なのだと知り、カウンセリングと並行して、うつの治療と共に認知行動療法などのトラウマ治療を受けることにしました。私はなぜこのような特性のある夫を選んで結婚したのか、私はなぜ夫に腹を立てるのか、夫との関係だけでなく、私と両親との親子関係にも焦点を当てて、自覚していくと共に治療を受けました。

 それまでの人生で、私は、問題があると感じたときには環境を変えたり、そこから離れるという方法は身につけていましたが、自分自身の在り方や捉え方を変えて乗り越えていくというやり方を受け入れかねていました。子どもの頃には、完璧主義で攻撃的になることで自分を守っていました。これは、私のような被虐待児にありがちなパターンのうちの一つのようです。自分を変えたら自分の存在自体が揺らいでしまう気がするのです。我ながら、大人になってまでまだ引きずってるの?と思いましたが、身を守るために、必死で幼い頃に身につけたものですから、容易に変えられるものではありませんね。

 どんなに強がっていても心の根っこのほうでおびえながら育っていますから、自分にも要求が高く安心できない。いつまでも自信が持てない。完璧を目指すあまり、他人にも厳しい。そしてまた自分や周囲の人たちを傷つける――。そんな自分のちぐはぐな状態にも理由があるとわかり、目の前の大きな壁に風穴が開いたような気持ちになりました。

 原因はわかりましたが、自分自身の改革となるとなかなか難しいものですね。今まで、「こんなに頑張ってきたのにかわいそうな自分」「わかってもらえない自分」を心のどこかに置いておくことでバランスを保っていたのでしょうが、そこを覆すことになるのです。怖くて怖くてたまらなくなりました。

 自分はもっと許されたい。もっと自由に生きたい。成人してから徐々にその気持ちに気づいて、自分を解放できるようにはなっていたつもりでしたが、私の根っこはまだまだ甘えたがっていたようです。その上で選んで結婚した夫はもの静かで、攻撃的ではありません。 (うそ) もつかない。誠実でまじめな理系くんです。でも、感情を表現するどころか特になにも感じていないことも多い上に、人の気持ちを 慮 (おもんぱか) る必要性を感じていないタイプ。相手の様子を見て臨機応変に対応することはしません。的確にサポートして欲しいとか、密接な関係や理解、共感力を求めてはいけない人でした。ちょっとしたおしゃべりもしないのですから。それなのに私は、要求しても無理なことを「なぜしてくれないのか」と彼に対していら立ちながら暮らしていたのです。

 別居してからは、自分には甘えられる夫はいないのだからまず自分が成長しよう、と腹をくくるところから始まりました。近ごろようやく、他人のような距離感でいるのがいちばんなのだ、と気づいてようやくうまくバランスがとれるようになりました。

 ここ数か月の出来事を思い出しても、インフルエンザで寝込んでいるのに買ってきたお弁当を食べ、息子のアトピーがひどいのにろくに掃除もしない。生活がいい加減すぎる、と腹が立ちもしましたが、ふと気づいて思い直しました。一人暮らしの男性だったら、そういうのは普通だよね、と。

 私自身が良き妻や良き母でいようとすると、誰に頼まれなくても家族の健康のために毎日食事を作り、買い物もし、洗濯や掃除をして住環境を整え、一生懸命子育てをしてネグレクト(育児放棄)じゃないと認められ、それらの仕事を評価されたくなるわけですが、それは私自身の都合です。

 特に、この父子にそういう感覚は通用しません。良いも悪いも言わないのです。文句は言わない代わりに絶対に褒め言葉ももらえませんし、お母さんがせっかくしてくれたから、なんて、目に見えない努力をわざわざ評価するような感覚はもともと持ち合わせていないのです。育ち盛りの息子が心配ではありますが、父親としてがんばってちょくちょくご飯を作ってはいるようなので、そこまで悪い想像をする必要もないかと思いました。ママ友からの情報網がある私からすると、あれもこれも十分ではない気もしますが、事情を知っておられる学校の先生からは何か学校でも問題があるという連絡は来ませんし、うまくやれているのでしょうね。もう、誰かを傷つけてまで良妻賢母にこだわらなければいけない状況ではないのだと思い知りました。

 そんなことを考えながらまた気付きました。こういう友達だったら、私も面白がって付き合えるんだよね、と。私の生活と密着しているはずの夫だとか家族だとか思うと腹が立つのです。自分に実力があるところを見せつけて、認められたいし、自分の手に負える範囲でコントロールしたいのです。

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性とパートナーシップ201505_120px

岩永直子(いわなが・なおこ)

1973年、山口県生まれ。1998年読売新聞入社。社会部、医療部を経て、2015年5月からヨミドクター担当(医療部兼務)。同年6月から2017年3月まで編集長。

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17件 のコメント

その2

ACです

止水さん、障害の出方は人様々です。決めつけない方が良いと思います。 発達障害はひとくくりではありません。幸せな夫婦だっていくらでもいますよ。 真...

止水さん、障害の出方は人様々です。決めつけない方が良いと思います。
発達障害はひとくくりではありません。幸せな夫婦だっていくらでもいますよ。
真面目さや勤勉さ、正義感など、美徳のみ顕著な場合も本当にあります。
「やっかいだよね」と言われる人は一部で、「変だよね」で愛されている人はたくさんいます。

自分の親の兄弟は同じように発達障害のある人が数名いますが、その子で引き継いでいる人はいません。親から言われるべきではないことを言われてかわいそうに見える場合は、いまだにありますけど。

あなたの文面からは、うまく行かない人達の最大要因と思われる、自己中だったり残酷だったりしつこく押しつけがましい感じは受けません。リアルでこだわりや行動が極端で制御に問題があるならまだこれからも改善していけると思います。

発達障害だからうまく行かないのではなく、発達障害が原因で何らかの良くない言動が出たり行動が取れない人がいて、そのような行動が極端な人達がうまく行かないのだと思います。子供に仮に出たとしても、今は教育スキルが発達してますよね。長所のみを生かせるチャンスは増えていると思います。もちろん、ご自身が望まないなら子をなさない選択も可能ですし、これから年齢を重ねたらそういった選択のほうが相手に受け入れられる場合が増えるでしょう。

もし、暴力的、攻撃的な面があるために人と距離を置かなくてはならないのなら、それは発達障害に限りません。直すか諦めるかの二択だけですね。それ以外は、許せない行動の取り合わせの良い人が見つかるかも知れません。自分の方が時間を守れないのなら時間に大らかな相手を探す、自分が時間にこだわるのなら守る相手を探すなど。良い出会いがありますように。

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通りすがりです

ACです

親とパートナーが軽度の発達障害です。たまたま性格が謙虚ですが、それのない人達がさらに大変というのは容易に想像がつきます。 実際に対応するのは大変...

親とパートナーが軽度の発達障害です。たまたま性格が謙虚ですが、それのない人達がさらに大変というのは容易に想像がつきます。

実際に対応するのは大変だろうとは思いますが、お子さんがいるだけしあわせだと思います。私はいませんので。

話は逸れますが、カサンドラの人に問いかけの形の人がいますがやめた方が良いと思います。なぜ言わなければわからないのか、こんなこともわからないのか、問われるだけで一々うるさいという怒りに満ちていたり、うんざりな人は多いと思います。文面を見るだけで正直ぎょっとしました。

専門家や第三者、親であれば、本当にわからなくて聞いているのだという前提を認識し、惑わされずにとにかく繰り返す、はっきり言いつづけるという対応を取れるでしょう。しかし、普通に結婚したパートナーにとっては、なぜ普通のことがわからない、なぜわざわざ言わなくてはわからない、普通の人の何倍も説明がいる、しかも言っているのに通じない、疲れる、いい加減にしろとしかなりません。それは反面、健常者相手と同じように、相手の言い分も聞いてあげようとしているということでもあるんです。

しかし、発達障害の人から発せられるのは、一見理詰めで、より頭が良かったり弁の立つ人ではないと返せない質問の数々。実際にはほころびだらけで、だからこそ平気で奇妙な結論に至る。
理詰めの反論にも上げ足とって攻撃。他には都合の悪い部分をスルー、次の瞬間には聞いていない、忘れる、別の興味など。
まともなコミュニケーションを取れない。程度問題が異常なだけなので言葉にしにくく、他の人に愚痴ってもわかってもらえない。
コミュニケーションが無理なんです。だから距離しかないんです。

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自分が病気になる前に

たまこ

家の旦那も多分発達。 2人の時はあーもう仕方ないなぁで済ませていたけれど 子供が出来たらそうではない。 子供たちもなんとなくわかってきていて、期...

家の旦那も多分発達。
2人の時はあーもう仕方ないなぁで済ませていたけれど
子供が出来たらそうではない。
子供たちもなんとなくわかってきていて、期待もしていない。
子育てには全く参加しないので
完全に同居人のATM扱い。
残念ながら息子も発達障害。
療育、頑張ってます。
発達障害のパートナーは自分が病気になる前に逃げた方がいい。
子供が発達にならないためにも逃げて!

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