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小児の緩和ケア医として子どもを診る立場から 多田羅竜平

さよならを言う前に~終末期の医療とケアを語りあう~

【現状と課題】子どもたちのための緩和ケア‐社会は子どもたちのために何ができるだろうか‐

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テーマ:現状と課題

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 私はもともと新生児医療を中心に働く小児科医でした。新生児医療はこの30年ほどの間に大きく進歩し、その結果、それまで助からなかった多くの赤ちゃんが助かるようになりました。そして目標はただ救命するだけでなく、”Intact Survival(後遺症なき生存)”が新生児医療に携わる者たちの合言葉でした。新生児医療だけでなく、小児がんなど様々な病気の子どもたちも同じようにたくさん助かるようになりました。

 それでもなお、残念ながら救命できない、完治できない子どもたちがいます。多くの子どもたちが後遺症なく生きられるようになってくると、逆にそれが達成できなかった時の医療者の敗北感はより一層強くなりがちです。そして、医療が進歩しても治療のすべのない病気の子どもたちがいます。病気を治すために大きなエネルギーを注ぎ込むことが求められる環境においては、治せない病気の子どもを前にした時の無力感はより大きなものとなります。

 私自身も多くの子どもたちの死に関わってきましたが、なかでも深く印象に残っている患者さんの例を紹介します。「先天性表皮水疱症(最重症型)」という難病で生まれた赤ちゃんがいました。この病気はちょっとした刺激で全身に水ぶくれができて、ただれます。口の中のただれのために、口からのみ込む時には激しい痛みを伴います。気道のただれのために呼吸困難( あえ ぎ)を生じます。全身皮膚のただれは激しい痛みで着衣もままならず、夜もろくに眠れません。しばしば感染によって発熱、消耗も伴います。

 根治的な治療方法はなく、治療は対症療法が基本になります。最重症型は一般的に生後数か月以内に死亡します。その子も生後数か月で亡くなりました。当時の私にはうまく症状を緩和するための知識も経験もなく、苦しみを和らげてあげることができないまま 看取みと らざるを得ませんでした。

 わが子を生まれて数か月で看取らなければならなかった母親から「この子は何のために生まれてきたのでしょうか。生まれてからずっと苦しいことばかりで、何か一つでも生まれてよかったと思うことはあったのでしょうか」と問われ、この頃の私には返す言葉が見つかりませんでした。

イギリスで「子どものホスピス」に出会う

 このような敗北感、無力感が小児科医としての私の心に巣食うようになっていたころ、イギリスには「子どものホスピス」という施設が40施設近くあることを知りました。まだ日本では「子どものホスピス」という言葉すら、全く知られていないころです。何はともあれ、子どものホスピスを見てみたいと思いイギリスを訪れました。2005年夏のことです。

 訪問させていただいた世界で最初の子どものホスピス「ヘレンハウス」は、家庭的な温かい雰囲気に包まれ、子どもたちが楽しむための様々な工夫を凝らした部屋、きれいな中庭、たくさんの遊具、広いリビングなどがあり、子どもたちの個室にはベッド、勉強机、ソファ、トイレ、浴室など一式が整っています。食事はダイニングルームで利用者もスタッフも皆一緒に大きなテーブルを囲んでとります。

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さよなら・その2-2-300-300シャドー

さよならを言う前に~終末期の医療とケアを語りあう~

 終末期医療やケアに日々、関わっている当事者や専門家の方々に、現場から見える課題を問いかけて頂き、読者が自由に意見を投稿できるコーナーです。10人近い執筆者は、患者、家族、医師、看護師、ケアの担い手ら立場も様々。その対象も、高齢者、がん患者、難病患者、小児がん患者、救急搬送された患者と様々です。コーディネーターを務めるヨミドクター編集長の岩永直子が、毎回、執筆者に共通の執筆テーマを提示します。ぜひ、周囲の大事な人たちと、終末期をどう過ごしたいか語り合うきっかけにしてください。

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2件 のコメント

家族の滞在施設

ラッキー

かつて神奈川県のこども医療センターを訪れたとき、時節柄の七夕飾りに入院中の子供さん、親御さんの「早く良くなりますように」との短冊に胸を打たれたこ...

かつて神奈川県のこども医療センターを訪れたとき、時節柄の七夕飾りに入院中の子供さん、親御さんの「早く良くなりますように」との短冊に胸を打たれたことがあります。重病で自宅に帰れない子供たちの存在に改めて気づかされました。
小児科の専門病院は全国でも限られており、乳幼児、小児が入院となると、時には遠方からの付き添いの親が寝泊まりする施設が必須となります。最近知ったのですが、あのハンバーガーのマクドナルドは社会貢献として財団を設立し、そのような宿泊施設を国内10箇所で運営しているそうです。本家の米国では有名人も協力しているとか、私も及ばずながら店舗の釣り銭募金を協力するようにしています。それは一例でNPOなども施設の運営を担っているようです。
治療は先生方にお任せするとしても、環境整備について我々も努力しなければならない、どこかの知事もこういう施設こそ頻繁に視察してこういう用途にお金を使っていればと思います。

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たった一人の情熱と行動が世界を変える

エンジェル

大人のホスピスさえ足りない日本で、子どものホスピスを運営されている、多田羅先生の大変さと一歩を踏み出した勇気を思うと胸を打たれます。 私が携わっ...

大人のホスピスさえ足りない日本で、子どものホスピスを運営されている、多田羅先生の大変さと一歩を踏み出した勇気を思うと胸を打たれます。
私が携わった大人のホスピスは、バラや絵画を眺めながら紅茶やお菓子をいただく、驚くほど温かい雰囲気の空間でした。ただし、患者さん、医療者や介護者も苦しそうでそこに笑顔はありませんでした。
私が辛さを隠し、ある患者さんに笑顔を向けると、苦痛に歪んでいた顔がほころび笑顔になったのが印象的でした。私ならたとえ死を待つしかない患者でも、できるだけ普通に接して欲しいと思ったからです。
私はあれから、治癒の望めない患者さんはどうしたら心地良い最期の時を迎えられるのかをずっと考えています。大人も子どももできる限り苦痛を取り除き、日常に近い空間で大切な人と過ごせることだけでも、死への恐怖と病や治療の辛さがだいぶ緩和されるのではないでしょうか。子どもの重症患者を病院で見かけるたびに治癒することを祈らずにはいられません。
寄付の文化の根付いていない日本で、ホスピスをフリー・スタンディングで運営するためには、支援者の無償の賛同と寄付金を集め、継続することが一番大変だと思います。
海外ではあのお騒がせセレブでさえ寄付やチャリティーをしています。日本でもお金持ちと一般の個人や企業が寄付やボランティアをすることが、広く一般的な文化になると良いなと思います。
今では世界的に有名なあの人道団体も人権団体も、初まりはたった一人の人間の情熱と行動でした。良い行いは必ず実を結ぶと私は信じています。

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