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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

貧困と生活保護(32)患者が食い物にされていた安田系3病院事件

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精神科の大和川病院での人権侵害、暴力

 大和川病院では、劣悪医療に加えて精神保健福祉法に違反する人権侵害、暴力支配が横行していました。実際は強制入院なのに任意入院を装って、行政への届け出をしない。入院したら一律に3日以上、保護室に隔離し、身体拘束もする。最低3か月は退院させない。鎮静作用の強い薬をたくさん出して薬漬けにする。投薬は、患者を看護詰め所の前に並ばせて番号で呼び、口を開けさせてほうりこむ。

 職員の一部は暴力をふるう。病棟を管理する人手が足りないから、ボス患者に支配させる。面会、電話、郵便、外出の自由を制限し、法律上どんな場合でも拒否できない弁護士の面会まで拒む。調理、配膳、掃除、工事などを患者にやらせる。大和川病院では入院患者の自殺・変死が最後の5年間で28人にのぼり、イレウス(腸閉塞)を放置されて死亡したケースも後に判明しました。

職員に対する独裁支配

 職員に対する扱いも横暴でした。安田病院は9階建てだったのに内線電話がなく、職員は歩いて院内連絡に出向きました。その一方で、看護詰め所には監視カメラがあり、ちょっと手を休めると、院長が院内放送でどなる。看護婦やヘルパーは受け持ち患者が亡くなったり転院したりすると、給料から罰金を天引きされる(労働基準法違反で起訴)。蛍光灯や窓ガラスが壊れても、病院が調達してくれないので、職員が自腹で買うしかなく、聴診器や血圧計も自己負担でした。

 すぐに退職したくなって当然の労働環境ですが、職員側の事情がありました。高齢、病気、あるいは能力が乏しく、他の医療機関では雇ってもらえそうにない医師たちが多い。看護婦も70~80代が相当いて、最高は90代まで勤めていた。ヘルパーの女性たちは当時、公的資格を持っていない。いずれも、辞めたら転職先が容易に見つからなかったわけです。

 中には、まっとうな感覚を持つ職員もいました。ところが退職しようとすると、病院に預けていた看護婦免許証を返してもらえず、ほかで働けない。大阪府へ数人が出向いて医療の実態を内部告発すると、その情報がなぜかすぐに病院へ伝わり、翌日、院長から非難されたこともあったのです。

政治家らと癒着して調査を妨害

 なぜ、それほどムチャクチャな悪徳病院が長年、存続してきたのでしょうか。

 精神科の大和川病院では1969年、脱走を図った患者が無資格の看護人3人にバットで撲殺され、別の脱走患者も他の患者の暴行で死亡しました。79年にも患者が看護人から暴行を受けて死亡していました。そして93年2月、男性患者が救急搬送された転院先で死亡する事件がありました(のち、ボス患者らによる暴行と判明)。市民団体の大阪精神医療人権センター(現在は認定NPO法人)が実態追及に乗り出し、独自に粘り強く内情を調べるとともに、大阪府に徹底した調査を要請しました。

 ところが医療行政は及び腰で、なかなか動かない。病院側は、自分たちを追及する人権センター、弁護士、テレビ局を相手に民事訴訟を起こすなどして、圧力をかけました。

 そして、実態解明を妨げる重要な装置になっていたのは「安田記念医学財団」でした。以前に区医師会長を務めた安田院長が衆院選に出て落選し、買収容疑で逮捕された後、30億円の基金を出し、がん撲滅をうたって設立しました。この財団の理事、顧問、評議員、参与には、大学の学長、医学部長、医師会長、高名な研究者、国会議員・府議・大阪市議などが多数、並んでいました。安田院長は「政治家を使う側になる」と口にしており、政治家には別途、病院側から政治献金もしていました。

 そして厚生省・大阪府・大阪市が3病院への一斉調査を準備していると、院長から頼まれた当時の厚生省の局長、衆院議員、府議らが延期を求め、調査つぶしに動いたのです。

 結局、行政が本気で3病院の調査に取り組んだのは、人権センターの追及開始から4年後。不正の事実を明るみに出した新聞報道の後でした。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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