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ボンジュール!パリからの健康便り

yomiDr.記事アーカイブ

パリで白血病と診断された日本人、費用の不安なく治療できるか?

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 外国で病気になることへの不安は大きい。言葉が通じにくいし、費用がどれくらいかかるかが一番心配だ。風邪などの一時的な不調ならまだしも、長期療養が必要となる大病を患ってしまったらどうすればいいのだろう。外国に住んでいる人なら、誰もが考えたことがあるのではないか。

 パリに住む日本人男性のMさん(51)もその一人。微熱が続き、市販薬で抑えていたが、いよいよ薬が効かなくなり、熱が下がらなくなってしまった。症状が出始めて数週間になる。「おかしい」。Mさんは診察を受けることにした。内科医に診てもらい、血液検査を受けて家に帰ると、すぐに病院から電話があった。「明日、すぐに来てください、そして専門医に診てもらってください」。一気に不安が募る。

 翌日病院へ行くと、すでに血液学の専門医の診察予約が取られていた。問診や触診の後、このまま他の病院へ検査入院をすることを勧められた。紹介状をもらって行った病院は軍の病院で、医師は血液学の権威だった。紹介状と血液検査に目を通し、さらに血液検査を受けることになった。そのまま入院となり、数日間の検査が続いた。

 数日後、医師らが病名と治療方針を説明に病室へ来た。病名は急性リンパ性白血病だった。治療に当たり、白血病の専門医や内科医、精神科医、看護師など数人の治療チームが結成された。その日から抗がん剤を用いた化学療法が始まり、すぐに治療計画や骨移植療法の説明を受けた。まずは肉親に移植に適合する人がいるかどうかを調べたが、あいにく適合者はおらず、骨髄バンクから探すことになった。適合者はいたが、移植直前にキャンセルとなった。結局、骨髄移植の適合者が見つからず、 (さい) 帯血移植となった。

 白血病と診断され、骨髄移植のドナーもなかなか見つからず、治療面での不安が募った。それに加えて、当初、費用についての不安も膨らんだが、病院のソーシャルワーカーに相談すると、長期高額疾患となり、全てがフランスの社会保障制度(セキュリティーソシアル)で保証されることが説明された。治療や療養にかかる18か月間の休職期間中の給与も全額保証された。通院にかかるタクシー代や、骨髄移植のドナーがフランス以外の外国にいる場合、フランスまでの渡航費や滞在費、治療費なども保証された。おかげで費用面の心配をすることもなく、治療に専念できたのは非常に大きかった。

 移植が終わると、無菌室に入る。筋力の低下を抑えるため、部屋には自転車こぎが置いてあった。ボランティアの人が毎日訪ねてきて、話をしたり、歌を歌ってくれたりした。フランス人は、痛みや吐き気などの不快な症状に非常に敏感なので、看護師が頻繁に声をかけてくれた。

 また、移植もすみ治療が終了してからは、療養所に1か月ほど入所する。いくつか候補を挙げられたが、パリ郊外の緑の多い場所を選んだ。そこは体力回復のための療養所で、衰えた筋肉を鍛えるリハビリ施設などがあった。また様々な理由から不眠症になる人もいるので、睡眠薬なども処方された。特に消灯時間もなく、遅くまで起きていても注意されることはないが、必ず見回りの看護師さんが来て、声をかけていく。

 その後、家に戻っても看護師が定期的に訪問してくれた。約18か月にわたる治療と療養を経て少しずつ仕事に復帰した。自分が異動を希望しない限りは職場では前のポストに戻ることができる。そういった制度的な保証があることも安心につながった。

 今年で発病してから5年。再発の可能性がないわけではないが、5年たてばひと安心といえよう。Mさんは、まだまだ不安はあるが、フランスでこれだけ手厚い治療を受けられたことに感謝している。経済的な不安も抱えずに、「絶対に治す」という強い気持ちで治療に専念できた。

 Mさんはフランス企業に勤めており、幸い、言葉の面での不自由はなかった。フランス語が話せなくても、最近は各種医療保険の通訳のサービスがあり、日本語が話せるスタッフや日本人の看護師やスタッフがいる病院も増えてきた。英語はどこの病院でも、ある程度は通じるだろう。

 今回のお話を伺って思ったのは、やはり医療費を心配せずに治療に専念できることのメリットの大きさ。病気と戦う肉体的、精神的な (つら) さの中で、さらに費用や仕事の不安を抱えるのは本当に辛いと思う。

 フランスの医療で感じることは、終末期医療などもそうだが、患者さんを含む家族や周りの人たちへのフォローが大きいことだ。病気を治すだけでなく、そこに関わる全てをフォローする。日本の医療もきっと大きく変化し、発展しているのだろう。フランスの医療もまだまだ変わっていくと思う。フランスという異国の地で、医療にかかわることで、文化や風習そして宗教など多岐にわたるものが見えてくる。フランス、この国で生きることはまだまだ続きそうだ。

 長い間ご愛読いただきましてありがとうございました。またお会いできる日までお元気で!心から感謝を込めて。

  5月31日(火)日仏会館にてカフェトーク を行います。皆様にお目にかかれますこと楽しみにしております。

■今週の一句

貴婦人の  () える火を消す 虎が雨

パリで白血病と診断された日本人、費用の不安なく治療できるか?
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ボンジュール!パリからの健康便り_古田深雪_顔120px

古田深雪(ふるた みゆき)

1992年渡仏。
1997年より医療通訳として病院勤務。

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3件 のコメント

ありがとうございました

パパノエル

私のニックネームのとおり、去年のクリスマス頃にコラムを読ませていただいてから、短い間でしたが、毎回の更新を楽しみにしていました。 もっと読みたか...

私のニックネームのとおり、去年のクリスマス頃にコラムを読ませていただいてから、短い間でしたが、毎回の更新を楽しみにしていました。
もっと読みたかったので残念ですが、まだ読みきれていないアーカイブもこれから拝見したいと思います。
長い間お疲れ様でした。

今回の記事ですが、すごく参考になりました。
もしも自分に骨髄や臓器の生体移植が必要になった場合、私自身の医療費がフランスの保険でカバーされるのは心配していなかったものの、日本の肉親から移植を受ける場合のドナーの医療費はどうなるんだろうと疑問に思っていました(というか当然実費なのだろうと思っていました)。なので、<骨髄移植のドナーがフランス以外の外国にいる場合、フランスまでの渡航費や滞在費、治療費なども保証された。>というところはすごく驚きました。
これからフランスに骨を埋める可能性も高いので、色々と医療や介護それに付随する経済面の問題を心配していましたが、手厚いサポートがあると知って安心しました。

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Merci beaucoup

Paris

毎週楽しみにしていました。とても面白いコラムだったので残念で仕方ありません。長い間(と言うより短い間でしたが)ありがとうございました。

毎週楽しみにしていました。とても面白いコラムだったので残念で仕方ありません。長い間(と言うより短い間でしたが)ありがとうございました。

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ありがとうございました

セントパンクラス

フランスには福祉大国というイメージはないのですが、そこまでやってくれるとは驚きです。イギリスでも検査・手術・入院やその後の検診はNHS(ナショナ...

フランスには福祉大国というイメージはないのですが、そこまでやってくれるとは驚きです。イギリスでも検査・手術・入院やその後の検診はNHS(ナショナルヘルスサービス)で勿論無料ですが、休職中の収入保障や通院にかかる費用までは出してくれません。最近のニュースでは、癌患者のいる家庭の家計は毎月六百ポンド近くの赤字になるということでした(本当でしょうか?)。

私が三年前に乳癌の手術を受けた時は一晩入院しただけでした(ベッド数が不足しているため)。癌患者として向こう五年間の薬剤処方箋料が免除されており、それでホルモン療法が継続できています。私は自営業ですので仕事の量が調節でき、術後もドレーンが取れるやいなやリハビリを兼ねて仕事に復帰し、化学療法中も放射線療法中も仕事を続けていたゆえ癌友に驚かれてしまいました。
もっとも、自分の性格からすると家でじっとしていたり療養所へ入所したりすると余計に落ち込んだと思われます。治療の合間を縫って一泊ずつですがひとりで旅行に出掛け(パリとアントワープ)看護婦さんたちにも驚かれるというか呆れられました(笑)。

長い間の連載お疲れ様でした、素敵なパリの御写真がもう見られないと思うと残念です。ユーロ2016ももうすぐですね! お身体御自愛なされまして、これからもますます御活躍下さいませ。

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