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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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ファウルボールで失明することも…危険をゼロにするのは可能か

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 今日は、「 ファウルボールで失明 」という記事についてのお話です。

 記事の情報では、ファン拡大のために招待した小学生の保護者である30歳代の女性が、一塁側内野席前列で観戦し、試合中のファウルボールが当たって、右目を失明したという事例だそうです。札幌ドーム球場、日本ハム球団、そして札幌市に損害賠償を命じた1審の判決を変更し、球場自体には欠陥はなかったとして、ドームと札幌市への請求は棄却し、球団に3350万円の賠償を命じたということです。

周知すべきだった打球の危険性

 この3月から日本のプロ野球を時々生で見るようになった「にわかプロ野球観戦ファン」としては、札幌ドームは行ってみたい球場なのです。それはアメリカの球場のように、一塁側と三塁側の内野席前方に観戦に邪魔な背の高い金網がないからです。札幌ドームのバックネット裏を除く内野のネットは2006年から外されたそうです。多くの日本の球場が内野にネットを張っているのとは異なっています。

 まず、失明された方に賠償金が支払われるという判決は納得できます。そしてファン拡大のために招待した小学生の保護者ということで、ますます同情しますね。保護者の女性は野球にまったく興味がなかったのでしょう。もしも少しでも興味があれば、硬いボールが高速で内野席に飛び込むこと、また大きなフライがネット裏や、もちろんホームランとして外野席に飛び込むことは常識です。それが当たれば、ある程度の 怪我(けが) 、当たり所が悪ければ相当な重症を負うことも当然に予想できます。ところが、野球に興味がなければ無理ですね。ですから、球団はファン拡大のために招待するようなご家族は、ほとんど打球が届かない外野の最後方の区画などに招待すべきだったのですね。そして希望者には危険性を周知した上で了解をとって、少々危ないが臨場感がある席に移動させるべきだったと思います。

 1審判決は「球場のフェンスの高さでは打球を防げず、安全性を欠く」としたそうですが、高裁判決は「安全性の確保のみを重視し、臨場感を犠牲にして徹底した安全設備を設けることは、プロ野球観戦の魅力を損なう」と判断し、フェンスが他球場に比べて特に低かったわけではなく、注意を促す放送をしていた点も踏まえ、球場に欠陥はないと認定したそうです。僕にとってはありがたいことです。日本のすべての球場がアメリカのボールパークのようになってもらいたいと切望しているのに、つまり野球専用の施設で、必要最低限のネットだけを配置して、天然芝で、全席がフィールドに近い臨場感のある施設を願っているのに、1審判決のように、「球場のフェンスの高さでは打球を防げず、安全性を欠く」とされたのでは困ります。そこまで危険をゼロにしたいのであれば、無観客試合にするか、またはネットを観客席周囲すべて、つまり頭上にも張ればいいのです。観客が鳥かごの中にいて観戦するというスタイルです。でもそれでは窮屈なので少々の危険を承知で観戦するのです。僕の考えでは、自分の意思でチケットを買った人は当然に打球による怪我のリスクを引き受けていることになります。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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