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子育て相談の窓口一本化…虐待・少子化の歯止め期待
フィンランドを参考に
妊娠中から子どもが就学するまで、子育ての様々な支援を一つの窓口で提供する「ネウボラ」。
北欧・フィンランドで生まれた制度で、「助言の場」という意味だ。この仕組みを日本で導入する動きが進んでいる。虐待防止や少子化対策などの効果が期待でき、国は母子保健法を改正し、全国に広げる計画だ。
「お子さんはこの春から保育園ね。どんな様子?」との問いかけに、「すぐなじんでくれて、あまり泣かないので寂しいくらい」と会社員の池上
プランは、どんな支援が受けられ、どんな子育てをしたいかを記したもので、妊娠中と出産前後、子どもの満1歳時の計3回作る。出産前後に作成に来ると、ベビー服など十数点入った「こんにちはあかちゃんギフト」と市内の店で使える金券が贈られる。満1歳時には1万円分の金券がもらえ、池上さんは「子育てでわからないことを相談できる。何より、見守られている感じがいい」と話す。
同市の取り組みは、フィンランドの「ネウボラ」を参考にしている。妊娠中から子どもが就学するまで、子育ての情報を提供し、様々な相談に一つの窓口で切れ目なく対応する仕組みだ。

厚生労働省は、2014年度から同市など約30市町村の取り組みに補助を開始。15年度は「子育て世代包括支援センター」の名称で約140市町村に広がった。今国会には、同センターの設置を市町村の努力義務とする母子保健法改正案が提出されており、20年度中に全国に広げる予定だ。
背景には、核家族化で孤立する子育て世帯が増えたことがある。同省によると、13年度に虐待で死亡した子どもは計69人で、2歳以下の乳幼児が半数近くを占めた。実母が妊婦健診を受けていなかったり、家庭内の問題に悩んでいたりした事例が目立ったという。ネウボラは、家族を支えて子育ての不安を取り除き、少子化対策としても効果的とされる。
3月には、フィンランド政府の研究機関「国立保健福祉研究所」でネウボラを担当するトゥオヴィ・ハクリネン母子保健研究部長が来日。東京と大阪で行われた講演会と研修会では、「利用者との対話技術はどう磨くのか」など質問が相次ぎ、関心の高さを示した。
ただ、本家のネウボラは健診などのサービスも提供するが、日本では当面、相談窓口の一本化にとどまる。
吉備国際大の高橋睦子教授は、フィンランドに比べて少ない日本の子育て支援の予算や、保健師などの人材不足といった課題をあげ、「日本の支援は『困ったら来て下さい』という姿勢だが、親と職員が対話を積み重ね、早期の支援につなげることが大切だ」と話す。
母子の健診サービスが中心

来日したトゥオヴィ・ハクリネン氏にフィンランドのネウボラの特長を聞いた。
ネウボラは、民間の取り組みとして1920年代に始まり、44年に法制化された。現在は約800か所あり、ほぼ100%の子育て家庭が利用している。
サービスの中心は健診だ。母親は妊娠中から産後までに約10回、子どもは6歳までに15回受ける。利用者と対話しながら、健康状態や夫婦関係、子どもの発達などを確認する。父親やきょうだいも一緒に面談する「総合健診」も行う。
最初の面談時に、出産や育児の情報が詰まったパンフレットを渡す。専門家が内容を厳選し、国民に好評だ。服や哺乳瓶、絵本など約50点のベビー用品が入った「育児パッケージ」か現金の母親手当ももらえる。
妊娠中から同じ職員が一つの家族をずっと担当する。保健師と看護師の資格を持つ高度な専門職だが、利用者と同じ目線で寄り添うことも特徴だ。利用者の意向を尊重し、必要な支援を一緒に考えていく。
全ての家族を対象としているため、虐待などの問題を早く発見し、対応できる。予防サービスに力を入れた結果、家庭内の問題に事後対応する公的支出が減ったという自治体の統計もある。国全体でも、虐待による子どもの死亡率が下がるなど、様々な効果が出ている。
(樋口郁子)
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