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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

必要な医師数…机上の理論ではなく、現場を調べて決めるべき

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 現在、私は1日に25人の予約枠で、原則週3日の診療をしています。この中で、1日5名の初診予約をとっています。同じ施設の別の医師や他施設からセカンドオピニオンを求める形で来院する方と、著作やヨミドクター、あるいはネット情報で私や私の専門としている神経眼科、心療眼科という領域を知って予約した方々が含まれます。

 初対面の方の状況をお話や、検査、前医からの情報提供などによって把握し、診断を進めますが、それだけで30分前後はかかります。加えて、その日の私の意見(それが正にセカンドオピニオンであり、場合によって結論的であることも、さらに検討が必要なこともあります)を患者さんに表明し、今後の方針などを話し合う時間をとると、1時間かかることも (まれ) ではありません。

 単純計算で、午前中に3名の初対面の方があれば、それで午前中は終了してしまいますが、実際にはその間に、再診患者さんを十数名、忙しく診ているのです。それゆえ、これ以上予約枠を増やすことは無理で、初診予約待ちは6か月になっています。当然ですが、質を落とさずにできる診察数には限界があるということです。

 経過のよい白内障手術前後や緑内障の診察は、所要時間2、3分程度で、1日に何十人もの診察が可能です。しかし、実際にはその間に容易ならざる症例も入るので流れ作業とは行きません。1日に何十人、場合によっては100人以上診察している医師にとって、これは過酷な労働である一方、多くは患者さんとコミュニケーションをとる時間がもっとほしいと思っています。

 患者さんからみれば、自分の後に何人もの待ち患者がいる状況では、気軽に質問もできません。疑問や不安を解決できないまま、わだかまりを蓄積させていくこともあるでしょう。

 良質な医療とは、最善の医療技術が提供されることだけでなく、患者さんがどれだけ納得し、満足できるかというということです。

 2016年度の診療報酬改定により、4月1日から、紹介状なしの大病院初診は5千円以上の追加料金が発生することになりました。これは、難しい医療技術だけを大病院に任せようという発想です。医療の質を、医療技術で考えている証左でもあります。

 また、厚労省はこのほど、2033年には必要な医師数を確保できるという推計を発表しました。この場合の「必要な医師数」とは何でしょう。2000年前後、3時間待ち3分診療、患者のたらい回しなどという実態の中でさえ、当時の厚生省では医師過剰論が大手を振っていました。この考えは2006年に撤回されたのでしたが、ここで本当に必要医師数が国民感情に基づいて議論されたのかは疑問です(2010年刊行、拙著「三流になった日本の医療」PHP研究所)。

 適切な医師数は、医療経済を直視しながら机上で決めるのではなく、病医院に (かか) っている国民や、現場の医師の実感を、広く (つぶさ) に精査して決めるべきものではないかと思うのです。

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」(青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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