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難病患者の家族、支援者の立場から 川口有美子

さよならを言う前に~終末期の医療とケアを語りあう~

【現状と課題】あなたの命を決めるもの

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テーマ:現状と課題

テーマ【現状と課題】あなたの命を決めるもの

 ALS(筋萎縮性側索硬化症)という原因不明の難病があります。10万人に4,5人の発症率。運動神経がやせ細り、数年のうちに全身が動かせなくなる。やがて呼吸不全に陥りますが、気管切開して人工呼吸器を装着すれば、今の医療介護技術の進歩のおかげで20年以上生きられます。でも患者のほぼ8割が呼吸器を装着せずに亡くなってしまうということ。その理由のひとつに、家族に迷惑をかけたくないということがあります。

 私の母、島田祐子も59歳(1995年)の時ALS発症。呼吸器着ける?着けない?のすったもんだの末、翌年96年1月に気管切開して呼吸器装着。その後の11年間をほとんど自宅ベッドの上で過ごしました。

 こうして私とALSとの付き合いは始まりました。介護保険前夜(開始は発症から5年後)で在宅人工呼吸療法の 黎明(れいめい) 期。介護制度と呼べるものは何もなく、33歳だった私は在宅医療の荒野に立ったスカーレット・オハラの心境で、 (すき)(くわ) のごとく吸引器と吸引カテーテル、経管栄養を操って、エンド・オブ・ライフ(人生の最終段階)畑のグレーゾーンを耕しまくってきました。

 そうして、かれこれ20年余。

 私の元に、半年ほど前のある日、日頃からお世話になりっぱなしのK先生からメールが届きました。

 「神奈川県A市の40代男性ALS患者、Mさんに長時間介護人を派遣してくれる事業所がないの……」。

 看護学部で教員をしているK先生は、Mさんの心のケアだけでなく現実的な療養についてもアドバイスしてきたそうです。

 国が定めたサービスなのに市町村が実施していないとか、気管吸引できる事業所がないとか。実際、こういった相談はひっきりなしです。それから市町村の福祉担当者の「態度」に関すること。意を決して相談に行った市役所の窓口で「困っているのはあなただけじゃないんです」と断られて、ショックを受ける患者家族は少なくありません。

 Mさんは自分でもA市に相談をしていました。すると市の障害福祉課は、これまで長時間介護の支給実績はないのだけれども、対応できる事業所さえ見つけてくれば、Mさんのお母さんが介護を交代して、毎晩お布団で眠れるように、夜間深夜帯から介護給付を支給すると言ってくれたのです。それなら東京からヘルパー派遣しますってことになり、さっそく弊社のベテランヘルパー、AさんとBさんを 抜擢(ばってき) しました。

 私が代表を務める訪問介護事業所、「ケアサポート モモ」(通称モモ)は今年で設立13年目。私の実家に事務所を置き、私の母を含む人工呼吸器ユーザー12~15名に24時間365日、ヘルパーを派遣して、大手が提供しない医療的な介護サービスや在宅 看取(みと) りなど、制度の隙間を埋めてきました。

 ALSの母をめぐる家族の葛藤は『逝かない身体』(医学書院)に記述しましたが、事業所モモの仲間がいなければ、母を自宅で看取ることはできなかったと思います。

 3月下旬、Mさんは気管切開に踏み切りました。呼吸筋の 麻痺(まひ) で息苦しくなり、 (たん) も自力で排出できなくなってきたのです。それで、つい先日4月9日に事業所の仲間とK先生の総勢5名で、Mさんの入院先にお見舞いに行ってきました。

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さよなら・その2-2-300-300シャドー

さよならを言う前に~終末期の医療とケアを語りあう~

 終末期医療やケアに日々、関わっている当事者や専門家の方々に、現場から見える課題を問いかけて頂き、読者が自由に意見を投稿できるコーナーです。10人近い執筆者は、患者、家族、医師、看護師、ケアの担い手ら立場も様々。その対象も、高齢者、がん患者、難病患者、小児がん患者、救急搬送された患者と様々です。コーディネーターを務めるヨミドクター編集長の岩永直子が、毎回、執筆者に共通の執筆テーマを提示します。ぜひ、周囲の大事な人たちと、終末期をどう過ごしたいか語り合うきっかけにしてください。

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2件 のコメント

どちらがよいのか

miyaken

人工呼吸器装着を選択するともう止めることはできません(もちろん100%ではありませんが)。そこで、人工呼吸器を装着した2割の患者さんの中で、人工...

人工呼吸器装着を選択するともう止めることはできません(もちろん100%ではありませんが)。そこで、人工呼吸器を装着した2割の患者さんの中で、人工呼吸器装着がその患者さんのQOLを著しく低下させた事例をご経験でしょうか。ぜひ紹介していただければと思います。

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難病でなくとも

てんじん

生死の判断を求められるのは難病ばかりではありません。だからこそ誰もが当事者となりうる身近な問題として考える必要があります。 我が父はかねてより慢...

生死の判断を求められるのは難病ばかりではありません。だからこそ誰もが当事者となりうる身近な問題として考える必要があります。
我が父はかねてより慢性の腎臓病を抱えていました。それが脳梗塞を発症して半身不随になり、その病状も悪化して病院から人工透析を勧められました。これが若ければ迷うことなく応じます。しかし、80半ばを越えた脳梗塞の身体に週4日の通院の負担はどうか、脳梗塞との関係で副作用は、それを老いた母をはじめ周囲がどのように支えられるか等々すべきかどうか悩みました。人工透析は聞くところによると一人年間600万円の医療費がかかるとか、一旦始めると途中では止められずその大半が国の負担になります。結局、病院もホームドクターも明確な結論は出せずに家族の判断に委ねられました。
どちらを選択しても家族にはこれでよかったのかと自問自答を迫られる。医療の進歩は命の選択肢を広げる反面で重い判断を本人家族に迫ることになったのです。

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