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男性不妊と向き合う…夫が原因でも治療主体は妻

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つらさ2人で共有する

 不妊の原因は男女ともにある。ただ、夫に原因がある 男性不妊 の場合でも妻は通常、採卵などを行う必要があり、心身の負担は少なくない。夫婦はどのように向き合えばよいのだろうか。

 北海道の会社員男性Aさん(32)は2011年7月に結婚した。子どもを望み、翌年、夫婦で検査を受けるとAさんの精液の中に精子が見つからず、「無精子症」と診断された。「びっくりし、落ち込みました」と振り返る。

 無精子症では、精巣で精子が作られていないか、極めて少ないことが多い。Aさんは、医療機関で精巣内の精子を回収する手術を受け、幸い精子が見つかった。

 これまで体外受精を3回行った。妻(28)は体外受精に向けて採卵を5回行った。採卵は卵巣に針を刺すなど、心身ともに負担が大きい。「なぜ、自分が痛い思いをしないといけないの。もう無理」。治療を始めてまもなく、妻は怒りを爆発させた。

 「2人で治療しようと決めたのに『無理』とは言ってほしくなかった」とAさん。「やめればいい」と返した。妻は「治療をやめる気はありませんでしたが、友人からの出産報告があると焦りが募ってしまいました」と話す。

 不妊治療を続けながら、2人でどうすれば楽しく過ごせるかも考えるようになった。「精子が見つかり最悪の状況は脱しました。夢に近づいている気がします」と口をそろえる。

 不妊治療を続ける関東地方の男性Bさん(38)も、治療を巡り、妻(37)とけんかになることがあるという。

 Bさんは12年7月、精巣周辺の静脈内にコブができる「精索静脈 りゅう 」が見つかった。血流が滞り、精子を作る働きに支障が出るとされる。静脈を縛って血液の逆流を止める手術を受けると、精子の量が増えて動きも活発になった。

 だが、妻は流産を繰り返す「不育症」で、出産まで妊娠を継続できるようにする治療を続けている。

 Bさんは「妻から治療の報告を受けた時に、つい受け流してしまうと、『2人の問題ではないの?』と責められます」と反省する。妻に、意見や提案をすると、「議論をしたいわけではない」と怒られるという。

 不妊治療クリニック「東京HARTクリニック」の生殖心理カウンセラー、平山史朗さんは「男性不妊の場合も不妊治療の主体は女性。妻のつらい思いを夫が理解できないと、妻はいらだちを募らせてしまいます」と説明する。

 夫婦が互いの気持ちを確認するのが普段の会話。平山さんによると、男性は会話の中で問題があれば解決しようと意見をするが、女性は自分の気持ちを理解してもらう機会と考えている。そのため、共感してもらえないと思うと妻は不満を感じてしまうという。

 平山さんは「夫は、妻のつらい思いを受け止めようと努めることが大切。妻は、怒っているのか悲しいのか、気持ちを整理して話すように心がけると、思いが伝わりやすくなります」と助言する。(利根川昌紀)

 男性不妊 
 何らかの原因で精子を作る機能に障害があるなどし、精液中に健康な精子がなかったり少なかったりする。精液中にはなくても精巣内に精子が存在することがあり、切開して精子を取る手術などが行われる。
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