泌尿器科医・小堀善友の新オトコのコト
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不妊克服へスマホで精液チェック
みなさま、埼玉県で泌尿器科医をしている小堀です。私は3月に留学先の米国シカゴから帰ってきたばかりです。シカゴでは、専門分野である男性不妊症の研究をしていました。
そこで、とあるアメリカの研究者が、インターネットを利用した精液検査をしていることを知りました。今はネットなどの新しい技術があり、それを医療にもいかすのは面白いと思い、その研究者のラボに見学に行かせていただきました。その時にピーンとひらめきました。
「スマートフォンで精子が撮影できれば、自宅で精液検査ができるかもしれない」
今や、世界で人が住んでいる場所の95%で携帯電話が使えることがわかっています。日本国内では100%に近いでしょう。スマホはどこでも使える小さなコンピュータであり、世界中につなげることができるインターネットのデバイスでもあるのです。
それから、スマホで精子を撮影する方法について、研究を開始しました。すると、非常に面白いことに気づいたのです。
顕微鏡の父もビックリの開発?
世界で初めて精子を発見したのは、オランダ人のレーウエンフックという人でした。彼は1677年に自分で作ったボールレンズという小さなレンズで、様々な発見を世界で初めてしたことがわかりました。例えば、ミジンコみたいな微生物や、血液中の赤血球、人や動物の精子を発見したのです。彼は「顕微鏡の父」とも呼ばれています。
そのボールレンズは、現在でも子供のおもちゃとして販売されていました。そこで、「そのレンズとスマホをつなげば、精子の状態を見ることができるのではないか」と考えました。
日本の研究者に協力していただき、トライ・アンド・エラーを繰り返し、たくさんの試作品を作った結果、精子をスマホで見ることができるだけでなく、ある程度の精子濃度を予想することができるボールレンズを開発できました。実はこのレンズ、「MEN’S LOUPE(メンズルーペ)」という名前で今月から商品化されています。
まさか、340年前に生きたレーウエンフックも、21世紀の機器であるスマホとの組み合わせで精子を見ることになるとは予想もしなかったでしょう。
早期治療への“気づき”を期待
さて、自宅でスマホを利用して精液のチェックができることで、どんな利点があるのでしょうか? 私はとても大きなメリットがあると考えています。
いまだ「不妊症の原因は女性にある」と考えている人が多いのが現状です。しかし現在、50%は男性の側に原因があることがわかっています。 ただし、そうはいっても、なかなか医療機関で精液検査を受けられない男性がいるのも現状です。
「まさか自分が不妊症だとは思っていない」、「仕事が忙しく、日中に病院を受診することができない」、そして極めつけが「男のプライドが邪魔をする」。オトコの側の事情はこんなところではないでしょうか。
しかし、精液検査を受けることができないことで、不妊治療の開始が遅れる可能性があります。不妊治療の成功率の最も重要な因子は「年齢」です。早く始めるのに越したことはないのです。
もし自宅で手軽に精液のチェックを行うことができれば、精子の数が少ないとわかった時にいち早く治療を開始することができます。このレンズを使い、スマホで動画を数秒撮影すれば、医療的な精液検査の大まかな結果を予測することが可能です。
私は、スマホを利用した精液チェックが男性の不妊症に対する意識を変えることができるのではないかと信じています。
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少子化対策に効果を期待
めざめたじいさん
ボールレンズを使うとは・・・ 遊びで、小型カメラに水滴をボールレンズとして使ったことがります。 子どもがほしいのに、授からないカップルがたくさん...
ボールレンズを使うとは・・・
遊びで、小型カメラに水滴をボールレンズとして使ったことがります。
子どもがほしいのに、授からないカップルがたくさんいらっしゃいます。
検査に行かずに、結果が分かる。
先生のような取り組みが、少子化対策になるといいですね。
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