ボンジュール!パリからの健康便り
医療・健康・介護のコラム
病気や危険と隣り合わせ…それでも気高く、したたかに生きる娼婦たち
少しずつ友人が集まり始めた頃、ドアのベルが鳴った。開けると、両手いっぱいに広げても持ちきれないほどの深紅のバラの花束が届けられた。カードが添えてあり、「階下のマダム一同より」と書いてある。そう、娼婦たちが誕生日のプレゼントとして何十本もの深紅のバラの花束が送ってくれたのだ!私は階段を転がるように下りていき、大きな声で「皆様、素敵なバラをありがとうございました!」と言うと、一斉に拍手が起こり「マダム、お誕生日おめでとうございます」と言われた。
何ということ、なんて素晴らしいこと! 私は彼女たちをパーティーに招待した。けれども誰一人、その招待を受け入れようとはしなかった。ちょうど仕事が終わり、私服になっている2人を半ば強引に招待した。「それでは少しだけ」といって、その2人が代表して招待を受け入れてくれることになった。
彼女らは、私の友人たちと決して打ち解けたり、話しかけたりすることはなかった。まだ包まれたままのプレゼントのバラの花束をみて、サブリナが「私は昔、花屋で働いていました。事情があってこういう仕事をしていますけれど、いつかは自分の花屋を持つのが夢です。ああ、お花が息をしたいと言っているわ」と言って、美しい手で花瓶に飾り付けてくれた。
彼女らは3人1組で24時間8時間交代で働いている。仕事部屋もその3人でシェアし、ボディーガードを1人雇っている。ボディーガードはポパイのように筋肉隆々で、仕事部屋があるアパートの階段の下の椅子に座っている。「ジミー、あとで新聞持ってきて」。客の様子がおかしい時、ボディーガードにのぞき穴を通して中の様子を見に行かせる合図の言葉である。ボディーガードの名前はほとんどが「ジミー」であり、ゲイである。
彼女たちには、マクロ(フランス語で
恐らく娼婦のOGであろう、私のアパートのすぐ下の階に住むマダムは、娼婦たちの犬を預かっている。その入り口での立ち話から、犬のこと、家庭のこと、病気のことや体のことなどを相談しているのが時折聞こえる。
娼婦たちはプライドも高く、決して客の言いなりになるわけではない。気に入らなければ見向きもしない。彼女たちをからかうような言動があれば、すぐさま無数の「ジミー」が出てきて、つまみ出されてしまう。娼婦たちは様々な病気や危険と毎日隣り合わせの生活を強いられている。それぞれの事情があり、私には計り知れないことがたくさんあるのだろう。
窓の外、屋根伝いに猫がのんびりと歩いている。娼婦たちは今も、パリのあの煙突の空の下、命を張って生きている。
■今週の一句
薫風や 母の笑顔の 美しき
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場所がパリなだけに、映画を観ているような気持ちで読ませてもらいました。 以前、トルコを旅した折に、エフェソスという大きな古代遺跡に行きましたが、...
場所がパリなだけに、映画を観ているような気持ちで読ませてもらいました。
以前、トルコを旅した折に、エフェソスという大きな古代遺跡に行きましたが、娼館への道しるべがあり、また、それがしっかり残っていることに、驚いたことを思い出しました。
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