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医療部発

医療・健康・介護のコラム

熊本の被災地で感じた医療者の底力

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「ガレージに造った仮設診療所で糖尿病患者の診療を開始した陣内秀昭院長(右前)ら病院、薬局のスタッフ」(5月2日、熊本市で)

「ガレージに造った仮設診療所で糖尿病患者の診療を開始した陣内秀昭院長(右前)ら病院、薬局のスタッフ」(5月2日、熊本市で)

 「医療ルネサンス 熊本の被災地で」(5月2~11日付掲載)では、3人の記者が交代で熊本での震災後の医療状況を取材してきました。

 最初の大地震の2日後に「本震」が起き、余震も続く中、「何度も地震に直撃した建物は大丈夫なのだろうか?」「もっと大きな地震が起きるのではないだろうか?」と熊本の皆さんの不安は尽きないのではないかと思いました。

 紙面ではご紹介できなかったのですが、たくさんの方々にお話を伺いました。

 震災で建物が被災した熊本市の 陣内(じんのうち) 病院では、4月16日(土)未明の「本震」のわずか2日後の18日(月)から裏のガレージに急ごしらえの仮設診療所を造り、診療を開始したそうです。約40年続く糖尿病専門病院で月に訪れる外来患者は約3500人。14日(木)夜の最初の地震で断水し、30人弱いた入院患者さんは、転院したり、帰宅してもらったりしていたそうです。

 糖尿病は薬が切れると大変です。「治療の中断を招くな」を合言葉に病院と連携する薬局の職員が総出で余震の中、物が散乱した病院から必要な機材を運び出し、外来を再開しました。

 当初は受け付けも会計もなし。幸い薬の供給が途絶えなかったので、とりあえず患者さんに薬を渡すことを目標に最初は3週間分、しばらくしたら1か月分渡したそうです。通常、病院で行う採血もなし。「細かい薬の調整はできませんでしたが、とにかく薬を届けないと」と陣内秀昭院長。「患者さんの顔、みんな思い出せるんですね。父の代から通っている患者さんもいますし。普段の様子がわかるので、体調の変化もわかります」

 陣内病院は、5月9日から病院での診療を再開したそうです。最近、「かかりつけ医」を持とうと言われますが、「かかりつけ病院」の底力を感じました。

 5月10日付の紙面で紹介した、熊本県美里町のくまもと 温石(おんじゃく) 病院では、訪問看護にも同行させていただきました。この病院では、隣接するサービス付き高齢者住宅の天井が落ちるなどして被災。入居者の転居先探しに職員が奔走する一方で、在宅担当の看護師やリハビリスタッフは、翌日から避難所や自宅にいる患者を訪問したそうです。

 同行させていただいたのは、結核性髄膜炎で脊髄を損傷した65歳男性のお宅。体が動かず、ほぼ寝たきりで、痛みもあり、服がこすれても痛むそうです。

 自力で動くことができない男性は「もしもの時の覚悟はできていた」と語ります。同居する息子夫婦や孫には迷惑をかけたくない。けれども、最初の地震では中学生の孫が背負って避難。2回目の地震の時には「もういい。家に残る」と言う男性に、息子さんが「おやじが出ないなら、俺も出ない」。お孫さんが背中を向け、「頼む」と言われ、家族7人、車中泊で過ごしたそうです。

 熊本地震では最初の地震の後、家に戻って2度目の地震で下敷きになり、亡くなられた方が少なからずいました。結果的にこの男性のお宅は被災しませんでしたが、家族の「生死を分ける」決断だったのだと思います。

 男性はリハビリを受けないと体力がぐっと落ちるため、病院からの切れ目ない訪問看護やリハビリを受けています。「なくてはならない、生活の一部」(男性)という在宅医療を、被災した医療職が支えています。

 熊本の皆さんが一日も早く、日常生活を取り戻すことを心よりお祈りいたします。

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【略歴】

館林 牧子(たてばやし・まきこ)

2005年から医療部。高齢者の医療、小児科、産婦人科などを取材。趣味は育児。

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医療部発12最終300-300

読売新聞東京本社編集局 医療部

1997年に、医療分野を専門に取材する部署としてスタート。2013年4月に部の名称が「医療情報部」から「医療部」に変りました。長期連載「医療ルネサンス」の反響などについて、医療部の記者が交替で執筆します。

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