医療部発
医療・健康・介護のコラム
熊本の被災地で感じた医療者の底力
「医療ルネサンス 熊本の被災地で」(5月2~11日付掲載)では、3人の記者が交代で熊本での震災後の医療状況を取材してきました。
最初の大地震の2日後に「本震」が起き、余震も続く中、「何度も地震に直撃した建物は大丈夫なのだろうか?」「もっと大きな地震が起きるのではないだろうか?」と熊本の皆さんの不安は尽きないのではないかと思いました。
紙面ではご紹介できなかったのですが、たくさんの方々にお話を伺いました。
震災で建物が被災した熊本市の
糖尿病は薬が切れると大変です。「治療の中断を招くな」を合言葉に病院と連携する薬局の職員が総出で余震の中、物が散乱した病院から必要な機材を運び出し、外来を再開しました。
当初は受け付けも会計もなし。幸い薬の供給が途絶えなかったので、とりあえず患者さんに薬を渡すことを目標に最初は3週間分、しばらくしたら1か月分渡したそうです。通常、病院で行う採血もなし。「細かい薬の調整はできませんでしたが、とにかく薬を届けないと」と陣内秀昭院長。「患者さんの顔、みんな思い出せるんですね。父の代から通っている患者さんもいますし。普段の様子がわかるので、体調の変化もわかります」
陣内病院は、5月9日から病院での診療を再開したそうです。最近、「かかりつけ医」を持とうと言われますが、「かかりつけ病院」の底力を感じました。
5月10日付の紙面で紹介した、熊本県美里町のくまもと
同行させていただいたのは、結核性髄膜炎で脊髄を損傷した65歳男性のお宅。体が動かず、ほぼ寝たきりで、痛みもあり、服がこすれても痛むそうです。
自力で動くことができない男性は「もしもの時の覚悟はできていた」と語ります。同居する息子夫婦や孫には迷惑をかけたくない。けれども、最初の地震では中学生の孫が背負って避難。2回目の地震の時には「もういい。家に残る」と言う男性に、息子さんが「おやじが出ないなら、俺も出ない」。お孫さんが背中を向け、「頼む」と言われ、家族7人、車中泊で過ごしたそうです。
熊本地震では最初の地震の後、家に戻って2度目の地震で下敷きになり、亡くなられた方が少なからずいました。結果的にこの男性のお宅は被災しませんでしたが、家族の「生死を分ける」決断だったのだと思います。
男性はリハビリを受けないと体力がぐっと落ちるため、病院からの切れ目ない訪問看護やリハビリを受けています。「なくてはならない、生活の一部」(男性)という在宅医療を、被災した医療職が支えています。
熊本の皆さんが一日も早く、日常生活を取り戻すことを心よりお祈りいたします。
【略歴】
館林 牧子(たてばやし・まきこ)
2005年から医療部。高齢者の医療、小児科、産婦人科などを取材。趣味は育児。
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