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高額新薬のジレンマ…高い効果 がん患者に希望、月260万円保険制度の危機

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高額新薬のジレンマ…高い効果 がん患者に希望、月260万円保険制度の危機

がん治療薬「オプジーボ」を調剤する薬剤師(東京都のがん研有明病院で)

 高齢化で膨らみ続ける医療費をいかに抑制するかが問題になっているが、最近、効果は高いが値段も高い新薬が相次いで登場し、このままでは公的な医療保険制度が崩壊しかねないという危機感が広がっている。

 ■ 総薬剤費の2割

 「この新薬は、私にとって大きな希望だ」

 進行した肺がんで治療を続ける横浜市の長谷川一男さん(45)はこう話す。昨年12月、肺がんに保険適用が拡大された「オプジーボ」。治療が難しい進行・再発肺がんの生存率(1年間)を従来の薬の39%から51%に押し上げた。今後の治療に展望が開けた思いがした。

 だが、体重60キロの患者の薬剤費は月2回の治療で計260万円。日本赤十字社医療センターの 国頭くにとう 英夫・化学療法科部長は先月、進行した肺がん患者5万人が1年間使うとすると、年間薬剤費は1兆7500億円になるという試算を公表した。医療機関で処方される薬剤費の年間総額(8・5兆円)の2割にも上る。

 高額の薬を使った場合の患者の負担額は月に数万~数十万円だが、残りは税金や加入者が払う保険料から支払われる。高齢化で財政は火の車。「(がん治療薬で)数か月や1年延命する時の費用をどう考えるか。タブーだった議論をしなければならない」。日本医師会の中川俊男副会長は先月の記者会見で薬の承認や保険適用の仕組みの見直しを国に求める考えを示した。

 ■ 開発コスト増大

 高いのは、オプジーボだけではない。昨年、保険適用になったC型肝炎の新薬は、効果を確認する臨床試験(治験)で全員が治るという驚異的な結果を出したが、当初価格は1錠8万円(現在は5万4000円)。

 海外の薬にも高額なものが多い。国立がん研究センターが今後、日本に入る可能性がある海外のがん治療薬の1か月の薬剤費を調べたところ、1900万円を筆頭に100万円を超す薬が23種類もあった。

 高騰の背景には、新薬開発コストの増大がある。日本製薬工業協会によると、2014年度の国内の製薬大手10社の研究開発費は平均1337億円で、10年前の倍以上。薬の生産も遺伝子操作や細胞培養など製造工程が複雑になっており、以前よりコストがかかる。

 厚生労働省は今年度から、売上高が予想外に伸びて年1000億円を超えた「ヒット新薬」については、もうけが一定以上出たとみて、価格を下げる制度を導入。さらに、オプジーボなど高額な7種類の新薬については、適正な価格を探るため、既存の薬との価格差が延命や生活の質の改善などの効果の差に見合っているかどうかをみる「費用対効果」の分析を開始した。

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 ■ 「対策すぐに」

 国頭部長はこうした対策では不十分と考える。「例えば75歳以上に延命目的で薬は使わないなど、使用を抑える方法を真剣に考える必要がある。実効性のある対策をすぐにとらなければ保険制度は崩壊し、しわ寄せは若い人にいく」

 だが、全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長は「年齢で一律に治療を制限することは、では何歳からだとか不毛な議論を生むだけで危険だ」と反論する。

 薬の使い方では、複数の持病を抱える高齢者に過剰な投薬が行われ、副作用で体調を崩したり、大量の飲み残しが発生したりする問題も起きている。

 肺がんの治療を続ける長谷川さんは6年前、「余命10か月」と宣告されたが、様々な抗がん剤が功を奏し、家族4人で暮らしている。「他に手がない患者に新薬を使わせないという短絡的な方法ではなく、真に必要な患者に薬を届けるにはどうするか、国民全体で議論してほしい」と訴える。

海外でも苦悩…費用対効果を算定、対象者を制限

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 高い薬の登場で、医療費の膨張に悩んでいるのは日本だけではない。

 英国は、1999年に設立された国立医療技術評価機構(NICE)が「費用対効果」を算定し、新薬などを公的医療の対象にするかを決めている。従来の治療に対し、新薬を使った場合の年間治療費の増加分を原則最大3万ポンド(約470万円)までとしている。

 この方式の導入後、世界的に使われるがん治療薬や認知症薬などが対象外となり、公的医療での治療を受けられなくなった患者や家族が反発、訴訟が相次いだ。

 こうした事態に、英政府は2011年、特に要望が強かったがん治療薬について基金を設立。年間約2億ポンド(約310億円)の予算をつけ、公的医療の対象外となった薬の費用をカバーすることにした。ただ、高額な新薬の続出で財源の確保が追いつかず、今年7月に中止される予定で、患者らの不安は高まっている。

 診療行為に費用対効果を導入し、コスト抑制を行う国も多い。スウェーデンでは、種類の多い高血圧や高脂血症などの治療薬に対し、副作用で従来の薬が使えないなど、高額な新薬を使う人を限定し、それ以外の人には安価な従来薬を使ってもらう。これに反して新薬を使うと、公的医療で給付されない仕組みだ。こうした医薬品使用の制限は欧州各国やカナダ、オーストラリアも採用している。

 <医療保険制度>

 国民に公的な医療保険への加入を義務づけており、患者は実際にかかった費用の原則1~3割を負担し、治療や検査が受けられる。医療費は年間40兆円を超え、9割近くは医療保険の加入者からの保険料や税金で賄われている。高齢化や医療の高度化で、10年後には約60兆円になるとの試算もある。

 (医療部 米山粛彦、社会保障部 本田麻由美)

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