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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

貧困と生活保護(31) 行路病院・ぐるぐる病院の「患者転がし」

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4000人以上が「頻回転院」

 各方面から指摘を受けた厚労省はようやく、「頻回転院」という表現で、この問題の実態把握に乗り出し、生活保護を担当する自治体に対処を求めるようになりました。

 14年度分の実態調査の集計によると、90日間に居宅に戻ることなく2回以上続けて転院があった医療扶助の患者は、全国で4057人にのぼります( 16年3月3日の社会・援護局関係主管課長会議資料 のうち保護課分)。都道府県単位の数にして多い順に並べると、次の通りです。

大阪1287、福岡378、東京373、北海道263、愛知169、兵庫136、千葉127、神奈川113、愛媛92、鹿児島91、岡山87、埼玉84、高知80、京都68、熊本67、山口59

 圧倒的に多いのは大阪(うち大阪市1073人)で、大都市圏が中心ですが、地方でも頻回転院はけっこうあることがわかります。

 しかも、4057人のうち2720人(67%)は、病院から福祉事務所への書面連絡が転院よりあと。つまり、病院間で勝手に転院を済ませてからの事後報告か、転院直前の電話連絡でした。

 ただ、90日間に2回以上の転院という定義が「ぐるぐる状態」の患者数を本当に示しているかどうかはわかりません。通常の医療でも急性期からだと90日間に2回転院は珍しくないですし、他科受診のため一時的に転院した事例もカウントされます。逆に「ぐるぐる状態」で90日間に1回しか転院しないこともよくあるので、実際は4000人よりずっと多い可能性もあります。

入院したら、ほったらかしの福祉事務所

 厚労省は、14年8月20日の保護課長通知で、自治体に次のことを求めました。

<1>転院にあたっては医療機関から、転院が必要な理由や転院先を事前に福祉事務所へ連絡させる

<2>福祉事務所は、転院の必要性について嘱託医と協議しながら検討する

<3>福祉事務所は、レセプトを点検して、その医療機関で適切な医療が行われているか検討する

<4>医学的判断に疑義があるときは都道府県の本庁に助言を求める

<5>都道府県・政令市・中核市は、必要に応じて医療機関に個別指導を行う

<6>頻回転院患者の実態把握を行う

 総務省の調査に基づく勧告を踏まえたものですが、実はずっと昔、1973年の保護課長通知でも、病院からの事前連絡、福祉事務所による検討を求めていました。また、特別な必要があるときを除いて都道府県域をまたぐ転院は不適当だとしていました。それらが、ろくに守られていなかったのです。

 どうしてなのか。総務省による福祉事務所への聞き取りでは「2週間、1か月以内という短期間の転院もあり、訪問による病状把握や本人の意思確認ができない」「転院の必要性は主治医の判断で、福祉事務所にそれを覆すだけの医学的知見はない」「他の都道府県にある医療機関には指導権限が及ばない」といった釈明が出ていました。

 より本質的な背景を考えると、「入院中の患者は病院にまかせておけばよい」という感覚の福祉事務所、ケースワーカーが多いからでしょう。医療を受けさせているのは良いことだとみている。住まいを確保して退院を支援するのは手間がかかる。長期入院患者への訪問は原則6か月に1回でよいが、居宅保護に移れば月1回の家庭訪問が原則になる。要するに、入院していれば、ケースワーカーの労力がかからないからです(そのかわり費用はかさむ)。

 退院支援に力を入れないのは、ホームレス状態の人に対する差別的な見方もあるかもしれません。

 かつて大阪市では、住まいのない人が退院する場合、施設入所でなければ保護廃止という運用で、居宅保護への移行を認めていませんでした。居宅移行の敷金支給は98年からポツリポツリと始まり、04年からは積極的に支給するようになりました。その結果、同市のホームレス状態の入院患者数は、かなり減ってきたのです。そういう教訓を生かすべきでしょう(それでも全国的に見れば、大阪市の頻回転院患者数は、まだ群を抜いて多い)。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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